佐野菜奈実

スクールカースト、という言葉がある。

その題材を取り上げたドラマや映画、漫画はごまんとある。ここ最近目にした作品の中でも飽きるほど取り上げられていた。


私は、スクールカースト「上位」の生徒に顎で使われるような生徒だ。


彼女たちは「下位」の生徒をどこか馬鹿にしており、下品な笑い声混じりに「いじり」と称した暴言をぶつける。

その度、「下位」の生徒たちは唇を結んでその「いじり」に耐え抜くのだ。それを周りに「いじめ」だと察されないように笑いながら。


でも、私は「下位」ではない。

「いじり」に耐え抜く力もなければ、ましてそれを笑ってやり過ごすなんて惨めな真似は私にはできないと思っていた。だから、顎で使われても貼り付けたような笑顔を浮かべて「上位」の彼女たちについて回った。



「ねえ、なな」


嫌いな古典の教科書を読み上げる声が少しずつ遠ざかって、夢の世界へ片足を突っ込み始めた時、後ろの席のさくらちゃんが私の肩をトンと叩き、小声で呼びかけてきた。はっと傾きかけていた頭を元に戻し、体を後ろに向ける。

八代さくら、彼女は高校に入ってから2年間同じクラスである。そして、彼女は入学からずっと「上位」である。


「なに?さくらちゃん」

「購買のパン、今日から新商品出るって知ってた?」

的確な回答がすぐに頭に浮かぶ。

「私、今日お弁当持ってきてなくて購買でパン買うから、一緒に買ってこようか?」

さくらちゃんは目を細めてにこりと笑う。

「なな、いつもごめんね。新商品楽しみにしてたから、すごい嬉しい。ありがとう」

「ううん、ついでだし大丈夫だよ。それより、眠すぎるから指されたら起こして」

そう言って正面に向き直し、突っ伏した机の横に掛けてある鞄の中から、お弁当の匂いが少しした気がした。それが、母からの叱責のようで、頭の向きを反対へ向けた。

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蜆蝶と鏡 市河はじめ @kw_1

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