第16話 祖母との再会

2021年4月13日 AM7:00。

目覚ましの音と共に飛び起きる。

私は昔から寝起きが良いので、目覚ましの音でスっと起きるが今日は飛び起きた。

祖母の退院の日だからだ。


10時に病院に着くよう向かうから、8時半には家を出て祖父のもとに行って、部屋の掃除をして少し休憩すれば、出発時間になるから・・・


なんて、朝起きて1分もしない内に今日のスケジュールを立てた。


予定通り8時40分には祖父の家に到着。

退院に必要な書類をまとめ、家の中全部を掃除した。


特に、いつも祖母が座っている椅子とお昼寝マットは念入りに掃除した。

2週間も入院して、心身共に疲れているだろうから少しでも家でリラックスしてほしかった。


病院に向かっている最中、祖父に「入院中の支払いもしないといけないから、お願いしていいかい?」と言われ、病院について精算しに行った。

祖父は足腰が弱いため、待合広場で座って美人な看護師さん探しをしていた。

いつも通りの祖父で笑ってしまった。


それから、祖母の入院していた階のナースステーションに行き看護師さんに伝えると、「ゆきこさん、今支度しているのでこちらでお待ちください」と外の景色が見える待合室に案内された。


祖母は毎日何もせずこの景色を見ていたのか、と思うと本当に退屈だったろう。


祖母が来るまで、薬剤師さんが来て今後の薬について等詳しく説明をしてくれた。

メモをとりながら聞いていたら、「分からないことがあれば、病院にお電話して頂いても大丈夫ですよ」

ここの薬剤師さんや看護師さんも、コロナ禍で忙しいのに皆本当に丁寧で優しい方ばかりだ。

「ありがとうございます」と薬剤師さんの笑顔につられて、笑って答えた。


それから30分程度して、看護師さんの元気な声が聞こえた。

「ゆきこさんのご家族の方、お待たせしましたー!」


超高速で後ろを振り返ると、驚いた。

祖母が車椅子に乗って、看護師さんが祖母の車椅子を押して来たのだ。

一瞬車椅子に乗っている祖母を見て、ショックを受けたが直ぐにその気持ちは変わった。


よく見ると、車椅子に乗った祖母を先頭に後ろに2人も看護師さんが荷物を持って着いてきてくれた。

それも大量の荷物。

入院準備をした母は、引越しレベルの荷物を病院に持ってきていたのだ。

荷物をまとめた計5つの大きな袋を、祖父母に持たせる訳には行かない。

そんな事を考えながら荷物を見ていた。


そしてそのまま目線をずらし、祖母を見る。

今まで使ったことのなかった杖を足元でくるくると回しながら、私の顔を見た祖母は言った。

「あぁ?!」


私が来ていて驚いたのだろうが、第一声がこれなのだ。

昔の勢いが戻ってきたと思って笑ってしまった。

そして1番言いたいのはその容姿だ。

看護師さんを3人も連れてきて、車いすを押してもらっている本人は長年ここの頭をやっていますみたいな顔をしているのだ。


これには祖父も笑っていた。


看護師さん達にありがとうございますと伝えると、車椅子の押し方について教えてもらった。

「結構重たいので気をつけてください〜!小回りきかないので、余裕を持ってゆっくり押すのがいいですよ〜!」


確かにかなり重い。

祖母が辛くないよう懸命に押していると祖母が一言。

「みーちゃん!上手に押せよぉ〜?」


あれだけ車椅子を嫌がっていたのに、上手に押せと指示までしてきて私はまた笑った。


しかし、車椅子を押しながら5つの荷物を運ぶのはさすがに危ないと思い、1度荷物を車に入れてから祖父母の元に戻った。


「みさきさんありがとう」

祖父が言う。

「みーちゃんどこ行ってたの?」

祖母が言う。


あぁ、いつもの2人だ。と思いながら、私は嬉しくなった。


祖母を車に乗せて、直ぐに私は母に電話をした。

母は祖父母の家で祖母が生活しやすいよう、家具を動かして簡単な模様替えをしていた。

母も祖母の退院が嬉しかったのだろう。

声がどこか嬉しそうだった。


しかし、祖父母が帰宅して1番喜んでいたのは飼い猫だった。

玄関で帰ってくるのを待ち、祖父母が玄関を開けると寂しかったよと言わんばかりに、足元でスリスリしていたのだ。


「アンタ、何してんの?」と飼い猫に向かって言っている祖母を見て、猫の寂しさを全く分かっていない鈍感さに更に笑った。

それを見て祖父も母も笑い、猫だけが一生懸命ニャアニャアと甘えた鳴き声をあげていた。


祖母が帰ってくると、皆が笑顔になる。

私はこの日の事を死ぬまで忘れないだろう。

病人らしくない祖母。

そうだ、これこそが祖母らしさだ。

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