樹木医のたまご 🌿👨‍🌾

上月くるを

樹木医のたまご 🌿👨‍🌾





 高いところから眺める大地は、どうしてこんなに気持ちがいいのだろう。(*'▽')

 脚立の頂上まぢかで剪定ばさみを動かしながら、キヨシ青年はいつも思います。


 雪形も消え、夏の準備を整えた山脈が、肩を組みたいほどの近さに迫っています。

 民家の庭には色とりどりの花が咲き、高層ビルの間から見える稲田はさみどりで。


 初夏の太陽にあまねく照らされた街にジメジメした見苦しいものはひとつもなく。

 動かない建造物も、往来する車も、散らばった人も、動植物も、みんなキラキラ。


 いろいろあったけど、この仕事に就けて本当によかったな……感謝の笑顔が自然にひろがったとき、日傘をさして横の道路を歩いていた初老の女性と目が合いました。



 ――あら、こんにちは。(´ω`*)

   きれいになるわね。(´艸`*)



 やさしく声をかけてくれた女性は、金髪の青年が剪定中の山法師を見やりました。

 うれしくなってピョコンと頭を下げたら「あら、あぶないわ、気をつけてね!」。




      🌞




 物心ついたときからかあちゃんとふたり暮らしのキヨシ青年は「なぜとうちゃんがいないの?」と訊けないもどかしさから、ちょっとばかりヤンチャをしていました。


 あれやらこれやら、指を折ってかぞえたくなるほど(笑)各方面のお世話になり、せっかく入った高校も中退して、どうせおれなんかとニートに甘んじていたのです。


 それをひょいと拾い上げてくれたのが、ご無礼にもオッサンと呼んでいる庭師で、せっかくの命を無駄にしちゃもったいねえ、どうだ、おれの仕事やってみねえかと。


 もちろん、はじめは渋々だったのです、ええっ! なんでこのおれが年寄りくせえ剪定なんて仕事をしなきゃなんねえわけ? ダチに見られたら、超カッコわりいし。


 ところが意外にこれが性に合っていたんですね……というより、もともと真面目で頭のいい子なので、新しいことを学び、技術を身につける楽しさに目覚めたのです。




      🌳




 で、相変わらずの金髪にピアスではありますが(笑)一丁前の印半纏しるしばんてんが板につくようになり、いまでは、オッサンならぬ親方の代わりまで務めるようになりました。


 ヘンな言い方ですが、運って芋づる式なんですかね? そうなるとピュアで可愛い彼女もでき、心を病んで寝たり起きたりだったかあちゃんも元気になって来ました。


 キヨシ青年の目標は、当面は庭師としての自立で、将来的には樹木医になること。学校でサボっただけ、一所懸命に勉強しなければなりませんが、それも張り合いで。


 おれの人生、最初がまちがっていたんだ……うまくいかないことをすべてそのせいにしていた弱い自分に引導を渡したいま、母親、彼女、オッサンを大切に守ろうと。




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