第8話 再会
手紙を見た次の日私たちは動いた
転移で生国に移動し、学園の事務局にヨハンへの伝言を頼むと、今は別の商会となっている元の商会に顔を出したりしながら時間を潰す
「何か懐かしいね」
「…俺はあんまり」
「そっかレオンは町に出ることほとんどなかったんだっけ」
「ああ。大抵家にいたからな。それに学園に入るころには向こうにいたし」
「そうだよね。私も商会のことが無かったら町なんて来なかったもんね」
そんなことを思い出話として話せるようになったのだとどこか嬉しく思う
「マリオも初めて見るものばかりでご機嫌ね?」
レオンに抱かれる息子はキョロキョロと目を動かしていた
「そろそろ向かうか」
「そうだね」
時計を見ると待ち合わせした時間の15分前だった
事情が事情だけにシャロンには知らせずヨハンだけを宿の一室に呼び出しているのだ
3人で町を堪能しながら宿に戻るとヨハンが宿の側で待っていた
「レオン、マリエル…」
ヨハンはそう声をかけてくるなり頭を下げてきた
「本当にすまなかった」
その震える声に心からの謝罪だとわかる
「ここではやめてくれ」
レオンがそう言って宿の中に促す
「マリエル、マリオはベッドでいいんだろう?」
「大丈夫だと思う」
そう返しながら紅茶の準備をする
応接セットにヨハンを促し私たちは向かいに座った
「本当にすまなかった。どれだけ謝っても足りない」
ヨハンはまた頭を下げる
「…謝罪は受け取ったわ。何があればそこまで変わるのかわからないけど…」
「本当にな。まるで別人だ」
手紙でも驚いたのに目の前にするとさらに驚きが大きい
「私たちが来たのは確認したいことがあったからなの」
「確認したいこと?」
ヨハンは首を傾げた
私もレオンも媚薬の件に関して既に確信を持っていた
それほど強い香りがヨハンから漂っているからだ
「…兄さん最近、性欲が止まらないってことないか?」
「!」
レオンの言葉にヨハンの顔がこわばった
「…な…んでそんな…こと…」
かなりの動揺だ
明らかに自覚があるのだろう
「兄さんからある特殊な媚薬の香りがしてる」
「媚薬!?」
想像もしなかった言葉だったのだろう
驚愕の表情を浮かべるヨハンに、やはり犯人はシャロンなのだと思わざるを得なかった
「製品として売られている状態は無色透明、無味無臭なんだけどな。でも体内に入ると元の花の香りが漂うタイプの媚薬」
「…その香りが俺から?」
「ああ。不思議なことにな」
「不思議?」
「普通なら数時間で効果はなくなるの。でもあなたから送られてきた手紙にその香りが付着してた。普通ならありえないことよ」
私がそう言うとヨハンは信じられないという表情を見せた
「何かに移るまで常に香りを発するってことはその媚薬を常用してるとしか考えられないのよ」
「まさか…シャロン?」
毎日飲ませることが出来る人間など限られる
行きつくのはそこしかないのだ
「…俺の体が悪いわけじゃなかったのか…」
「裏で大勢の女を抱いてた人の言葉とは思えないわね」
「あぁ…あの頃は本当に最低なことをしてたと思うよ」
情けなそうに言うヨハンが少し哀れに見えた
「その媚薬の効果がなくなれば俺の体は元に戻るのか?」
「まぁそうなるな。でもシャロンが犯人である以上回避するのは難しいだろう?」
「シャロンとは別れるよ」
「「え?」」
私達は同時にヨハンを見た
「父さんにも許可をもらった。2人への慰謝料を立て替えてもらってて、その返済を俺が家を継ぐときの為に取ってた金で賄って欲しいと頼んだ。返済が完了すれば離婚できる契約だったから」
「これからどうするつもりだ?家を継ぐのは兄さんの…」
「俺にその資格はないよ。こっちの事が片付いたら僻地の開拓員に応募するつもりだ。そこで生涯償おうと思ってる」
「僻地の開拓員って罪人の仕事よね?」
「俺も充分罪人だろ?お前たちを長い間傷つけて、長い時間を無駄に過ごさせた。学生時代に手を出した相手の人生もどうなってるか分かったもんじゃない」
そんな言葉が出てくることに驚いた
「シャロンが納得するとは思えないけど?」
「納得しなくてももう一緒にいるのは無理だ。これ以上一緒にいれば俺もシャロンも壊れる未来しか見えない」
「まぁ…媚薬を仕込んでた相手を愛するのは勿論信用するのも無理よね…」
「そこまでさせたのは俺の責任だとは思う。でもどう転んでもシャロンの期待に沿えない以上、側にいれば悪い方にしか転ばないことも分かってるんだ」
確かにその通りかもしれない
「そもそも同意なく媚薬を飲ませるのは犯罪だろ。その上での性行為は1回に付き100万コールだったか?」
「そうね。10回を超えたら悪質として懲役刑になったはず…」
「どう考えても10回なんて軽いもんじゃねぇな」
レオンの言葉に沈黙が広がった
「元とは言え家族が媚薬を使った犯罪者とか嫌なんだけど…」
「そういう問題じゃない気もするけどな?」
「だってレオン、媚薬よ?」
ムキになる私にレオンが笑い出す
「何で笑うかな?」
「いや、昨日は元婚約者が媚薬のせいで異常者になったらイヤだつってただろ?それが今日は元姉が媚薬を使った犯罪者。もう笑うしかないじゃん」
「うぅ…」
言い返す言葉もない
「…2人ともそんなに表情豊かだったんだな」
ヨハンがぼそりと呟やいた
「初めて会った日、確かにそんな風に笑ってたのを思い出したよ。おまえらがまたそうやって笑えるようになったならよかった。俺が言えた義理じゃないけどな…」
「もういいよ。兄さんを恨んだことは事実だ。でも今はマリエルと息子と幸せに暮らせてる。俺はそれで充分だよ」
「レオン…」
「あなたが本当に反省してるのも後悔してるのもわかったわ。だからその媚薬の効果は取り除いてあげる」
「そんなことできるのか?」
「私の得意な魔法は回復系だから」
「その後一緒に兄さんの家に行くよ。シャロンに媚薬の事を突き付ける。シャロンの対処は向こうの出方次第だけどそれでいいか?」
「…いいのか?」
「シャロンを押し付けたアジアネス家にも責任があるから。それに今も限界に近いでしょ?」
ヨハンの額には冷や汗が浮かんでいた
何かに耐えているのは明らかだった
「さすがに隠せるわけがないか…」
苦笑するヨハンに向かって手をかざす
淡い光がヨハンを取り囲み少ししてから消えていった
「…どう?」
「…すごいな…こんなに体が楽なのはいつ振りか…」
見れば顔色も良くなっている
「香りも抜けてるし大丈夫そうね」
「じゃぁ、あとはシャロンだな」
レオンが立ち上がりマリオを抱き上げた
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