第19話
私の肉体が死んだとしても大した問題は無い。肉体が死んだ所で、半身たるコアに私の意識が移るからだ。まあ、かなり本能的にはなるみたいだが、簡単に死ねない以外はどうでもいい事だ。
だからこそ私は外へ出る準備をした。リビングアームズを追加で生み出して刀剣類に憑依させ、一応身を守るための宝と魔物も生み出した。死んでも肉体は生き返るが、少なからず迷宮力を消耗するので、出来れば死なない方が良いだろう。
さて、第一の実験はダンジョンの外へ出る事。これには難なく成功した。コアを失ったダンジョンは崩壊すると聞いた事があるが、その様子は無かった。同化しているとはいえ、
外へ出た私は、リビングアームズに命じて見張りの冒険者達を皆殺しにした。傍目に見れば町娘の様な格好をしている私が、異常な数の剣を携えているのは彼等も驚いたのだろう。そして、その隙は致命的だった。
彼等は第二の実験に使った。迷宮力を得る方法の一つに、私が直接殺すという手段がある。これがどこまでの範囲を示すのかが知りたかった。
私には人を殺すどころか、傷を付ける才能すら無い。しかし私が装備する武器に憑いたリビングアームズ達に、代わりに殺してもらえば迷宮力を得られるのかと考えた。
これについても、一部は成功。どうやら必要な条件は、私が直接殺すのではなく、その時死んだ対象が私の近くに居るかどうかだった。ただし距離によって得られる迷宮力に著しく差が出る。
ダンジョン外で直接殺すというコアには出来ないはずの手段が知識にあったのは、恐らく私という半身たる肉体を得てからその手段を導き出したのだと思う。至近距離で敵が死ねば最大効率で迷宮力を得られるのだから、取り逃しの無い様に近距離戦で直接殺す方法になるのは自然だ。
死体その物は私が触れていれば吸収出来た。ダンジョン内と違って生命力を吸収出来る量が不安定なので、出来るだけ死体からも回収しておきたい。
そして第三の実験。ダンジョンの外で、ダンジョンとしての力がどれほど使えるのか。他二つの実験は前提であり、実はこれが一番重要だ。
まずは私の前に宝や魔物を生み出そうとしてみたが、これは失敗。しかしコアの周りに生み出す事は出来た。
次に、所有物の移動について。冒険者の死体が差していた剣を抜いて、ダンジョンへと送る。逆にこちらへ取り寄せる事も出来た。生み出した宝や魔物も私の近くに呼び寄せる事が出来た。相互に移動出来ると判明したので、先の失敗も問題無くなった。
最後に私の体を、離れた場所からダンジョンへと移動出来るのかを確認した。結果から言えばこれも成功、やろうと思えば即座にコアの元へ戻る事が出来た。ただし一方通行なので、直前に居た場所までは再び自分の足で向かわなければならない。
「あっはは! これ、楽しいなぁ!」
その理由もあったが、単に移動の時間を減らすために、一つの宝を生み出した。その名も
この宝には魔法が宿っており、私の様な魔法が遣えない者でもその力を扱える。人間ならば魔力を消耗するが、私の場合は迷宮力だ。
ただし私が使った所で大した消耗は無い。迷宮力は単なる魔力よりも創造する力が圧倒的に強く、言わば上位互換に近い。簡単に数値で例えるなら、100の魔力を使う魔法でも、迷宮力なら1の消費で同じ結果を出せる。単純に百倍の力があるわけではないが、大体そのくらいの差がある。
さて、この靴で出来るのは、装着した者の足付近の風を操る事。例えば風を噴射して急加速したり、逆に自身の方へ風を集めて足場にする事が出来る。これらの方法で私は空中での高速移動が可能となり、更には新たな楽しみを知った。魔法を遣うのも速く動くのも初めての経験だったからか、ただ移動しているだけでも物凄く楽しめた。
ダンジョン付近にあった村を襲撃した時も、リビングアームズと競走しながら村人達を殺した。お陰で羨望を感じる事無く全滅させられた。
前に逃がしてしまった足の速い男が居たが、どうにか追い付いてしがみ付いた所をリビングアームズの憑いた複数の短剣で貫いて殺した。魔法によって足が特別速いだけで、以前一緒に来ていた自爆した男の方が余程怖かった。使う者によって威力に差があるかもしれず、その場合に考えられる最悪の事態としてダンジョン内の全てを破壊されかねないのだから、あれだけは決して無視出来ない。
死体を全て吸収した際に得た迷宮力で生み出した、毒の湧き出る杯を井戸へと投げ入れた。飲めば重めの食中毒程度の症状が出る。致死性は低いが、戦闘不能になる者は多いだろう。最後に、村にあった火付け道具で全ての家に火を点けた。これでもう、この村は拠点として使えなくなった。
村を一つ滅ぼした事により、ダンジョンの力は外でもある程度通用すると認識していた。Cランク以下の冒険者なら正面からでも良い勝負が出来ると思う。無論、そんな無謀な事はしないけれど。
Aランクは当然として、Bランクの冒険者が相手なら負けてしまうだろうが、それでも一撃で意識を奪われなければ、逃げる事くらいは出来るだろう。靴を使って急加速して離れる事も出来るし、いざという時はダンジョンへ帰還すれば良いだけだ。
実験終了、準備は出来た。今回私が外に出るのは、フェンダーレンのギルドと相互不可侵の約束を結ばせるためだ。しかし、私の方針により言葉を話せる魔物は居ないし、居たとしても見た目が明らかに魔物であれば発見され次第攻撃される。当然新たに生み出す気は無く、話を付けるのであれば私が一番適任だった。
移動を開始しながら、街に潜伏させているラピッドラットとシャドウに、ギルドマスター宛てのメッセージを送らせた。これから会いに行く、と。
ブロークン・ダンジョン・コア 清水悠生 @haruki_s
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