第41話 ゴースト
「それで、私の所に来たんだ」
放課後、ガリウスは指導室でマリエルと話をしていた。この場にいるのは2人だけだ。気になっていたはずのリースはカミラと一緒に下校してしまい、ジョージには先生に呼ばれたからと理由を付けて帰らせた。
「こういうの詳しいですよね」
昨日のエリアスが甦ったという話を話せば、彼女ならば何かしらを知っていて、新しい情報が分かるかもしれない。
「期待されちゃった」
「あー……それで、人が甦るってあるんですか?」
ガリウスの転生は例外中の例外。
これはエリアスとは色々と話が変わる。
「甦ると言うのは適切じゃないかな」
人差し指を立てながらマリエルが言う。
「えーと、その人はね〜。生き返ってないんだよ」
「は?」
「説明するからね。……この現象によって生じた彼らを悪魔はゴーストって呼んでたの」
ゴースト、詰まる所幽霊というもの。だが、彼らには実体がある。触れることもできる。
「と言っても珍しいことでね。特にこんな町の中でゴーストが出てくるってのはす〜っごい珍しいの」
町では現れない。
しかし、悪魔はゴーストと呼称した。彼らは何処で目撃したのか。可能性として考えられるのは戦場での発生だ。
「ゴーストは人が死んだ後にごく稀に出てくるんだけど……」
マリエルはズイとガリウスに身体を近づける。机の上に胸が乗りそうなほどの前屈み。
「本人じゃない」
「本人……じゃ、ない?」
では何故エリアスは愛の力での甦りだとしたのか。本人ではないというのに、愛の力など。
「本人ではないけど生前の記憶がある。ゴーストの行動理念は執念なの」
こうしなければ死ねない、やり残したことがある。そんな生前の気持ちを引き継いでゴーストは活動するのだと。
「じゃあ、あの人は……」
一体、何を目的に。
どれほどの執念で。
「……愛故に、と言うのは間違いじゃないのかもね」
エリアスのゴーストは妻のラヘルを遺すことが不安で仕方がなかったのか。守りたいと思ったのか。愛という執念が実際にエリアスのゴーストを産んだというのか。
「でも……それだとラヘルさんは」
エリアスの身体でエリアスと名乗る記憶を持った別の誰かを思い込んでいるという事になる。
「ガリガリくん。そのゴーストも奥さんに嘘を吐く事にしたんだよ。何せこれも彼女を守るという事に繋がるんだから」
ゴーストはエリアスの願いに応える。
忠実に妻であるラヘルを誰からも守るために。
「……害はないんじゃないかな?」
話を聞く限りでは確かに誰かを害するような存在とは思えない。ならばわざわざ手を出す必要もない筈だ。
「はー……ま、今回もありがとうございます」
「いいよいいよ。気にしないでよ、ガリガリくん」
ニコニコと笑うマリエルに若干の気味の悪さを覚え、ガリウスは椅子から立ち上がり指導室を出ようとして腕を掴まれる。
「待て待て〜」
「な、何ですか……」
正直、ガリウスが聞きたいことはこれ以上ない。また何かがあれば世話になるかもしれないが、それは別の話だ。
「私とガリガリくんの仲じゃ〜ん!」
「どんな仲だよ!」
「え〜、家まで入ったことあるのに?」
「半ば無理矢理だった気がするんですけど……」
腕を掴んだままマリエルはガリウスの隣に来て1つ提案をする。
「まあまあ、偶には遊びに行こうよ!」
「……遊び、ですか?」
「服を買いたいんだよね」
「……遊びって言いましたよね?」
単純に彼女がやりたいだけだ。
「いいじゃん。ほら、私のお陰ってのもあるんだし」
そう言われてしまっては弱い。
「はぁ……分かりました」
彼女に助けられた覚えが多いのも事実。ガリウスも断る事ができない。
「やった、決定〜。ガリガリくん。覚悟しなよ、これからね」
「え?」
ガリウスはマリエルの言葉に素っ頓狂な声を漏らす。
「ほら、指導室閉めちゃうから出た出た」
マリエルに右腕を引かれて教室の外に出る。
友人の恋愛に巻き込まれて死んでしまった男、異世界でのリベンジを誓う ヘイ @Hei767
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