第17話 不安定な数字
祖母が退院して今まで通りの生活に戻った。
祖父母と猫の2人1匹での生活。
穏やかな毎日。
時々喧嘩もあるけど。
母と相談し、今後緊急入院することのないように祖父母の血圧や脈拍、酸素濃度を毎日付けるように決めた。
また、祖母が緊急入院した時の顔の浮腫加減を写真に撮っておいたので、それも母と共有し少しでもおかしい様子なら病院に連れていこうと決めた。
朝と夕方に血圧等の測定。
それをLINEで祖父が私と母に報告をする。
毎日の宿題のようなものだ。
もちろん、家庭で測る機械は病院の機械のように機能がすごく高い訳ではない為、多少の誤差や変動はあったが、やらないよりはマシだと思い始めた。
退院して2週間後。
少し顔が浮腫み、酸素濃度が低かった。
時折肩で呼吸をするような仕草もあり、母と祖父と相談し病院に連れて行った。
時間外だったので、救急で連れていき検査や診察で2時間待ち。
なんだか嫌な感じもしたが、看護師さんから呼ばれるのを待ち続けた。
しばらくして、「ご家族の方お入りください」と看護師さんに案内され、中に入るとそこにはベッドに横たわる祖母がいた。
オキシメーターを付けられ、胸に何枚かのパッドが貼られた祖母を見て、3人揃って再入院だと思った。
「ゆきこさん、皆さんお呼びしましたよ」
看護師さんが声をかけると、眉間に皺を寄せて祖母が口を開いた。
「私入院したくない!家帰る!」
そう言って顔をぷいっと反対側に向けた。
突然勢いよくそう言うのだから、何が何だか理解できない私達。
頭の上にハテナを浮かべながら、3人揃って看護師さんを見る。
「あはは、、、ゆきこさんさっきから入院だけは嫌!と言い切って、、、でも数字的にも状態的にも、正直再入院してくださいと言いたいところです。しかし、本人の意思があまりにも強いので、、、」
「すみません、、、」
3人同時にとっさに出た一言がこれだ。
やれやれ、、、頑固だからなぁ、、、という表情も揃っていた。
「私入院したくないもの。コロナで皆にも会えないし、お家の方が好きなのよ。もう入院なんて嫌!!!」
おいおい、、、看護師さんやお医者さんが、あんなにもゆきちゃんの事を考えて治療してくれた2週間前を覚えているか、、、?と私は半笑いで思った。
すると、失礼しますという声と共に先生が入ってきた。
「ゆきこさん、どうかな?このままだと再入院して欲しいんだけど、、、」
申し訳なさそうに先生が聞く。
「先生!ちゃんと言うこと聞くから、お家に帰りたいです!気をつけることはみんなに伝えてください!」
素晴らしい位に、帰りたいの一点張り。
ははは、と笑った先生は私達に言った。
「本人もこう言っているので、、、今日はお家に帰します、、、。」
ニカッとこっちを向いて笑う祖母に、母の鋭い視線がビームのように飛ぶ。
「少し酸素濃度が低いのは、心臓が肥大して肺を圧迫して呼吸がしづらいのが原因のようです。心臓を元の状態に戻すには、心臓の浮腫をとります。なので、お家ではなるべく水分を取って塩分はかなり控えてください。お薬もそれに合わせて、今日少し変更します。」
すみませんと言いながら、3人で話を聞いた。
それからしばらく、先生から注意点を聞き今回は特別に帰してもらった。
さっきまで、「帰る!!!」と言っていた祖母も先生からの許可が出ると満面の笑みで「先生、ありがとう」と伝えた。
それから、外に出るまでにすれ違った看護師さんにも「お世話になりました」とぺこぺこしていたが、私達も「すみませんでした」と後ろでぺこぺこしていたのを、祖母は知らない。
車に乗り、満面の笑みで「良かったねぇ〜」と言った祖母を3人揃って、はいはいという表情で見た。
頑固な祖母には誰も勝てない。
帰宅すると母が祖母に、塩分を控えて水分を摂ること、動きすぎると心臓がドキドキするからじっとしている事、をしっかり伝えながら、切ったバナナを食べさせていた。
「私も、おばさん(私の父の母)みたいに長生きするのかなぁ〜・・・」という祖母。
間髪入れず、「長生きしてくんないと困るわ!」という母。
母が呆れているのに気付いた祖母は、私の方を見てニヤッと笑った。
どうしても私は祖母のこういう顔を見ると、笑ってしまう。
母にバレないよう、祖母に笑いかけた。
祖母は嬉しそうだった。
それから、病院から連絡があり心臓の病気は通院が大事との事で、専門の病院に月1で通院するよう案内され、今では私が祖母の通院係になり薬の管理をしている。
私は祖母の体のケアをするために、必死で薬の効果や注意点を覚えているのだが、祖母は毎月私と行く病院が楽しみだと言うのだ。
まったく、手のかかる可愛い可愛い祖母だ。
母にそう言うと、「甘やかすな!」と怒られるので黙っている。
どうも私は祖母には甘々なのだ。
83歳、祖母の気持ち。 み。 @msk2583
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