紫陽氷花
六花、優雨、奏多を驚かせようとしたしずりはけれど、どんどん背中を丸めて、肩を縮めさせる六花を見て、呆れて動きを止めてしまった。
また面倒なことを考えているのだろうなあと。
六花の妹至上主義は初めて会った時から知っている。
心底知っていても、ソーダ氷を一緒に取りに行ってからそんなに時間を置かず、宇宙に行く時に付き合ってと告白したのも、一緒にいるのが楽しかったからだ。
最初で最後。
宇宙に一緒に行かないかと誘った時、面白半分、本気半分だった。
一緒に宇宙を旅したら面白そうだと思ったから。
けど、六花は即断った。
理由はもちろん、なるべく妹から離れたくないから。
会えないかもしれないけどと、べそべそ泣き出した時は本当に好きなんだなあすごいなあと思った。
こんなに感情をむき出しにして面白いなあとも。
妹の優雨に似ているから交際を了承したのはなんとなく想像がついた。
でも瓜二つ化と言えばそうではない。顔が少し似ているかもな程度だ。笑い方は結構似ているかもしれない。あとは。似ているのか首を傾げるしかないが、六花にはまだ似ていると思う要素があるのだろう。
そしてそのことを申し訳なく思っていることも。
別にどうってことないのだが。
好きな相手が妹を第一に考えて行動しているの嫌じゃないのかと仲間に訊かれたこともあるが、全然嫌ではない。
必死になって、妹のために動いている六花を見るのが面白いし、すごいと尊敬するし、好きだから。
でも、隠したがっているから、指摘はしない。
本当は気にしてないと言った方がいいのではと考える時もあるが、言ったところで解決はせずに六花がうじうじ悩み続けるのは目に見えている。
まあいつか、言うか言わないかわからないが、気長に待とうと思っているところだ。
「おーい、ただいま」
「おう」
優雨と奏多は気づいていたのだろう。さっと姿をくらませた二人に苦笑しつつ、しずりは六花の背中を叩いた。
雪ん子だったしずりは、どっしりとした雪氷に囲まれていなければ存在できなかったが、今は雪女にまで成長したので、まだら雪でも大丈夫だった。あとはクーラーの冷涼機能でも。なんなら気合を入れれば真夏日でも一日くらいなら。
「はかどっているか?」
「まあ、ぼちぼち」
「早くしないとおまえの寿命がなくなる前に完成しないんじゃないか?」
「完成させるし」
「そうか。それは楽しみだな。待っている甲斐がある」
「………疲れたんじゃないか」
「宇宙から帰って来たばかりだしな」
「じゃあ、帰るか」
しずりは先に歩こうとする六花の腕に自身の腕を絡ませ、にししと笑った。
「いいのか、腕を解かなくても?」
「なんだよ?」
「宇宙に連れて行かれると危機感を抱いて逃げ出さなくていいのかと尋ねている」
「………おまえなあ。忘れろよな」
「忘れないさ。おまえの面白いところも面白くないところも。ぜんぶな」
「………そうっすか」
「ああ」
珍しく照れているらしい。
少ししかめっ面になった六花を見て、しずりは満面の笑みを浮かべた。
そうしてゆったりと歩く二人の後ろで、六花によって植えられた紫陽花の枝に氷花を結んでいた。
(2022.6.27)
紫陽花の枝に氷花を結ぶ 藤泉都理 @fujitori
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