爆弾

多田いづみ

爆弾

 ちいさな爆弾である。


 目に見えないほどちいさなそれが、あなたの頭に埋まっている。巧みに脳の組織に偽装しているので、レントゲン写真にも写らない。が、まちがいなく脳の血管に寄り添うように、あなたの頭のなかにひそんでいるのだ。


 それは何かのきっかけで爆発する。爆弾なのだから当然といえば当然。威力はささやかなものだが、脳の組織や血管を傷つけるにはじゅうぶんだ。爆発したが最後、まず助からない。


 といって、あわてて探そうとしてはいけない。それどころか爆弾のことを考えてもいけない。それがこの爆弾のやっかいなところだ。


 じつはこの爆弾、正しくは爆弾などではない。機械や無機物のたぐいではなく、ただのちっぽけな虫けらである。脳の血管から栄養をもらって生きる、ある種の寄生虫だ。


 何事もなければ、悪さをすることもなく宿主の頭のなかで静かに一生をおえる。けれども、非常にかしこく用心深い生き物でもある。なんとこいつは宿主の思考や感情を読みとるのだ。あるいは栄養をもらうだけではなく、脳の神経にもつながっているのかもしれない。


 この寄生虫は、宿主が自分の存在に気づくのを恐れる。排除されることを嫌う防衛本能だ。宿主が自分について考えたり排除しようとするような思考を読みとると、ストレスを感じてある特殊な物質を体内で生成する。これが爆発物の正体である。そして寄生虫がストレスをためこんで、ついに耐えきれなくなったとき爆発するのだ。


 だから、あなたはこの爆弾について、寄生虫について、考えてはいけない。思ってはいけない。

 最もしてはいけないのは、この事実を公表することである。ぜったいに他人に知らせてはいけない。もし公表してしまったら連鎖的に、最悪の場合すべての――


(了)

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