第3話 免許皆伝


『おい、どうしたんだ。しまりのないやつだぜ』


『ひっひっ。口の中に何かはいって、ひっ、ひひひ~』


『なんだよお、どうせハチかなにかだろ。くっちまいな!』


ながまる顔のライオンにそう言われ、


まる顔のライオンは、なんどもキバをならした。



[カッチン、カッチン、カッチン、カッチン]



『ダメだ、うごきまわる』


『もっとはやくキバをうごかせ!』



[カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、]



『はぐきにへばりついた』


『つぶしちまえ!』



[カチカチ、カチカチ、カチカチ、カチカチ]



『あぁ、のどまではっていく』


『いきとめて、ちっそくさせろ!』



[カチ、カチ、うぅ~ん]



『あ~あ、キゼツしやがッたぜ。

 うっ、やべえ、こんどはオレの口の中にはいりやがった』



こうして、ライオン5頭(ごーとう)団は、


次々にキゼツしていき、


とうとうのこったのは四角い顔のライオン1頭だけになった。



四角い顔のライオンは、


口の中に入っただんご虫を首を左右にふり続けて吐き出し、


前足で踏みつけた。



『やるな、ちびのくせに。おまえはなにものだ?』


ライオンの前足の下から、はっきりと声が聞こえた。



『にほんのだんごむしだ。ときに、ライオンよ、こんなことできる?』


ライオンは、気になって前足をあげてみた。



その時、風がふいて、


ライオンのたてがみが東から西に流れた。


ライオンが風上へ振り向いた時、



『サイ・サイ・サイころん!』



宙に飛ばされながら気が遠くなりかけたライオンの耳に、


最後にこの言葉が聞こえた。




サイとだんご虫は、


帰りがけにキリンのところへ立ち寄った。



そうして、その日の夕方、


だんご虫の先生は、真っ赤でまんまるい夕陽が沈むのを、


キリンの頭の上から、好きなだけ、ながめることができたんだ。




それから3年後、



『こんなことできる?』



通りがかりのシマウマの前で、


サイは、地面であお向けになり、


ぎにゅうっと、大きな体をちぢめて、まるまった。



『きみにもできるよ。ほーら、こんなにまんまるい』



シマウマは、ゴクリとツバを飲みこんた。



[完]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイ・サイ・サイころん! 夢ノ命 @yumenoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ