18:龍種
魂の器を鍛え抜いたその果てに、人は
事実、冒険の大地にはわずかながら、堅固な鱗に覆われた肌と翼を持ち、空を舞い魔力に満ちた吐息を生み出す者達がいる。彼らのごく一部、真に魂の器を大成させた者のみを龍種と呼ぶ。
人が龍種になるには、途方もない研鑽と鍛錬を必要とする。それを成し遂げた者はみな、己の長い長い旅路を振り返るときにこう口にする。永遠と思えるほどに永い時間だった、と。
龍種は大いなる力を持つ。並大抵の怪物など歯牙にもかけず、その鱗を貫いて彼らを傷つけられるものはおよそ存在しない。爪を振り下ろせば大地もろとも標的は砕け散り、吐き出す吐息の前にはいかなる軍勢も無力だ。龍種が守護する土地では、その安寧は崩れ去ることはないと信じられている。
だが、龍種もまた人である。彼らは特別ではあるが、特殊ではない。
すなわち、龍種であっても死からは逃げられない。
絶対的な力を持ちながらも、死神の声からは決して逃れることはできない。それゆえに龍種は時として狂気に陥り人々の命を喰らい、そして怪物へと堕ちていく。この宿命を変えることができた者はいまだ存在せず、これからも永遠に現れない。
かつて龍種の庇護の下にあったとある部族が、こう言い伝える。龍種が苦悶と絶望の末に自ら命を絶ったとき、ようやく私達は龍種もまた人なのだと思い出した。それは大いなる過ちであり、そしてこれからも繰り返されるのだろう。
龍種もまた人である。彼らは絶対的な力を持ちながらも、絶対的な存在ではない。
すなわち、龍種であってさえ、この地に潜むすべてを操ることはできない。
四大国家には今なお、自らの軍事力をもって狭間の地へと進出し国土を広げ、他国に対し優位を築くべきだと主張する急進派の声が根強く残っている。その分不相応な望みを叶えることも、その愚かさに鉄槌を下すことも、龍種にはできない。政の場において、たったひとりで何ができるというのか?
今日もまた冒険の大地のどこかで、
龍種は時折、自ら命を絶つ。
怪物に堕ちたくない嫌悪。己の無力さへの諦観。世界の広さに対峙した失意。
あまりにも大きな力を得て、なお全く足りることのない無限の欲望。
その苦痛から逃れる道は、死しかないと信じられている。
いつか、この真理を覆す日が来るのかも知れない。
だがそれは今日でもないし、明日でもない。
CODED CHRONICLE:AFTER DAWN Fumbleguy @Fumbleguy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。CODED CHRONICLE:AFTER DAWNの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます