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あんな大騒ぎだったのに、近所の人たちは何も気づかなかったらしい。
あとで夜勤から帰ってきたお母さんにも聞いたけれど、あの晩は町のどこかが騒がしい、という話さえ聞かれなかったみたい。
これも化けねこの力なのかな。
「ありがとう、光明寺さん」
「いや。タマさんが、なにかおかしいと気づいて相談してくれたからですよ。おかげで壺のことにも気づくことができた」
「大猫又姫は、どうして〈悪くなかった〉って言ってたのかねえ」
「ほらまたタマさん、気づいてくれた」
ぼくもそれは気になっていた。
光明寺さんが話してくれたことによると、大猫又姫はもともと、戦国時代のとある国で、まだ幼いというのに人質としてあちこちを移されたあげく、都合で殺されてしまった姫なのだという。
「わけもわからず、誰かに利用されたくない。そんな強い〈念〉なのでしょうね」
だからといって、化けねこたちを食べてしまうのはだめだ。しかも何度も。
「同じように苦しい思いを知っている化けねこだっているよね?」
「おっ。きみも、なかなかわかってるね。さすがタマさんのご家族だ」
化けねこたちはそれぞれ帰っていった。
光明寺さんも、ビジネスホテルに戻っていった。明日から助けが要る化けねこの町を回るんだって。
ぼくとタマは部屋を片付けて、いつものように眠った。
〈謎の失踪事件〉は、これで一応終わった。
* *
何日かして、商店街も、すっかり元に戻った。
今日の夕ごはんは、又吉おじさんの店のコロッケだ。
「ふむう」
今日、タマはキャベツを刻んでみる。こないだはそれどころじゃなくて、できなかったから。
「包丁は、しっかり持ってね」
「ふむう」
「キャベツを押さえる方の手は、〈ねこの手〉だよ」
「〈ねこの手〉?」
タマの包丁を持っていない方の手が、ねこの手になった。
「ううん、人間の手だけど、ねこみたいにこうして丸くしてみてね」
「人間の手で、ねこの手……ふむう」
「こうすると、あぶなくないんだ」
「〈ねこの手〉は、いい手なんだねえ」
「そうだね」
タマはごきげんでキャベツをゆっくり刻んだ。
夕ごはんは、おいしかった。
「タマ、上手ね」
お母さんもほめてくれた。
* *
そうそう。時々ぼくも〈化けねこ集会電脳版〉にログインしていいことになった。
お母さん、保護ねこへの寄付は大切ねって、課金も相談してからならいいことになった。
〈こんにちは〉
〈こんにちは〉
このゲームは通信もできて、ぼくは今日は〈マタタビ☆〉くんという子と、化けねこ集会のおやつ集めのミッションを行っている。
(〈マタタビ☆〉くんて、化けねこなのかな?)
そこはお互いわからないけれど。
(〈カリカリ、ゲットした!〉)
(〈やった!〉)
タマは、窓の近くでお日様を浴びながらアイロンをかけている。
ぼくたちの町は、これからもこうしていくんだなあ。
(お父さん)
そう。お父さんともいっしょなんだ。
おかえり。あそぼうよ。 倉沢トモエ @kisaragi_01
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