これからもずっと、いい日でありますように。

 儀式の日。


 オレは子守りとしてはお役御免になってしまうけれど、さまが取り計らってくれたおかげでとしてさまのそばに付き添い続けることが許された。要は、芽衣さんたちと同じような立ち位置へと格上げとなる。別に珍しい例ではなく、よくある話らしい。オレとしても第三御所での生活は楽しいし、これから元の生活に戻れと言われても「そこをなんとか」と食い下がるつもりだったので助かった。


 さまのそばにいたい。


 目を離したら、あの仮面を外して、このとっても安全な場所第三御所から逃げ出して、誰にも見つけられないような場所空想と虚構が織りなす本の世界に飛び出して、二度と帰ってこないだろう。



χ未知数日目】



 さまが地母神となり、χ日が経った。相変わらず、さまは人前でホッケーマスクを外さない。常に人々が求める〝理想の神〟としての立ち振る舞いを強いられるので、第三御所に帰ってくるときには「うぼああ」という奇声を発して玄関で倒れてしまう。それを芽衣さんとオレとで奥の部屋まで運ぶのが毎日の業務の一つ。


「まったくだらしない。こんな姿を見せたら、先代からしごかれますよ」


「いやだぁ……ママには言わないで……」


 ここではこんな調子だが、立派に地母神としてのお役目を果たしている。まだ新人なのでたまに先代であるさまの母親が代行することもあるが、それもやがて少なくなって、ゼロになり、堂々と歴代最強の地母神さまとしてこの地域に君臨することとなるのだ。


 地母神さまは本来、第一御所で寝泊まりして第一御所と『地母神運営事務局』が切り盛りする〝神殿〟とを行き来する生活をしなければならないが、さまは――神殿からもっとも遠い場所にある御所である――この第三御所に帰ってくる。


さま」


「それ、ここではやめない?」


 オレと芽衣さんが異口同音に「「は?」」と返してしまう。ボケているわけではない。芽衣さんもボケるつもりはなかったと思う。さまはホッケーマスクを外すと「地母神としてのわたしではなく、このわたしを見てほしいっていうか」としゃべりながらほおをかいた。


「それなら、なんとお呼びすれば」


 芽衣さんは戸惑いつつも、対応してくれるようだ。

 この地域に『地母神運営事務局』が作られてから、いろは歌にならって、三代目だから〝〟さま。


御手洗みたらし……いや、御花見せんせが決めて」


「御花見せんせはにいちゃんですよ」


 オレがごまかすと、さまはムッとした表情で「いつまでもだまされないからなー! 地母神なめんなよ!」と噛みついてきた。


「実は、御手洗くんが席を外しているときにさまから指令を下されまして、御手洗くんのパソコンを調べさせていただきました。申し訳ございません」


 芽衣さんに謝罪される。神こわい。いつからバレていたんですか。バレていたならバレたタイミングで言ってほしかった。


「では、ナミで」


「その心は?」


さまが波って漢字を使うからです」


「おっけ! 安直だけどそれでいこう!」

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神のMany Manny 秋乃晃 @EM_Akino

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