第10話 自由人はファンタジー世界に禁忌を持ち出します

 フィリアとの誓いから数日が経った。

 え? この数日何もなかったのかって? 何もなかったよ畜生‼

 密偵が監視している中で、皇帝をぶっ潰す発言をしたのだから、すぐ来るかなぁと思ってたけど……来なかった。

 こっちから馬鹿正直に攻めるのもなぁてのと、暇つぶしの玩具が手に入ると思ったから待ってたのに。


 因みに、ボク等は現在、オークの討伐依頼を受けて森に来てます。

 あの日から、フィリアはスラムを脱却し、ボクと共に居る。

 で、今日、ギルドでライセンスを発行したのち、依頼を受けたのだが……。


「相変わらず異常な身体能力をしているねぇ」


 オークの首を殴り飛ばしたフィリアを見てしみじみと呟く。


「? これぐらい普通でしょ」


「それが普通だったらボクの身体能力はゴミカスになるんだよねぇ」


 どこの世界に、素の身体能力でオークの首を吹き飛ばせる普通の人間がいるのやら。

 もちろん、熟練の冒険者とかなら出来るだろうけど、それは普通の人間とは言わない。

 因みにボクの場合、能力と魔法を使って出来てるって感じです。


「それはそうと、君は魔法は使わないのかい?」


「……私の魔法は近接戦闘には向いて無いから」


「そうなのかい?」


 ボクの問いにフィリアは答えた。


「私の使える魔法属性は空間と系統外の無と回復だけ。空間属性は、強力だけどあくまで補助向き。空間の切断とか消滅は超級以上の魔法にしかない」


 あぁなるほど。それで使わなかったのか。

 それは確かに一理ある。

 空間属性で最初に使えるのは、小さい異空間に物を入れる程度。

 戦闘では補助するぐらいにしかならない。

 無属性には戦闘を補助するものはあるが、身体能力強化の魔法ぐらいだ。

 だから、魔法ではなく肉体を鍛え上げたのか。


「私は肉体の才能には恵まれてた。でも、魔法の才能は属性以外に何もない」


「つまり、魔法を使うこと自体苦手だと?」


「……ん」


 フィリアが小さく首肯するのを見てボクは考える。


 ……なんて、勿体ない。

 彼女の言う通り、フィリアに魔法の才能があるとは思えない。

 精々平均より多少上ぐらいだろう。

 少なくとも一流の魔法の使い手になる確率は低い。

 それでも、一流とは言わず、二流の使い手になれば、彼女ぐらいの実力者ならかなりいい所まで行ける。


 魔法の使い方に関しては、いずれボクが教えればいいだろう。だが、


 ボクはマジックパックからある物を取り出す。


「──それは?」


「これは『魔法銃』。銘は【夢幻・静音雪】」


 ボクが取り出したのは、一丁のリボルバー。

 このリトラスという世界には似つかわしくない、地球に存在する兵器。


「魔法、銃……」


 フィリアは初めて見る物体をまじまじと見る。

 まぁ、そういう感じになるよね。

 このリトラスって世界は工業や科学が発展していなかった中世ヨーロッパに近い。

 そんな世界で銃なんてものが在る訳がない。

 つまり、この魔法銃はリトラスに一丁しかないってことだ。


「それ、何に使うの?」


「なにって、武器に決まってるじゃん」


 そう言いながら、ボクは真横に銃を構えると、銃口に魔方陣が浮かび上がる。

 引き金を引くと次の瞬間、魔方陣が輝き、弾丸が発射される。

 放たれた弾丸は、直線上にいたオークに命中し、


「──ッ⁉」


 その光景を見て固唾を呑むフィリアを見て満足する。


「銃って武器は、生き物を──主に人間を殺すために生まれた。これは魔法の効果を取り入れたもの。そのため、殺傷力は御覧の通りさ」


「それを……どうするの?」


 銃に警戒心を抱くフィリアに告げる。


「この銃を君に渡そうと思ってね」


「……それを?」


「そ。君の身体能力は人間の中でも素晴らしいものだ。でも、それだけじゃ通用しない敵も出てくる。そこでこれだ」


 この魔法銃は使用者の魔力を弾にする。

 そしてこの銃最大の特性、使用者の使える属性に限って、


 例えば、今のような空間属性の魔法で、一部の空間消滅という魔法を使う場合。

その魔法を想像しながら魔力を込めると、放たれる弾丸にその魔法が込められるわけだ。

しかも、引き金を引くだけだから詠唱が要らない。


「まぁ、流石にオリジナルの魔法には劣るけどね」


「……でも、魔力さえあれば誰でも使えるってことでしょ」


「そういうことさ」


 この銃を使えば、魔法の才能が無くても、手軽に魔法を使うことが出来る。

 勿論欠点はある。

 魔法の想像が不明瞭だと弾丸は不発する事。

 そして、一度使用した魔法は、使用者の魔力総量と消費魔力に比例して、一定時間使用不可になる。

 使用不可になる時間は最大一日。


 例えば、ボクの魔力総量は現在1056で、さっきの魔法は大体240使ったかな。

 計算すると、あの魔法は大体5,6時間使えなくなる計算。

 しかもこの銃、オリジナルの魔法と比べて1.2倍の魔力を消費する。

 ぶっちゃけ手軽に魔法が使えるってメリットとデメリットが釣り合っていないと思う。


「ま、君は魔法を扱う才能はないかもしれない。けど魔力量に関しては一流といってもいい。君なら使いこなせるさ」


 そういって、フィリアに銃を手渡す。


「……使い方がわからない」


「さすがに初見で使えたら驚きだよ」


 そうして、彼女に魔法銃の使い方を教えていく。

 といっても、使いたい魔法を明確に思い浮かべ銃に魔力を込めれば、あとは引き金を引くだけ。

 必要な分の魔力はその銃が自動的に吸い取ってくれるから、調節する必要はなし。

 よほど魔力操作が苦手な人じゃない限り使えないなんてことはない。


 そして、フィリアが銃を構えると、銃口に魔方陣が浮かび上がる。


 ──あの魔方陣は……。


 ボクが彼女の使う魔法を理解したと同時に引き金が引かれる。

 次の瞬間、魔方陣が輝き、弾丸が放たれることで魔法が発動する。

 弾丸が目の前の空間をを穿ち、そこに人が通れるほどの穴が開いた。

 発動した魔法は、現在地と行きたい場所をつなげる魔法。いわゆる空間移動の魔法だね。


 この魔法は空間魔法の上級に値する魔法。

 フィリアの技量で発動することは絶対に不可能な魔法。

 しかし、この銃はそれを可能にした。


「……凄いね。私の技量では初級の魔法を発動するのがやっとなのに」


「ま、その銃はある意味補助道具だから」


 ボクの彼氏、絢坂あやさか 冬夜とうや──冬君が作った道具。

 昔のボクは今ほど魔法を上手に使えなかった。というか魔法を扱う才能自体なかったからね。

 そんなボクを見かねてか、冬君が作ってくれた物。

 それを渡すのは少し申し訳ないと思うが、フィリア愉悦のためだからね。


「因みにその銃、弾丸だけの想像をして魔力を込めると普通に撃てるから」


「……それは始めに言っておくことじゃないの?」


「普通に忘れてたんだよ」


 別に説明するほどじゃないかなと思ってたし。

 ……さて、フィリアに一通りのことは教えたし、そろそろやるかな。


「ところで、フィリアも気が付いてるよね」


「──当たり前」


 だろうね。ボクが気が付いてる時点でフィリアが気付かないはずがない。

 ボク達をずっと監視している者たち。

 この数日間、そいつらが襲ってくることをボクは期待していた。

 迎え撃つ方が面倒ごとは少ないだろうし、何より、自信満々に襲ってきた奴らをぶっ潰す方が面白い。

 だからずっと放置していた。でも──。


 ボクは嗤う。内に秘める狂気を満面に笑みとして出すように。

 ここ数日我慢し続けてた上、ここまで焦らされちゃねぇ。

 相手は皇帝直属の密偵。

 フィリアには及ばずとも、所属する全員がこの国最高峰の実力者。

 彼ら自身その自負があり、こんな小娘程度にやられるなんて露程思っていないだろう。

 そんな彼らが、無様に敗北する。


「──あぁ、考えただけでワクワクする」


 奴らの持つ絶対的な自信を粉々にぶっ潰す。

 強者が弱者だと思っている者にぶっ潰される。

 それは下剋上であり、ただの必然でもある。

 弱者が強者に打ち勝つこともあるし、強者が弱者に扮していることもある。

 そして、今回は後者寄りってだけ。

 江崎幸音は脅威だ。だが、対処できないわけじゃない。

 あらゆる策を使えばどうにかできると、奴らは思ってる。

 


「──さて、フィリアはどうする?」 


「……私も手伝う」


 ボクの問いに一泊おいて答える。


「了解。敵は16人いる。ボクの方に来なかった奴らはお願いね」


「──分かった」


 そうして、ボクらは二手に分かれる。

 ……フィリアにはああ言ったけど、できれば全員こっちに来てくれないかな。

 その分ボクが愉しむことが出来るからね。

 ま、出来るだけ頑張ってよね、監視者覗き魔さん達?




──────



補足説明


魔法銃──【夢幻・静音雪】

絢坂 冬夜が作り出した魔法道具。

見た目はコルトM1860に近い形状。ただし内部機構や弾丸の射出原理は、冬夜の独自技術で構成されているため、通常の銃とは全く別物。


使用方法は、魔法を明確に想像しながら魔力を込めることで、魔法を発動できる。

魔法は引き金を引くことで発動するため、無詠唱でつかえる。

また、弾丸を想像しながら魔力を込めることで普通の弾も撃てる。

ただし、使用者の魔力総量を超える消費魔力の魔法は使用できない。


デメリットとして、一度使用した魔法は、魔力総量と消費魔力に比例して一定時間使用できなくなる。

消費魔力の量はオリジナルの魔法の1.2倍の消費量。


銘の由来は絢坂冬夜の住む町──夢幻町。

そして、その町に住むとあるの名前が由来。

姉妹の名前は姉が雪音ゆきね。妹が静音しずねという。

姉妹仲は良好だったらしいが──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自由人の異世界旅行記 ゼロの文字書き @iliuce3732

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ