第208話 僕にとっての家
ガチャン…
「あー酔っぱらったあ!!」
「もう柳さん。」
「…変な一日だったなぁ。
昼に急に柳から電話あって話があるって言われたら…、お前とセットで急に現れて。
そしたらなんか…失ってた記憶が…わああ!!
って怒涛のように甦って。」
「ふふ!、………」
僕は、帰ってきた。
門松さんの家に、柳さんと共に。
古い鉄の玄関ドアを開けると…、すぐ右に小さな下駄箱があって。…その上にはキーケース置きの小さなお皿があって。
古い木の廊下の途中にはトイレと風呂場があって。
更に行くと透けガラスの引き戸があって。
それを開けると…、左にキッチンがあって。その奥には冷蔵庫があって。
「………」
このリビングで僕は、二人と何度もご飯を食べた。悩みを聞いてもらった。
何度も、何度も、…何度も。
「……お帰り。」
「!」
「お帰りオルカ。」
門松さんは全てを思い出しても、僕を責めなかった。
彼らしく天然にオーバーアクションで驚いたが、決して怒らずにいつも通り優しく笑ってくれた。
そして今、やっと僕にそう言ってくれた。
この場所で僕は手紙という形でお別れを告げた。
『行ってきます』と。
それに答えるように、この場所でお帰りと言ってくれた。
「……なーに泣いてんだよ?」
「ごめっ…門松…さん!!」
「…なーに謝ってんだよ。」
僕は日本で生きていく。
門松さんと柳さんの居るこの土地で、生きていく。
ギルトとジルも、海堂さんとツバメさん、モエちゃんも。そしてロバートさんとシスターも。
きっと障害なら、あるだろう。
苦労も苦悩も、あるだろう。
けれど僕は、門松さんが…柳さんが、変わらず笑ってくれるこの土地で生きていくんだ。
オルカは涙を拭い、門松に最高の笑顔を向けた。
門松は柳を布団に寝かせながら、軽く鼻をすすった。
「また、…帰ってきてもいいですか?」
オルカの言葉に門松は少し目を大きく開け、フッと口角を上げた。
「…いつだって帰ってこい?」
「…!」
「ほら、お前が使ってた合鍵。」
ポン! パシ!
「………」
「…まっ!、お前が来た時に俺が家に居る保証はないがな?」
…門松さんはきっと、分かって言っている。
わざと、敢えて、また門松さんと共に暮らしたいと申告した僕の言葉を、濁している。
その理由はきっとこうだろう。
『もうお前の隣に俺が居る必要はないだろう?』
『だってお前にはもうカファロベアロの皆が居るんだから』。
『お前の本当の家族を、仲間を、大事にしろ?』。
…確かにそうだ。
僕はもう門松さんに、柳さんに頼らねば生きていけない訳じゃない。
僕にはもう立派なDNA登録や籍、人権があり、就業も賃貸の契約も、全て自分自身で行える。
確かにもう、二人に頼る必要は無い。
「……」
「あ。…ほら化石?
ロバートさんやっぱいい奴だったなぁ?」
……だから、なに?
「…門松さん。」
「んー?、もう寝るか?」
「僕は門松さんと一緒に暮らしたいです。」
「…!」
門松は目を大きく開けた。
21才になったオルカの言葉は、もう右も左も分からない子供の言葉ではなかった。
「僕が、一緒に、暮らしたいんです。」
「…待…、…そりゃ、嬉しいぞ?
だがお前の仲間は日本にも不馴れだし…、ハッキリ言ってそこまで御膳立てしてくれんでも俺は」
「僕は!、門松さんと!、一つ屋根の下で暮らしていきたいんです!」
「!」
「嫌なら、そう言ってください。
…僕の意思は伝えました。」
門松が半ば放心する中、オルカはクスッと笑い自分の個室を開けた。
18才の自分はこの六畳程度の部屋を狭いと感じず暮らしていたが、今となってはとても狭く感じ、ついクスクスと笑ってしまった。
「…お休みなさい門松さん。」
「お、…おーう…。」
「ふふ!」
門松は苦笑いしながら頭をカシカシと搔き、言うようになったじゃねえか。…と自分の個室に入った。
硝国のカファロベアロ ファーアウト @far-out_888
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