3

私は、両の掌をその面に向かって差し出した。


面は、私の両手の上に、ぽんと乗ると、

その両眼より涙を流した。


これは私だ。


やがて涙を流し終えると、面は破れた天井から

空の彼方へ消えていった。


私はそれを見送った。


ふと、後ろから呼ばれた。

とてもよく知っている声だ。


振り返ると、そこには私がいた。


私ではない私は、一言二言何かを発しようとし、

少しゆがんだ笑顔を見せたあと、

黒い泥を吐き出し始めた。


口から、鼻から、目から、耳から

緑かかった黒い泥を止めどもなくあふれさせた。


これは、私だ。


黒くどろどろした私を、私はそっと抱きしめた。


黒い私は、私の中へ消えていった。


見上げると、空に煌々と輝く満月が浮かんでいた。





私は、木漏れ日の降りそそぐ林の中を歩いていた。


もう、私は泣いていなかった。

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揺れる光線、黒い泥 あたらし うみ @NovaMaro

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