第3話 主人公ユーリ・エッシャー

 上司のディテクターとそっくりな神とやらにかつてシナリオを描いたBLゲームの主人公に転生させられてはや幾星霜。

 生粋のノンケなので原作ゲームのルートから早々に外れ、すっかり林檎農家が板についた僕なのだが転生人生最大のピンチである。

「それでいったいどういう了見でノンケをBLゲームに転生させたんだその神は?」

「パワハラ上司……じゃないそんな神話生物みたいな奴の思考回路なんて知りませんよぉ……」

 うっかり手土産をシュークリームだなんて喜んだのがいけなかった。西洋ベースでふんわりファンタジー世界観なのでシュークリームはシュー・ア・ラ・クレームというお洒落な名前で通っているアイテムなのだった。

 それで僕はガウリールとカミーユに詰め寄られている。ああ、こうなるのが嫌だったから異世界スローライフをしていたのに!

「僕が神に言われたのは、まずここが『ユオリアズリリィ』の世界だってこと。次に僕は神のうっかりミスで死んでしまったこと。お詫びに主人公にしてくれたそうで……。そして転生者は全員ノンケだってことだけです」

「ノンケだって分かってるのにBLゲームにぶち込むとかどんな邪神なんすか!」

漫画研究会うちの腐女子連中でもしな……やるなぁ。あいつら……」

 憤るカミーユに諦観が入っているガウリール。しかし二人は押しも押されぬ大貴族と王族なのに服装がおかしい。

「ところでお二人はなんで警備兵の衣装なんです?」

「結婚式から脱走したんすよ!」

「服は警備兵から剝ぎ取った。モン〇ンより楽だったわ」

「わー、それはそれは……」

 そのまま記憶が戻らない方が幸せだったのではないか。今頃王都は大混乱だろう。

「戻る気は……」

「ない」

「あると思うんすか」

「デスヨネー」

 初夜を迎えるはずの二人はノンケだと判明している。ここで王都に帰った所で夫婦(夫?)生活もままならないはずだ。

「えーと、攻略対象の一人にさすらいの冒険者アンドレがいるのは知ってますか?」

「確かアドベンチャーパートで一定条件を満たすと出て来るキャラだな」

「アドベンチャーパートなんてあったんすか?てっきりHするだけかと……」

 R指定は制作の自由度が高いからR指定にしている場合も多くあるのだけれども、一般人はHなゲームとしか認識しないんだなぁ……。

 ちょっと遠い目になりつつもこれからの道筋を提案する。

「僕も狩りをする関係で入ったんですけど、冒険者ギルドっていうものがあります」

 そこは身分を深く問わずに入れる協会で仕事の斡旋や冒険者のランクにあった宿の手配までしてくれる便利な所だという情報を二人に渡す。

 冒険者ギルドはカナリー村にも支部があり、登録するだけで冒険者になれるとも。

「追手がかかるとは思いますが、頑張ってください」

「何言ってんだあんたも来るんだよ」

「は?」

「シナリオライターがパーティーにいればどこで要らないフラグが立つか判別出来るしな」

 それに、とガウリールとカミーユが妖艶に笑う。二人とも顔がいい。

「神とやらの手がかりを持ってるアンタを逃がすはずがないだろう?」

「嫌だーー!!」

 そういうわけで僕たちは転生者パーティーを組んで冒険することになりました。やだー。関わりたくないー。

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BLゲーの世界に転生したんだが俺たちは女が好きだ 広瀬弘樹 @hiro6636

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