ダメ男製造機の聖女は勇者パーティー追放に納得できない

青野 瀬樹斗

ダメ男製造機の聖女は勇者パーティー追放に納得できない


「ユラン・イリアース。今この時を以て君には俺達のパーティーを抜けてもらう」

「――え?」


 ある日の晩……勇者様から大事な話があると呼び出された聖女である私――ユラン・イリアースは勇者様から告げられたパーティー追放の言葉に目を見開くしかありませんでした。


 世界の支配を目論む魔王を倒すため長い旅路を経て、現在は魔王の潜む魔界へ続く転移魔法陣がある神殿近くの町まできています。

 つまりもうすぐ決戦だという時に仲間から、そんなことを言われることなど私は信じられませんでした。


「そ、そんな、私は聖女として精一杯頑張ってきました……私では足手纏いということなのですか!?」


 堪らず勇者様の後方に控えている戦士様と賢者様に意見を求めましたが、二人共首を横に振るだけで何も言ってはもらえませんでした。


「で、でしたら私が抜けた後の人員は!?」

「それなら既に確保済みだ、来てくれ」

「え、もういるんですか……?」


 早くないですか?

 まるで私の追放を決めた段階で既に募集を掛けていたとしか思えない早さですよ?

  

 戸惑っている内に私達のいる部屋に一人の少女が入って来ました。


 年齢は私と大差ないようです。

 聖女らしく白を基調とした法衣を身に纏い、桃色の髪をツインテールにしている少女はニコリと微笑んで名乗り出ました。


「ユランさんに変わって勇者様とご一緒させて頂くことになりました、マーリィ・フォンテンスです」


 マーリィさんはそう言って深々と頭を下げてきました。

 

「そういうことだ。すなまいなユラン」

「……」 

 

 もうどのような反応をすれば良いのかわからず、言葉が出ません。

 

 ここまでの旅を通して私が足手纏いという自覚はありました。

 

 パーティーの盾を自称する戦士様は、屈強な肉体と熟練の盾捌きでタンクとして活躍しています。

 茶色の短髪と鋭い目つきで粗暴な雰囲気を漂わせていますが、子供好きの心優しい方でした。 


 賢者様は聡明な方で、魔物や敵の弱点を的確に見抜く慧眼と知識の持ち主であることに加え、強力無比な聖級魔法による攻撃は圧巻の一言です。

 女性と見間違うような端麗な顔立ちと手で触れたらさらりと流れる銀髪は、旅先でも多くの女性の注目の的になっていました。


 勇者様なんて私が自分と比べるのも烏滸がましい程、勇気と実力を兼ね備えた方です。

 なんでも遠い東の国の出身のようでして、滅多に見ない黒髪と黒目に温和な顔立ちはとても安心できました。


 そんな彼らに対して私は聖女という役目があるものの、容姿は皆さんと釣り合わないですし、皆さんの後ろで守られてばかりです。

  

 回復魔法と補助魔法による援護が主な役割で、多少の攻撃魔法の心得はあるとはいえ前線で戦う勇者様達とは労力が異なりますから……。


 皆さんがボロボロに傷付くのに、私一人が無傷のまま……正直心苦しくて仕方ありませんでした。

 

 守られてばかりは嫌だと奮起してきたのに、パーティーから追放されるなんて、そんなの、あんまりです……!


「勇者様!」

「な、なんだ!?」

「どうして私を追放するのか……話してくださらない限り、私はパーティーを出て行くつもりはありません!」

「そんなのって、ユランさんが足手纏いだからでしょ?」

「マーリィさんは黙っててください! 何がどう駄目だったのか指摘して下さらないと、私は追放に納得出来ません!」

「え、ああ、それは……」


 私の言葉を受けて勇者様はたじろぎました。

 ですがそこである人物が待ったを掛けます。 


「なら僕から説明させてもらうよ」

「賢者様?」


 賢者様は聡明な方……旅先での領主との交渉でも私一人ではこなせないものばかりです。

 そんな賢者様からの指摘はとても辛辣な物言いだろうと覚悟しました。


「ユラン、君はパーティー結成時に自分は回復魔法と補助魔法と齧った程度の攻撃魔法が使えると言っていたね?」

「は、はい」

「聖女は光属性の使い手ですからね。それくらいは出来て当然かと……まさかユランさんは三つともあまり練度が高くないということですか?」


 マーリィさんが軽く補足されます。

 それを聞いた賢者様はマーリィさんにあることを尋ねました。


「ではマーリィ。君は光属性の攻撃魔法でミノタウロスにダメージを与えられるかな?」

「あたし自身は魔界近くの町で聖女として活動してきたので、それなりに練度はあると自負していますが……ミノタウロス相手だと相手の魔法耐性もありますし牽制程度が関の山ですね」

「ユランはミノタウロスを一撃で消し飛ばせるんだ」

「――は?」


 賢者様の言葉にマーリィさんはポカンとした表情を浮かべました。

 さながら( ゜д゜)という表情です。


 マーリィさんはギギギと聞こえてきそうな動きでゆっくりと私に顔を向けて来ました。

 

「い、いや、待って? ミノタウロスを、一撃?」

「はい、あの時は詠唱中の賢者様に殴りかかろうとしてきたミノタウロスを倒しました」

「ユランさんって攻撃魔法はかじった程度っていうのは嘘だったの?」

「ウソではありません! 光属性の攻撃魔法は『エンシェントホーリー』しか使えませんよ!?」


 小さな光の玉を放つだけの攻撃魔法です。

 ですがマーリィさんはさらに慌ただしくなりました。


「『エンシェントホーリー』って神すら屠る光属性の神級攻撃魔法じゃない! やっぱり齧った程度とか嘘でしょ!?」

「本当のことだよ。彼女は光属性の攻撃魔法に関しては『エンシェントホーリー』一種しか使えないんだ」

「齧った程度って難易度じゃなくて習得数のことなの!!?」


 マーリィさんの絶叫が止まりません。

 ですが『エンシェントホーリー』一種しか使えないのが理由なら……。 


「詠唱に時間が掛かるのでその間皆さんに守って頂く必要があるのですが、それが原因なのでしょうか?」


 詠唱中は無防備になるので、三分も守られるのは申し訳なさで一杯です。


「敵を確殺出来る攻撃魔法の詠唱を守るのが迷惑なわけないでしょ!!? それなら一日一回しか使えないからとかじゃない!?」

「いや昨日の魔界へ通じる転移魔法陣を守護する魔王幹部との戦いを除いて三十回ほど応戦したんだけど、その全てで『エンシェントホーリー』を唱えていたよ」

「MP500のあたしでも一回使えるか怪しいのに三十回も放てるの!!?」

「試したことはないのですが、五十回以上は容易くできますよ?」

「バグってる!!」


 マーリィさんが頭を抱えました。


 バグと言われましても……私の場合それくらいしないと皆さんの役に立てないと思っていますが、勇者様達はこれでもまだ足りないようです。

   

「って待って。どうして勇者様達はそんな攻撃魔法が使えるユランさんを追放するの? もしあたしにユランさん以上の実力を求めているのなら無茶ぶりどころの話じゃないんですけど……」

「それは——」

「待て賢者。次は俺が話す」


 マーリィさんの問いに賢者様が答えようとすると、それを遮るようにある人物が声を発しました。


「戦士様?」


 今度は戦士様が前に出てきました。

 戦闘では常にパーティーの前線に立ってきた戦士様の言葉は、どれほど怒りが込められているのか、想像するだけでも恐ろしいです。


「俺は戦士だ。常に魔物の攻撃に曝されるなんて日常茶飯事なんでどうしても怪我が絶えない」

「そう、ですね。特に詠唱中は魔物や敵が私に集中してきますので、どうしても戦士様には負担を掛けてしまいますね……」

「特に四天王戦の時に、戦士は一度殺されたからな」

「ええっ!?」


 勇者様から打ち明けられた戦士様が一度殺されたという事実にマーリィさんは大いに驚いたようです。

 

「こ、殺されたって……じゃあ今こうして話している戦士さんは一体……!?」

「アンデッドでもドッペルゲンガーでもないからな? ちゃんとユランに蘇生してもらったからまごうことなき本人だよ」

「蘇生って神級回復魔法の『リザレクション』!? 今度は回復魔法は『リザレクション』しか使えないなんて言うつもりなの!?」

「『リザレクション』だけじゃありませんよ」

「そ、そうよね! 『ヒール』とかそういうのも――」

「『フレアヒーリング』と合わせて二つです」

「広範囲・四肢の欠損すら治せる神級回復魔法じゃない!! 数が少ないのも同じだし!!」


 マーリィさんのあまりの絶叫に私は彼女の喉が心配になってきました。

 

「でも私は『フレアヒーリング』と『リザレクション』を使えても全く役立たずでした……」

「ねえ、二つの神級回復魔法を使える人が役立たずならあたしを含める他の聖女の存在意義がなくない?」

「戦士様を負傷させた挙句、死なせてしまうなんて、役立たず以外何物でもありません!!」

「ハードル高いよ!? それに蘇生出来てるんだから結果オーライじゃん!!」


 結果オーライだなんてそんな結果論は所詮運が良かっただけです。

 二度と同じことが起きない保証はありません。

  

「だが蘇生したものの、俺はしばらく寝込んでいたんだ」

「え、どうして?」

「結果的に生きているとはいえ死を体感したからだ。またあの何も見えない、何も感じない恐怖を味わうと考えると次の戦いに参加できなくなったんだ」

「トラウマってことか……でもそれならどうして今ここにいるんですか?」


 マーリィさんが戦士様にそう尋ねると、戦士様は顔を赤くしてこめかみをポリポリと掻きながら答えました。


「あ~、端的に言うとユランに膝枕されながら慰められた……」 

「膝枕!?」

「分かる。ユランの膝枕はマジで癒されるよな」

「僕もお世話になりました」

「全員経験済みだった!?」


 そんなこともありましたね。

 蘇生してから毎夜悪夢にうなされていた戦士様をどうにか出来ないかと思った結果、かなり恥ずかしかったのですが膝枕をしました。


 死を体感した戦士様を膝枕した最初は強がっていましたが、次第にボロボロと泣き出して苦しみを吐露させたのです。


 それからは元気になられて、ここまで旅を続けられたのですが……。


「膝枕では不満だったということでしょうか……? きっとあのような時は夜伽で慰めるべきで……でも私には膝枕が限界で……」

「だからハードル高いって」


 マーリィさんは遠い目をしてそう言ってくれました。

 やっぱり私と違って聖女らしいと思います。


「ち、違うっての! 例えあの時マーリィに膝枕されてもここまで来れてねえよ! それくらい俺は、う、嬉しかったんだよ!!」

「あれ? なんであたしディスられてんの?」


 戦士様は私の言葉に両手をあたふたさせてそう励ましてくれました。


「ありがとうございます……お世辞でも嬉しいです」

「う、え、いや、世辞じゃねんだけど……」

「戦士、今度は俺に任せてほしい」

「っ勇者様……」


 最後に名乗り出たのは勇者様でした。

 これまで多くの苦難の乗り越えて来た勇者様の言葉は、きっと先の二人とは比較にもならないことは容易に想像できます。


「戦士と賢者は道中で仲間になったわけだが、最初は俺とユランの二人だけだったな」

「懐かしいですね……あれからもう一年も経つんですね……」

「ああ、ここまでの旅でユランには本当に助けられてきた。戦闘じゃ魔物の生態と弱点を教えてくれたり、料理は美味いし、野宿の時にベヒモスでも破れない結界を張ってくれたり、装備品を買う金をだしてくれたり……今泊ってるこの町で最高級の宿の宿泊費だって……」

「私にはしか出来ませんから……」

「それくらいってなんだっけ?」


 マーリィさんはそう言いますが、勇者様の凄さに比べれば本当に微々たるものなんです。


「でもこのままユランに頼りっぱなしでいたくないんだ」


 勇者様はそう言ってとても悔しそうな表情を浮かべていました。


「まぁそうだよね……『エンシェントホーリー』と『リザレクション』に『フレアヒーリング』が使える人がいたら男が廃るっていうし……」

「現に昨日なんて魔界への転移魔法陣を守る魔王幹部に嘲笑われただろ?」

「〝その程度で魔王様に挑もうというのか、愚か者め〟……そう言って勇者様を馬鹿にしていましたね……」

「そりゃそうだろう、









 道中の魔物や盗賊、全ての敵をユランが蹴散らして来たから未だにレベルが〝1〟のままの勇者が魔王に挑もうなんて、愚か者どころの騒ぎじゃないもんな」



「えええええええええ!!!?」


 マーリィさんが今日一番の絶叫を上げました。


「い、一年も旅をしてきたのよね?」

「ああ」

「なのに、レベル1なの……?」

「……ああ」 

「( ゜д゜)」


 最早言葉が出ないという風にマーリィさんは固まってしまいました。


「あ、あたしはレベル77なんだけど、皆さんのレベルは?」

「俺はレベル56だ」

「僕はレベル60ですね」

「ああ、パーティーに入ってから成長が止まったんだ……」


 順番で言えば次は私ですが……マーリィさんはどこか躊躇うような素振りを見せたあと、恐る恐る尋ねてきました。


「ユランさんは?」


「823です」

「桁違い!!?」


 おかしいですよね……小さい頃からそのレベルで固定なんです。

 そのせいで皆に避けられてばかりで、何か人の役に立つことが出来ればと必死になった結果が今の私でした。


「どうしてこんなことに……」

「その、どうしても皆さんに傷付いてほしくなくて、いつも『エンシェントホーリー』で倒していたんです……」

「レベルが上がるのは魔物にトドメを刺した人だけだもんねー……レベルが1の勇者誕生ってわけか……」


 ここまでの魔王の配下との戦闘でも同じような心情で臨んだので、そうなってしまっても仕方ないと思います。


「このままユランに頼りっぱなしじゃ嫌なんだ……だからパーティーを追放することにしたんだ」

「そんなこと、私は微力でも皆さんのお役に立ちたいです……やっぱり追放は納得出来ません……」

「いや微力どころか十割じゃん。完全にユランさん無双だよ。逆になんで追放するのか解らなくなってきた……」


 呆れたような表情でマーリィさんが私に同意してくれました。


「ユランさんがダメ男製造機なのは良くわかったけど、尚更なんで追放するの? アタシ必要なくない?」

「いいや、マーリィは必要だ!」

「レベル1の勇者に必要だって言われてもなぁ……でもあたしにはユランさんみたいな凄さはないよ?」

「良いんだそれで……、






 愛するユランを危険から遠ざけられるのなら……!」


「「――え?」」


 私とマーリィさんは揃って勇者様が言った言葉を他人事のように聞き返しました。


 愛する?

 勇者様が私を?


「ああ、魔王がどれだけ強いのかもわからねえ限り、俺が惚れたユランを連れて行けねえんだ」

「うん、好意を向ける相手にみっともないところを見せたくないしね」

「「えええええええ!!?」  

  

 続けて言われた戦士様と賢者様の言葉で、私とマーリィさんは驚いてしまいました。


 待ってください……それでは皆さんは私を傷付けたくなくて、パーティーを追放するってことなのですか?


 今まで男性に好意を告げられた経験がない私に、勇者様達三人が好意を向けていただなんて、全く分かりませんでした。


「ユランさん逆ハーじゃん……」

「ああ。本当は魔王を倒してから気持ちを打ち明けるはずだったんだが、本当のことを話さないと納得しないというから、仕方なかった」

「じゃあなにか? あたしはユランさんの身代わりってこと?」

「その通り……だから君を勧誘したんだ」

「勇者パーティーに勧誘されたあたしの感動を返せ!!」


 マーリィさんは勇者様にそんな罵声を飛ばしました。


「ユラン……今はまだレベルが1だけど、ここから成長して必ず魔王を倒す。だからここで待っててくれるか?」


 勇者様は今までで一番素敵な笑顔でそう言いました。

 それを受けて私は……。



「嫌です」



 やっぱり追放に納得出来ませんでした。


「で、でも俺達はこれ以上ユランに苦労を掛けるわけには……」

「それでも嫌です。ついでに皆さんからの告白もありがたいのですが、お断りさせて頂きます」

「「「お断り!!?」」」

「ついでにフッた!? てか悩む素振りすら見せてなくない!?」

「その、皆さんのことは尊敬していますが、交際するといったのは……」

「で、でも膝枕を――」


 戦士様がそう言いますが、私は首を横に振って否定します。


「あれは辛そうだったからで、そう言った感情は皆無でした」

「「「えぇ……」」」

「膝枕されたら童貞じゃなくても勘違いしちゃうでしょ……」


 皆さんが落胆するように肩を落としました。


「でも勇者様達のお気持ちはとても嬉しいですし、私みたいな女を好きになってくれて感謝していますが、どうしても追放だけは納得出来ません」

「そんな……俺達の気持ちが分かっても、追放は受け入れてくれないのか? どうしてそこまで頑ななんだ?」


 勇者様が私が追放を受け入れない理由を尋ねられました。

 そんなの、決まってます!


「だって私が居ない間に仲間が怪我をしていると思うと、一人でのうのうと待ち続けることなんて出来ません!!」

「そんな初めて子供をおつかいに行かせるお母さんみたいな理由で追放されたくなかったの!?」


 失礼です、私はお母さんなんて年齢ではありません。

 

「だ、だからユランが心配することのないように魔王を倒せるくらい強くなって、俺達は大丈夫だって証明したいんだ!!」


 勇者様が私を説き伏せようとしますが、勇者様がいくら大丈夫と言っても不安なものは不安なんです。

 

「嫌です! 勇者様がその気なら私にも考えがあります!!」

「えっ!?」


 私は頭に浮かんだ考えを実現させるため、宿の部屋を出て町中を走り抜けます。


「ま、待てユラン! 話はまだ終わってな――って早いなオイ!?」

「あれがレベル823の敏捷……流石ユランだぜ……!」

「言ってる場合じゃないよ、早く追わないと!」

「あぁ、もう見失っちゃったじゃん!!」


 勇者様達が遠くで何やら騒いでいる声が聞こえましたが、私は目的を果たすために振り返ることなく走り続けました。



~~~~~~~~~ 



 翌日。

 既に太陽が世界を照らす昼間に、私は寄り道もせずに真っ直ぐ勇者様達が泊っている宿に着くと、既に宿を引き払った勇者様達とマーリィさんの姿を見つけました。


 皆さん、どこか浮かない表情をしています。

 きっと私を心配していたんだと解りました。


「勇者様、戦士様、賢者様、マーリィさん……」

「ユラン!」

「ユランさん、無事だった!」


 私が声を掛けると皆さんの表情が一気に明るくなりました。

 あんな暗い表情の原因が私にあるのは間違いありませんね。


 一晩経つと、どうしてあんな意地を張っていたのか疑問に思えてしまいます。

 勇者様達は傷付く覚悟を持って旅をしてきたのに、私が傷付いてほしくないなんて我が儘を言ったばかりにとても迷惑を掛けてしまいました。


 私は皆さんに謝罪するべく、頭を下げます。


「皆さん、申し訳ございませんでした! 子供みたいに我が儘を言った挙句癇癪かんしゃくを起して飛び出すなんて、とんだ恥知らずでした!」

「いや、俺達も自分の気持ちを押し付けるような追放なんて言って、結局ユランの気持ちを考えてないってことにことに気付いたんだ、昨日は悪かった」

「追放なんて言わねえから、今度からもう少し俺らを頼ってくれよ」

「僕達は仲間なんだ。喧嘩なんて別に珍しくともなんともないだろ?」

「さて、追放騒動は落ち着いたみたいだけど、乗り掛かった舟だしあたしもこのまま一緒に行ってもいいかな?」

  

 なんと追放騒動に巻き込んでしまったマーリィさんから勇者様達と一緒に戦いたいと進言してくれました。


「私はもちろん構いませんが……」

「いいや、むしろこっちがお願いしたいくらいだ」

「おう、よろしく頼むぜ!」

「期待しているよ」

「あ、ありがとう……」


 ふふ、マーリィさん嬉しそうです。


「それじゃ今からマーリィ加入祝いだ!」

「おお、いいな!」

「魔王との戦いは明日に回すとしても、決戦が控えているから飲み過ぎないようにね」

「そ、そうだった……いきなり魔王戦うことになるんだよね、うぅ、緊張してきた……」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、マーリィさん」

「うん、ユランさんがそう言うとマジで大丈夫に思えてきたわ……」


 そんなに頼りになることを言ったつもりはないのですが……。

 でもマーリィさんの顔色が優れませんね。

 やはり加入直後に魔王との戦いは不安なのだと思います……。


 私はマーリィさんを励ますために、昨日浮かんだ考えに関係することを話すことにしました。


「ええ、本当に大丈夫ですよ。












 だって魔王は昨晩に私が倒して来ましたので、マーリィさんが心配するようなことは何もありませんよ!」


「そっか、ユランが魔王倒したんなら安心――ぁん?」


 マーリィさんは明るい笑顔を見せたと思ったら、耳を疑うような表情に早変わりしました。

 よく見るとマーリィさんだけじゃなくて勇者様達も同じような表情になっていました。


「ユ、ユラン、さん? 今誰を誰が倒したって?」


 マーリィさんが恐る恐る嘘だと言って欲しいという様子で尋ねてきました。

 よく聞こえなかったのでしょうか?


「ですから、魔王は昨晩に私が倒して来ましたので、マーリィさんが心配するようなことは何もありませんよ、と……」


 私が改めてそう言うと、勇者様達はその場で崩れ落ちました。


「ああああああああああマジかよおおおおおおおおおおおおお!!?」

「ユランがバカだってこともっと重要に受け止めておくべきだったああああああああああ!!!」

「もう色々とおかしいよこの聖女おおおおおおおおおお!!!」

「な、なんで!? どういうこと!?」


 驚きのあまり笑うべきなのか嘆くべきなのか複雑そうな表情でマーリィさんが詰め寄って来ました。


「えっと、昨晩出て行った際、皆さんが傷付かないようにするにはどうすれば一番いいのか考えた結果、魔王を倒すことが最良の結果だと判断したからです」


 私が昨日浮かんだ考えを打ち明けると、マーリィさんは……。



「( ˘ω˘)スヤァ」



 立ったまま気絶してしまいました。



 三日後、マーリィさんを含めた全員で魔王のいた魔界に赴くと、私が一晩で魔王を倒したことで魔王軍は瓦解・解散となっていたようでして、既に全てが終わっていました。


 こうして魔王が倒れたことで世界は平和になりました。

  


 

 凱旋がいせんした勇者様はのちにこう語りました。


 ――バブみを持つおバカな聖女は世界を救う。


 と。


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ダメ男製造機の聖女は勇者パーティー追放に納得できない 青野 瀬樹斗 @aono0811

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