ある日ある時、自然は静かに些細ないたずらをする

久遠 れんり

ある日起こった些細な出来事

 地球上の生物を分類しようと、遠い昔から科学者は生涯をかけて探求をしているが、地上で86%、海中では92%が未分類と言われている。

 だが、総数で言えば地球上の0.01%の人間が、起こした変化により毎日数万の生物が滅んでいるとも言われている。


 そんな生物の中に、昔から人間に寄生する生物は居た。回虫(かいちゅう)や鉤虫(こうちゅう)。しらみなども寄生虫に入る。

 有名な名前だと、日本住血吸虫やツツガムシなど、他にもサナダムシなど良く知られている。

 犬猫だとフィラリアも有名だし、エキノコックスが本州に入ったと言われて久しい。こいつはキツネが本来の宿主で、人間だと成長ができず無限増殖をしようとする。違った意味でたちが悪い。


 そんな環境の変化する中、一種類の寄生虫が宿主。自分が生活するために必要な環境を人間に求めた。ただそれだけの事。




 その日私は、感染症が蔓延する中ふと飲みに行きたくなり、久しぶりに夜の街へと繰り出した。

 彼氏は居るが、年末で忙しいらしく、「友達でも誘って行けよ」と冷たい物だ。3年も経つと、皆こうなるのかしら?


 でも町中へ出てみると、比較的人通りは多い。

 表情は、まちまちだけどね。ボーナスでも出たのか嬉しそうな顔。何かを思い詰め足早に去って行く人。さまざまだ。


 やがて、適当に検索をして、目に留まった店へと足を踏み入れる。

 久しぶりの外食で満足した私は、昔通っていたカクテルが飲める店へと足を向けた。

 数年ご無沙汰だったが、ありがたいことに、まだ潰れずに営業をしているようだ。

 看板を確認して、中へと入る。


 店員は幾人か変わっていたが、見たことある人も居てほっとする。

「お久しぶりですね」

 そう言って、挨拶をしてくる見覚えのある店員。


「喉が渇いたから、ミモザ頂戴」

「ジンフィズやモヒートじゃなくていいんですか?」

 そう言って笑ってくる。


 そう言えば、誰かに何か些細なことを言われて、むきになって、そればかり注文をしていた時があったわね

「覚えていてくれているなんて、嬉しいわね。でも、今日は気分じゃないの。彼も付き合ってくれなかったし」

「それは残念ですね。少しお待ちください」

 そう言って、笑顔を浮かべながら、彼は私の前を離れて行った。

 そう言えば昔、彼とは一度寝たことがあったわね。


 大学生の時、一人で部屋に居るのが嫌で、結構飲みに出た。

 幾人か、一晩だけのお付き合いもあった。

 もちろん。今の彼と付き合い出してからは、全くそんな事はしていないけれどね。


「どうぞ、ごゆっくり」

 そう言って、コースターの上にグラスを置いて彼は離れていく。


 なんだか、この感じも久しぶりね。

 こうしていると、「おひとりですか?」などと言って、声かけてこられて「隣、よろしいですか?」までがワンセット。懐かしいわね……。


 ふと、鼻に甘い匂いが……。

 横にはいつのまにか、軽そうだけど少し武骨な男性。

 にこにこと、こちらを眺めている。

 でも、いやな感じとか、いやらしい感じではない。

「失礼。声はかけたのですがね」

 そう言われて、さっき聞こえたのは本物だったのか。


「ごめんなさいね。少し考え事をしていて、聞き流しちゃったわ」

「お邪魔なら、席を移りますが?」

「良いわ一人は本当だし、一人で飲むのも寂しいから、話し相手になってくれるならお願いするわ。ただし、それ以上のつもりなら、彼氏に叱られるから他をあたってくださる」

「いいえ、それで充分。じゃあ乾杯でも」

「何に対して? まさか二人の出会いとか?」

 くすっと笑いながら、茶化すと。

「もちろん」

 と答えて来た。


 「ぷっ」思わず吹き出し、乾杯をした。


 それから仕事の愚痴や、今日彼氏が付き合ってくれなかったこと、ずいぶん彼に対して喋っていたけれど、彼は飽きもせずに聞いてくれた。

 元々、その手の商売の人かしら?


 彼がトイレに立った時に、店員にそっと聞いてみる。彼は山内さんと言うのだが、確か普通のサラリーマンだと言う事だ。ちなみに30過ぎで、独身ですよと教えてくれた。聞いていないわよ。もう。店員はくすくすと笑いながら、他の客に呼ばれて離れていく。


 彼は今どき珍しく、タバコを吸い。とても自然体で一緒に居て気取らなくていい。

 とてもやばい人。そしてずっと匂う甘い匂い。

「何かコロンでも付けているの?」

 そう聞いてみたが、

「何もつけていませんよ。営業でお客さんの所へ伺うのに、コロンなど付けていくと、お客さんの家庭不和の許になったりするので付けません。もちろん汗臭いのも厳禁ですけどね」

「何かあなたの傍に居ると、甘い匂いがするの」

 そう言うと、彼は自分の匂いを嗅いでいる。


「血糖でも上がったかな?」

 笑いながら、そんな訳の分からない事を言ってくる。

「失礼。お医者さんとかだと、糖尿だと甘い匂いがし始めるとかいう方が多いので。一種自虐の冗談ですがね」

「医療関係なの?」

「機械屋ですね。医療機器全般」

「そうなんだ、じゃあ今とか大変じゃないですか?」

「ここからですね。大学にしろ、年度末にかけて急な発注が来るので、対応が難しいですね」


 やっとぽつりとぽつりと、自分の事を話し始めた。

 最初から最後まで、人の話は聞かず。ずっと自分の事ばかり話す人は論外だけど、自分の事を全く喋らない人も怪しいからアウトね。


 この人、山内さんはその点慣れている感じがする。なぜ独身なのかしら。



 それにしても、さすがに帰らなきゃ。

 時刻は11時を過ぎた。

「楽しかったけれど、そろそろお開きにしましょう」

「ああもうこんな時間か。明日も仕事だし帰りましょうか」

 そう言って、彼は立ち上がる。


 出て行く彼を視線で見送り、

「チェックして」

 私がそう言うと、店員がそっと

「もう頂いています。ありがとうございました」

 と言ってくる。いつの間に。

 先に店を出た、彼を探す。


 彼は、もう通りに向かっている。

「ちょっと待って、山内さん」

 このときなぜか、彼を追いかけなくてはいけないと、意識の底から命令をされているのが分かる。

 だめだ、放してはいけない。そんな気持ちが私の中でどんどん大きくなる。

 なぜかは分からない。


 そして追いつき彼を捕まえる。それと同時にひときわ強くなる甘い匂い。

「会計を済ませて、そっと帰るってひどいじゃないですか。お礼も言えない」

 そう言って睨むと、彼は笑って、

「ごめん。いつもの事だから、気にしていなかったよ。ましてや、追いかけて来るなんて、それじゃあ。たのし……」

 まで言った彼に、私はキスをした。

 その瞬間。口腔内に広がる甘い匂い。その瞬間、我慢が出来なくなった私は、彼の手を引き、強引に近くのレジャーホテルへと彼を引っ張って行く。



 数年ぶりに足を踏み入れて、適当に部屋を選ぶ。出てきたカギをつかんでそのままエレベータへと飛び乗る。そして彼に抱きつきまたキスをする。むさぼるように。


 部屋の階に到着して、エレベーターを飛び出すと、彼の手を引いたままドアを開けて部屋に飛び込むと三度彼に抱きつき唇を奪う。

 そのまま、ベッドに彼を押し倒して服を脱がし始める。


 いまだ、元気のない彼の物を私は我慢が出来ず口へと含む。

 こんな事、彼にだって、めったにしない。


 むさぼるように口に含み続けて、彼が達するのも構わず続ける。

 すべて飲み干し、それでも続けようとしたら彼から、

「待った」

 と声がかかった。


「風呂へ入ろう」

 そんなのんきな声がかかる。

 私は、一気に服を脱ぎ、彼の手を引き風呂へと向かう。

 当然、湯も張っておらず肌寒い。


 湯を溜めながら、シャワーをかけてお互いを洗う。

 その時から、私は甘い匂いに包まれて、頭の芯からしびれるような感覚を感じていた。私の体は、彼を受け入れる準備は万端でドロドロだ。

 洗っても、中からいくらでもあふれて来る。


 それに気が付いたのか、彼は笑いながら

「すごいね」

 と言ってくる。

 普通なら、そんなこと言われれば、赤面ものだが、その時の私は早く彼を受け入れたい。そうしなければだめだ。そんな気持ちだけで突っ走っていた。


 湯船に、湯がたまった時には、彼を先に入らせてその上から跨った。

 その瞬間の幸福感。今まで体験をした事がない。

 正面には、笑みを浮かべた彼の顔。


 まるで、仕える人を見つけたような気がして彼から目が離せない。


 そうね、彼は私にとって王だわ。なぜ今まで回り道をして彼に巡り合えなかったのかしら? そんな疑問が頭の中で繰り返される。


 そして、風呂から上がっても、朝まで繰り返し行為を続ける二人。

 



 そんなことがあった、春先。

 日本中の山で、橋から沢へと飛び降りる事件が頻発する事になる。

 なぜか遺体は、中が食い荒らされたような状態で検視した医師も首をひねることになる。



 そしてその数は、年を追うごとに数を増すこととなった。

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ある日ある時、自然は静かに些細ないたずらをする 久遠 れんり @recmiya

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