ワタリドリの精霊
DITinoue(上楽竜文)
ツバメの子の旅
生まれて何か月か経ちました。駅前の天井の隅っこの方に、ぼくの家があった。そこで生まれて、たくさんご飯を食べて育ってきた。最近は、少しずつ空を飛ぶことができるようになってきた。まだまだ怖いけど・・・・・兄弟たちはすでに飛んでいる子もいる。だから、ぼくももうすぐ飛べると信じて、ひたすら練習だ!あ、カラスやネコに見つからないようにね。でも、ヒトが守ってくれてるからまあ安心だけど。
家の中で寝ているときに、母鳥がやってきた。続いて、父鳥も。
「やあ、みんな。そろそろ、我らは旅立ちだ。前から予告していただろう」
「うん」
「あなたたちは、これからまあまあ遠い、“ふぃりぴん”に行くのよ」
ふぃりぴん。南の方にある暑い国だって言ってた。
「大丈夫よ。次の春になったら、あなたたちはいいお嫁さんと一緒にこの“じゃぱん”に帰ってくるのよ」
そうか、この国はじゃぱんっていうのか。今初めて知った!!
「それじゃあ、行くぞ。アーユーレディー?」
「イェス!!!!」
あれ、みんなはこの言葉分かるんだ。あーゆーれでぃーって言われたらいぇすって言ったらいいんだね。
「いぇす!」
僕も少し遅れたけど、ちゃんと返したよ。
「よし、それじゃあ少年よ。新しい旅へ出発だ!」
おー。
おとうさんとおかあさん、意外と速い。
他のところからも次々とツバメたちが到着して、この群れはどんどん大きくなっていく。他の子供たちとおしゃべりしながらも、親鳥、そして兄弟はもう飛ぶのが慣れたらしく、羽をばたつかせながら進んだ。
そんな時だった。
「君、もっと飛ばないとダメだ。君にこの旅は早かったんじゃないか」
どこかから声がした。え?旅が早かった?もっと練習すればいいってこと?けど、それだったら一人でふぃりぴんに行かなきゃいけないってこと?
シュッ!
うわ、なんか飛んでもない速さでなんかが過ぎていった。それは、タカだった。でっかいでっかいタカだ。
「ヤバい!」
と思って、パタパタと必死に親たちについて飛ぶ。けど、やっぱりぼくは最後尾の方だから必死に後ろの方の他の子供たちを追い越して、前へ前へ。すると、僕らがいる真ん中の方のツバメたちの真上をタカが飛んでいった。それで・・・・・さっきまで話していた、かわいかった彼女を鋭い爪で鷲掴みにして、タカはどこかへ飛んでいった・・・・・。
その時から、怖くなった。だから、ずっと真ん中にいたかったけど、さっきエネルギーを使いすぎたのか、ノロノロ運転になっていた。だんだん、群れが遠くなっていく。
シュッ!
ま、また?
さっきのタカの時と同じ風を切る音が聞こえた。
怖くて、周りを見渡すけど、何もいない。ただ、僕の目に入って切ったのは・・・・・風に流れていくツバメの羽だ。それも、透けている羽だ・・・・・。
とうとう、群れから離れちゃった。もう、僕一人で必死に飛んでいる。これは、もうダメだよ、ぼく。疲れた。できれば、着地したいんだけど、ここは・・・・・ふぃりぴんに渡るためのルート。島から島へ行かないといけないから、海を渡らないといけないんだ。
ああ、飛ぶしかないんだ・・・・・。
下では、イワシの群れ。そして、それを狙うサメがいる。着地したら終わり。
「あぁ!!」
そんな時、あるものが見えた。陸だ。
何で?まだ、陸には遠いはずなのに。道に迷ったのかな?けど、陸だよ、陸。ココで休める。
けど、ぼくの力はだんだんなくなっていく。そんなぼくの力を奮い立たせたのは、虹だった。あの虹の向こう側には何があるのだろう。大きな大きな虹は陸の端から端を結んでいる。しかも、うっすら二重だ。これは、いいことがあるよ。
「頑張れ」
そう、誰かの声が聞こえた。これは、さっきの?さらに、その虹へ向かう道には、透明なツバメの羽がいくつか落ちていた。
「行くぞ!!」
ぼくは、最後の力を振り絞って、陸を目指した。だんだん、体が軽くなっていく。そして、誰かの声が聞こえた。
「頑張れ!」
おとうさんだった。おとうさんの体は・・・・・透けてる?え?
「お前も、まだ旅には遠かったんだな。俺は、さっきのタカにやられた」
くそ、あのタカ。おとうさんまで・・・・・。
「よし!俺の胸元まで飛んで来い!」
僕はもう疲れていなかった。体は軽く、透明な羽をはためかせ、たまに落としながらおとうさんの元へ向かっていった――
ワタリドリの精霊 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555
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