第9話 決別

4人でヨハン達の家に到着するとシャロンが出迎えた

「おかえりなさ…」

ヨハンの背後から顔を見せた私たちに固まったのが分かる


「な…んであんた達が…」

憎しみに近い目を向けられ相変わらずなのだ思った


「ちょっとね」

「とにかく上がってくれ」

答えながらヨハンに促されて中に入る


「ちょっと待ちなさいよ!私は入っていいなんて…」

「俺が招待した。シャロンには関係ないよ」

「ヨハン…様…?」

シャロンは信じられないという顔をした


「だって2人は私たちに借金を負わせた張本人なのよ?」

「その原因を作ったのは俺達だ。あれは正当な慰謝料だ。そのことは何度も話したし、国が認めたのにまだ理解できないのか?」

温度の無い声だった


「でも…血のつながった姉妹なのにあんな…」

「血のつながった姉妹にあれだけの慰謝料を払わなきゃならないほどの事を俺達はしたんだ」

「そん…な…」

シャロンがその場にしゃがみ込んだ


「イヤよ…認めないわ。私はヨハン様と幸せになるんだから…そのためにヨハン様の息子を…息子…何であんたが子供なんて…しかも息子…!」

レオンの抱くマリオに掴みかかろうとした瞬間シャロンは跳ね返された


「え…?」

「俺たちの息子には触れないでくれ」

レオンが吐き捨てるように言った


「シャロンがどれだけ望んでも息子どころか子供は出来ない」

「え?」

ヨハンの言葉にシャロンだけでなく私達も驚いた


「結婚してすぐにシャロンが異常だとわかった。半年以上前に俺は去勢の魔術を施してもらってる」

「う…そ…」

「嘘じゃない。向こう4年半くらいはその効力も消えない」

「そ…んな…」

今の時点で妊娠していないならシャロンには当分子供は望めないということだ

媚薬を使ってまで子を授かろうとしていたシャロンにとっては相当ショックな話だろう

何が起こったか理解を拒むシャロンを残して私たちは中に入った


「散らかってるからこんなとこで悪いな」

通されたのはダイニングキッチンだった


「丁度いいわ。でしょ?」

レオンを見ると頷いた


「丁度いいって?」

「多分ここにあると思うのよね。毎日自然と仕込むなら、ね」

「あぁ、そういうことか…」

ヨハンは納得したように頷いた


「マリエル、その食器棚の真ん中の引き出しだ」

「了解」

私がその引き出しを開けようとした時シャロンが飛び込んできた


「何してんのよ?人の家で勝手なことしないで!」

食器棚の前に陣取り叫ぶように訴えた


「シャロンやめろ」

「ヨハン…さ…ま?」

「お前が媚薬を使ってたことはもうわかってるんだ」

「え…?」


「シャロンのしたことはかなり危ないことよ。その媚薬は飲ませすぎると相手の精神が崩壊する可能性もある特殊なものだから」

「嘘…」

「嘘じゃないわ。それに同意なく媚薬を飲ませるのはこの国では犯罪行為よ」

「な…んのことかしら」

この期に及んでしらを切ろうとするのがシャロンらしいとさえ思う


「何のことかわからないならその引き出しを開けても問題ないでしょう?」

私はシャロンを押しのけて引き出しを開けた

そこには使いかけの媚薬の瓶が入っていた


「あぁ…」

悲鳴のような声を上げながらシャロンが泣き出した


「同意なく飲ませた上での性行為は1回に付き100万コール、10回を超えたら悪質として懲役刑だ」

「違…私はお父様の命令で…」

ここにきてもまだ自分の罪とは認めないらしい

いつまでたっても他責のシャロンにうんざりする


「実行犯である以上誰の指示かは関係ない。この減りからすると使用量も守ってないんだろう?」

「…そうよ。でもヨハン様が冷たくするから悪いのよ!私がこれだけ愛してるのに私の事を見てくれないから…!」

「もうやめてくれ」

ヨハンがシャロンの言葉を遮った


「ヨハン様…?」

「最初にお前を利用した俺にも責任がある。でも何度も伝えたようにシャロンを愛することは出来ない。媚薬のことが分かった今、シャロンに対する信頼も持てない」

「イヤよ…そんなの絶対許さないわ」

「シャロン、人の心は誰にもコントロールできないっていい加減理解して。そんなの子供でも分かってることよ?」

「そんなことないわ。だって私の思うとおりにお父様はあなたを虐げたじゃない。だから…」

「いい加減にしろ!もうたくさんだ!」

ヨハンが唸る様に遮った


「…愛するってことは相手を思いやるってことでもある。自分の気持ちを押し付けて無理矢理気持ちを変えさせるのは愛じゃない」

レオンが静かに言った


「そんなことない。だって私は…」

シャロンはそれでもまだ認めない

私達は顔を見合わせもう無理だと悟った


カルアに全てを報告し、ヨハンは憲兵を呼んだ

シャロンにどんな裁きが下されるかは分からない

媚薬を用意した父も後日拘束され処罰されるらしい

ようやくすべての騒動が落ち着いたと少しほっとした


「レオン、本当にすまなかった」

悔いるように発せられたそれはインディペイト家を出る直前カルアが言った言葉だった

レオンは何も答えなかった

でもその顔はどこか清々しさがあった



*******

これにて本編、番外編ともに終了です。

ここまでお付き合いいただいた皆様に心より感謝いたします。

また別の作品でお目にかかれることを願って…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『ボクはキミが好き』その一言で奪われた未来を取り返します 真那月 凜 @manatsukirin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画