第5章 意表を突くのは卑怯じゃない

「そろそろ行くか。余り長居するのも申し訳ないからな」

 紫音はゆっくりと席を立った。

「そうね。相手の程度が未知数だから、この店ごと襲撃されたらまずいものね」

 里依紗は頷くと、紫音に続いて席を立った。

「私達は大丈夫よ。襲ってきたら返り討ちにしちゃうから」

 紗良は不敵な笑みを浮かべながら指を組み合わせると、関節をぼきぼきと鳴らした。

 確かに。どんな強者が来ても、この人ならぐしゃぐしゃに叩き潰しかねない。

「ハルちゃん、お姉ちゃん達から絶対にはなれちゃ駄目だよ」

 みくるはしゃがんで俺に目線を合わせると、心配そうに見つめた。

「うん、分かった」

 俺は年相応の言葉で彼女に返した。不可抗力でスカートの中が見えたものの、彼女はその下に何やら鎖帷子っぽいスパッツのようなものを履いていた。流石武器屋の娘だけあって、色んな意味で防御に怠りは無い。

「どうもお世話になりました」

 里依紗がみくるに礼を述べた。

「紗良さん、また来ますので。ご馳走様でした」

 紫音が深々と頭を下げる。この人は気位が高そうな割には、意外と腰が低い。

「ご馳走様でした」

 俺は二人に礼を述べると、ドアに向かう二人を追い掛けた。

「お買い上げ有難うございます。またのご来店をお待ちしています」

 紗良とみくるが手を振って俺達を見送ってくれた。

 扉を開けて外に出る。

 刹那、オレンジ色の風景が視界を埋め尽くす。

 街は夕陽に染まっていた。

 今まで西陽の差す自分の部屋の窓から見ていた光景とは、全く違った街の息遣いに、俺は今までになく気分が高揚するのを感じていた。

 生きている。

 そんな実感を、俺は噛みしめていた。

 ただ悪戯に過ぎ行く一日の終焉を、無気力な眼で見送り続けた日々・・・。

 今まで過ごしてきた俺の一日は、いつも何も無い一日だった。

 衣食住を保証された平和な時間は、俺から時の重要さと生かされている事の有難さを知る意識を剥奪していた。

 だが今は違う。恐怖に耐え切れず、失禁して恥ずかしい思いをした事さえ、生きている証の様に感じる。

 あのまま、変わらない日々を送り続けるよりも、俺はここの世界に来て、正解だったのかもしれない。

「ハル、私達から離れないでね」

 里依紗はさり気なく周囲を見回しながら、俺にそう囁いた。

「うん」

 俺は頷くと里依紗の手を掴んだ。

 リアルの俺なら照れてこんなハズイこと出来やしないだろう。

 だが、少女の姿になった事で、俺は今までになく素直になれていた。

 大人になって、くだらない自尊心で身を飾り立てるようになってから、俺から純真無垢な本心そのものが失せてしまっていたような気がする。

 それでも俺は更にその上から自尊心を重ね着し続けた。

 でも、今になって、そんなものいらないんだと気付くようになった。

 不条理に満ちた異形の蠢く世界に身を落す事で、俺はしがらみを遮断する禊を成し得たのかもしれない。

 緋色に染まる街並みを行き交う人々の黒い影は、何処か暗く、寂しげだった。

 若者が、歩きながら缶飲料を飲み干すと、空になったそれを無造作に道路に投げ捨てる。

 缶がアスファルトの路面を打ち据え、買い物帰りの中年女性の足元に転がって行く。

 彼女は彼の行為を咎めようともせず、無造作にそれを踏んづけると、忌々し気に舌打ちをした。

 悪化した街の治安が、生活する人々の心を荒んだものにするのだろうか。

 心が洗われるノスタルジックな夕暮れの風景に、それは味気無い現実の歪を刻みつけていた。

「いなくなったね」

 里依紗がそっと紫音に囁いた。

「ああ。でも油断するな」

 紫音は里依紗にそう言葉を返す。

 俺達に付き纏っていたと言う妙な輩の事を話しているのだ。

 残念ながら、俺には全く分からない。

 ともあれ、駐車場までは何事も無く辿り着けたのは幸いだった。

 ほっと吐息をつく。

 刹那、 

 全身黒ずくめの男が二人。

 一人は縦横にでかく、筋肉質な体躯をショルダーパットやらニーパットやらがこれみよがしに装備された格闘家用の防具を装着し、右手に刃渡り五十センチ程のサバイバルナイフを携えている。

 もう一人は、黒いニットキャップに黒のサングラス、細身の体をトップスからボトムス迄黒ずくめの服装で、更に黒いコートを羽織り、無造作に両手をポケットに突っ込んで佇んでいる。

「しおんずの皆さん、ごきげんよう」

 黒ずくめの男が、ハイトーンの声で、感情のこもっていない字面だけの常套句を紡いだ。

「あんた対誰よ。リスナーにしちゃあ、妙に殺気を感じるんだけど」

 里依紗は二人を一瞥しながら、俺に下がるよう、右手で合図をする。

「残念だけど、そうじゃないんね。ちょっと御裾分けしてもらおうと思ってさ」

「御裾分け? 」

「今日、稼ぎまくったんだよね。配信見たよ」

「それはどうもありがとう。やっぱりリスナーじゃん。御裾分けはしないけど、投げ銭なら受け付けるよ」

 里依紗は笑みを浮かべながらも体を奴らに対して斜に構える。

 刹那、疾風が俺を包み込む。

 何が何だか分からない、気が付けば頬のこけた厚化粧の超ミニスカ女にハグされながら、俺は里依紗と対峙していた。

「隙があり過ぎようっ! 御裾分けレベルじゃあもう駄目だかんね。この子を助けたけりゃ、有り金全部置いてきな」

 超ミニスカ女は嬉々として喚き散らすと、俺の頬にぐいっと冷たいものを押し当てた。

 げっ! 嫌な予感しかしない。

 横目でそれの正体を把握。

 銃、だった。

 やっぱり。

 俺は戦慄と言うよりも想像通りの展開にがっかり感が半端無かった。

 こういったシーンのありがちなパターンを、そのまま再現したかのような展開だった。

 異世界なのに、武器が現実過ぎるぜ。せめて火縄銃位なら雰囲気が出てるってのに。

 このシーンだけではないのだけれど、ここの世界って、妙に元の世界っぽいところがあって、何か違和感を覚えてします。

 異世界といやあ、もっと牧歌的なケルト神話的な次元設定を勝手に期待していたのに、何か要所要所に現実的な要素が入り込んできやがる。

「あんた達さあ、ばっかじゃない! 」

 里依紗が呆れた顔つきで男達を見渡した。

「何だとおっ! ごらあっ! 」

 いかつい筋肉男が顔を真っ赤にして唇を震わせた。

「こんな人気の多い所で騒ぎを起こしたら、誰かが通報するだろうから、すぐに警察が素っ飛んでくるよ」

「その心配は無いんだな。私の後ろを見てみ。お前達の後ろにもあるけど」

 超ミニスカ女が得意気に言い放った。

 俺を見つめていた里依紗の目線が、僅かにそれる。

 途端に、彼女の表情が硬く強張った。

 いったい何があるってえの?

 こいつ、里依紗達の後ろにもあるって言ってたな。

 俺は目を凝らすと、里依紗達の背後に線を向ける。

 あった。

 これかあ・・・。

 黄色い看板が、道の往来を妨げるかのように立てられている。

 それには『撮影中』とでかでかと書かれていた。

 おまけに、ポケットがやたらついたモスグリーンのガーゴパンツによれよれのダンガリーシャツを羽織ったぼさぼさ頭の青年が、ハンディカメラを抱えて俺達を撮影している。

 成程。姑息な手段だけど、こいつら考えたな。

 これなら公衆の面前で何をやらかそうにも一瞬は誤魔化せる。まあ、そうそう何回も通じる手ではないとは思うけど。

「さあ、どうする? このままじゃあ、この娘、男を知る前に旅立っちゃうよ」

 超ミニスカ女が下劣な台詞を喚き立てた。

 やめてくれ。男は良いから、せめて女を知ってから旅立ちたい。

「あと一秒だけ待ってやるよ」

 超ミニスカ女が嘲笑を上げた。

 その台詞を言っているうちに一秒過ぎちゃってるけど、俺、もう死んだ?

「分かった・・・その子を離せ」

 紫音が静かに降伏を承諾した。

「物分かり良いわね。さあ、有り金全部ここに出しなっ! 」

 超ミニスカ女が勝機に酔いしれながら、得意気な笑みを浮かべた。

 頬に押し付けられていた銃口が離れる。

 ちらりと横目で銃口を追う。

 銃口は正面――恐らくは里依紗か紫音に向けられている。

 そればかりが、奴の人差し指がトリガーから離れている。

 無理矢理目を上に向け、奴の顔を見た。

 勝利を確信したのだろう。嬉しそうな笑声と共に奴の喉仏が震えていた。

 喉仏?

 迷いは無かった。

 俺は左裏拳を思いっきり超ミニスカ女の股間に叩き込んだ。

 左拳が、ぐねっとした不快な感触を捉える。

 刹那、超ミニスカ女の喉から、この世の者とは思えぬ絶叫が迸る。

 奴は俺を投げ出すと、路面にひっくり返って股間を押え乍ら悶絶した。

「りぃっ! 」

 俺は里依紗の元へダッシュ。

「ハル、大丈夫? 」

 里依紗が心配そうに俺を見る。

「大丈夫だよ。それとあいつ、男だったし」

 俺は未だ路面でダウンしている超ミニスカ女を指差した。

「えっ! マジで? でも、どうして分かったの? 」

 里依紗が眼を見開く。

「喉仏だよ。のどち〇こは女子も有るけど、喉仏はないだろ? 」

「残念でした。喉仏は女子にもあるよ。目立たないだけで」

「そうなの? でもあいつには本物のち〇こついてたよ」

 俺は未だ左腕の不快な記憶を拭いきれずにいた。あの感触からすると、口惜しい事に無駄にでかい。

「わ、わたしは、男の娘なのっ! 」

 超ミニスカ女は苦悶に表情を歪めながら、恨めしげに俺を見た。

 無防備に開かれた両脚の間から、ピンクのパンティーが見え隠れしていたが、全くもって嬉しくはない。

「この、クソガキがあっ! 」

 超ミニスカの男の娘は、憤怒に唇を歪めながら、銃口を俺に向けた。

 まずい!

 不意に、視線の右端をピンク色の何かが過ぎる。

 丸い珠――精霊石だ!

 ホルダーからこぼれた? 

 まさか。

 俺はそれ以上の詮索をやめた。

 体が、無意識の内に動く。

 手元まで自由落下してきた精霊石を素早く右手で掴むと、男の娘目掛けて投げつける。

 精霊石は奴の一歩手前で路面に衝突し、ワンバウンドすると。無防備に開かれた股間に侵入。

 次の瞬間、男の娘は甲高い悲鳴と共に視界から消えた。

「貴様! 空間魔術の使い手かっ! 」

 黒尽くめの男が忌々し気に俺を見る。

 残念だが、俺は異世界あるあるのハイスペックなジョブホルダーじゃない。 

 気まぐれな精霊石の力によるものだ。

「仲間の仇っ! 」

 黒尽くめの男がコートの前をオープン。

 その下には悍ましい――じゃなかった。恐ろしい事に、コートの内側から奴の身体に至るまで、銃やらナイフやら夥しいの武器が張り付いていた。

 まるで歩く武器屋って感じ。

 男は両手に銃を取ると、真っ直ぐ俺に向ける。

 が、既に里依紗がドラゴンズマスターシを手に奴の懐に忍び込んでいた。

 里依紗は間髪を入れずに黒尽くめの男の手から銃を弾き飛ばすと、切っ先を喉元に突き立てた。

「ぐえっ! 」

 黒尽くめの男は喉を抑えながら地に沈んだ。

「そこまでだ」

 振り向くと、偽の撮影現場を演出していたビデオ男が、紫音の喉元にナイフを突き立てている。

「貴様ら動くなよ。少しでも動いてみろ。夜叉のお姉さんの喉を掻っ捌くぜ」

 カメラ男はにやにや野卑な笑みを浮かべながら、俺達を見据えた。

 紫音は動かない。

 どうしてよ? どう考えたって、このニキ、あびぬぎなんかより遥かに貧弱に見えるってのに・・・。

「妖獣には無敵の夜叉も、人様には手を出せないんだよなあ。何とも哀れな宿命だぜ。結局、人にいいように使われて終わる人生だもんな」

 カメラ男は饒舌だった。よく分からんが、とっておきの弱みを抑えて勝ったも同然の状況に酔いしれているようだった。

 何なんだよ、それ。夜叉が人に手を出せないなんて。

 余りにも意味不明な男の台詞に、俺は呆然としながらも、ただ状況を読むしかなかった。

「おい、カメラのニキ」

 紫音が横目でカメラ男を睨みつける。

「ああん? 何だよ」

 カメラ男は不満気に紫音を見た。

「おまえは何故、私が屋敷を追い出されて旅をするようになったか知っているか? 」

 紫音が、静かにカメラ男に問い掛けた。

「知る訳ねえよ、そんなもん」

 カメラ男は面倒臭そうにぶっきらぼうに台詞を吐いた。

「その人様に手を出したからだ」

 紫音が動く。

 瞬時にして、突きつけられたナイフの柄を掴んで手首ごと捩じ上げ、獲物を床に落とすと、愕然としたまま硬直した男の襟首を引っ掴んで投げ飛ばした。

 男は弾丸ライナーで素っ飛び、体格のいい戦闘服ニキに激突。

 二人とも呆気なく地に沈んだ。

 と、不意に視界を過ぎる落下物。

 どん

 激しい衝撃音と共に、それは奴らの車のルーフに激突した。

 ルーフは見事に拉げ、歪んだフレームから見覚えのある手足が突き出ている。

 さっきの男の娘だ。

 息はあるらしく、威嚇する犬の様な唸り声を上げてはいるものの、立ち上がるだけの気力は無い様だ。

「くそうっ! 退却! 」

 カメラ男はそう叫ぶと、先頭切って車の運転席に飛び込んだ。続いて戦闘服ニキとコートのニキがよろよろと車に転がり込むや、ドアが閉まらないうちに車はタイヤをキュルキュル鳴らしながら急発進。

「おーい、忘れ物だぞ」

 紫音は、『撮影中』の看板を片手でひょいと掴むと、車目掛けて投げつけた。

 看板は瞬時にして黒い影と化し、空を滑る様にかっとぶと、車のリアウインドウに突き刺さった。

 車は一瞬蛇行したものの、何とか持ちこたえてそのまま視界から消え去った。

「人は見掛けによらぬもの。どうやら、あのモブ的なニキが奴らの頭の様だな」

 紫音が、いとおかしな風合いで、しみじみと呟く。

「りぃ、あの類の輩って、結構いる訳? 」

 俺は獲物を掌に押し込む様にして納めている里依紗に尋ねた。知らない人が見たら、あたかも手品窯方見たく見えるだろう。彼女の獲物も俺と同じように、普段は体のどこかに収納されているのだ。

「まあ、時々ね。大抵は、私達が誰か分かった途端、すごすごと退散するんだけど」

「中には名を上げたがる奴もいるからな。恐らく彼奴等もそうだろう。『しおんず』と知った上で襲って来た」

 紫音は何となく面倒臭そうに呟いた。

「しーちゃん、聞いていい」

 俺はそっと紫音を見上げた。

 夜叉は、人様に手を出せない――気になっていたんだ。あのモブ的な奴が紫音に言ったその台詞が。

 其れは、禁忌の香りを孕んだ魔香の様に、俺の本能をちくちくと刺激し続けていたのだ。

「何だ? 」

 紫音が首を傾げて俺を見つめる。さり気ないその仕草に、俺は妙な威圧感を覚えた。

「何でも、ない・・・」

 俺は思わず言葉を濁した。

 俺の意図する事も見透かし、それについては触れるな――そう、暗に語り掛けているかのようにも見えたのだ。

「気になるか? 」

 紫音の眼に、鋭利な刃物に似た気が宿る。

 俺は答えなかった。答えられなかったが正しい。

 紫音から立ち昇る重厚な抑圧を孕んだ気に、俺の意識は激しく打ち据えられていた。

 怖い人だ。

 本気でそう思った。

 そして、少しちびった。

 と、不意に紫音の表情が緩む。

「ハル、知りたいんだろ? 教えてやるよ。夜叉の宿命を」

 俺はごくりと生唾を呑み込むと、黙って頷いた。

「私達の一族には、掟があるんだ」

「掟?」

「民衆に手を出してはならないってね。正しくは、武装していない者に対してって事だけど・・・まあ、夜叉としてこの世に生まれ出た者の宿命だな」

 紫音はそう吐き捨てる、大きく吐息をついた。

 じゃあ、さっきのニキが言ってたことって、まんざら間違いじゃなかったってこと?

「私達の戦闘能力は常人を卓越したものだ。それ故に、己の力に奢り、邪な考えを抱かない様に、その掟が生まれた。でも、はっきり言える事は、私達は本質的には決して好戦的ではないと言う事だ。私の様に妖獣狩りを生業にする者はいるけどな。多くの者は占星術師や呪術師として生活している」

「そうなんだ」

「でも、私はその掟をやぶってしまった。但し、自分では間違った事はしていないと思っている」

「何が、あったの? 」

「襲われたんだ」

「さっきの強盗みたいな連中? 」

「違う。私が呪術の学校に行ってた時の、上級生の男子三名。さっきの連中みたいに、夜叉の掟を勝手に間違った解釈して私を性欲の捌け口にしようとした」

「え、まさかそれって・・・」

 レイプ・・・。

 それ以上の言葉は、俺はぐっと吞み込んだ。幾ら夜叉が鋼の存在とはいえ、余りにも触れるには抵抗のある言葉だった。

「私が抵抗したので、未遂に終わったけどな。三人とも病院送りにしてやった」

 涼しげに語る紫音に、俺は何となく安堵を覚えた。

 彼女は夜叉なのだ。欲望に理性を失った糞野郎に、簡単に屈する程やわじゃない。

「だが悪い事に、私が手を掛けた三人の中に街の有力者の息子がいてな。その親が過剰防衛だとか夜叉の掟破りだとかいちゃもんをつけて来たんだ。やむなく私は退学。そのまま屋敷を出る事になった」

「なんでよお、紫音は少しも悪くないのに」

 俺はむくれながら俯いた。

 納得のいかない話だ。権力者が、立場の弱い者に圧を掛けるなんて。

 何処の世界も同じなのか。

「納得いかないな。その加害者は、しゃあしゃあと学生生活を送った訳? 」

「いや、私が学校を去ってしばらくしたら、皆退学したよ。一家全員、夜逃げ同然で消息を絶ったらしい」

「へ? 」

「その権力者、陰で詐欺まがいの事をやってたらしくて、それがマスコミにリークされたんだ。他の二人の親も、勤め先の金を使い込んでいたり、政治家に賄賂を贈っていたりと次々に裏の顔が捲れたのさ」

「自業自得ね」

「そもそも、夜叉を敵に回したのが間違いなのさ。我々一族が長けているのは、戦闘能力だけじゃないからな」

 夜叉が、口元に冷笑を浮かべた。

 ぞくぞくっと、背筋を冷たいものが駆け抜ける。

 と同時に、下腹部に生暖かい噴流がほんの少しだけ溢れ出る。

 この人、やっぱり怖い。

 正直、脚の震えが止まらない。

「今日はもう疲れた。、宿に行ってゆっくりしよう」

 紫音の表情が綻ぶ。

「じゃあ、真っ直ぐ宿に直行ね」

 里依紗が車のキーをミニスカートのポケットから取り出した。

「ハル、車に乗ったらパンツを穿き

 紫音が伏目がちに俺の耳元で囁いた。

「え、ハル、やっちゃったの? 」

 里依紗が苦笑を浮かべる。

「だってええ――」

「まあ、怖い思いしたものね。銃を突き付けられたんだから仕方が無いよ」

 俺に気遣い、慰めの言葉を掛けてくれる里依紗には悪いが、怖かったのは紫音の方。

 それにしても。

 紫音って、何もかもお見通しなのかよ。



 

 

 

 




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召喚されし俺 しろめしめじ @shiromeshimeji

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