最終日 別れと大好き

最終日だ。もうここにいれる時間は、ほんの少しだ。毎日が楽しくて面白かった。

小学生の頃のときめきを思い出せれたような気がしていた。そんな素敵な場所も自分の帰る場所があるからには、帰らないといけない。心のどこかで帰りたくないと嫌がっている。


「どうだい、10日間っていうのは?オレもいきなりの連絡でさっぱりだったけど」

「あっという間でしたけど、楽しかったです」

「オレも楽しかったよ。やっぱり里子ちゃんはかわいいだろ?ずっと居たもんな」


確かに言われてみればそうだ。午後はずっと里子ちゃんと遊んでいた印象しかない

会わない日がなかったぐらいだ。今日は一緒に遊ぶことができない。もう会えないというふうに思うと寂しく感じる。


「そうですね。うん、まぁ素敵な女の子ですよ。とてもかわいらしいです」

「なんか、元気なさそうだけど大丈夫かよ?」

「ここへ来れることがないと考えると寂しく感じるからですかね」





別れのあいさつをするため、里子ちゃんの家の前に立っている。しかし、昨日のことが胸の突っ掛かる。勇気を出してノックをした。反応がない。もう一度ノックをした。だけど反応はない。家に戻ろうと決めて足を動すことに決めた。帰ろうとすると、ドアがガラガラ開いて里子ちゃんのお母さんが出てきた


「あら、渡くんじゃない?どうしたの」

「里子ちゃんにお別れを」

「はぁ、あの子ったらねぇ。自転車で何も言わずにどっか行っちゃったのよね。ごめんね、わざわざ来てもらって」

「大丈夫ですよ。こちらこそ、お世話になりました」


里子ちゃんのお母さんに一礼して、その場を去った。あいさつを言いに来ると予想をしていたのかもしれない。嫌われていても、あいさつするだけはしてあげたかった。





準備をして軽トラに乗った。里子ちゃんにあいさつができなかったことが、どうやっても胸に引っ掛かる。せめて何かを言いたかった気持ちがある。何を言いたかったかは分からない。だけど、顔を合わせて言いたかった気持ちだけが残っている


「どうしたんだよ?しょげた顔してさ」

「里子ちゃんに挨拶できなかった」

「それは残念だな。まぁ、いいもの渡すから元気だしてくれよな」


気を使わせて申し訳無く感じる。うまく隠そうとしても顔に出てしまうみたいだ。

やっぱり、ツラい気持ちは抑えきれない。



駅についた。あとは帰るだけの話だ。やることは、とても簡単。しかし実際はそんな簡単じゃない。帰りたくない気持ちが湧いてくる。それだけ、とてもいい思い出ができたからかもしれない。


「今日までありがとうございました。とても楽しかったです」

「いいんだよ、これ小遣い。帰りにメシでも食ってきな!」


そう言って純さんは軽トラに乗り「じゃあな!」と言って手を振って去っていった

前に進む気持ちに切り替えて駅の中に入った。改札口を通り、僕は駅のホームにあるイスに座った。暑い。ゆだるくらいの暑さだ。何か視線を感じるような違和感がある。気になり周りを見回すと、そこには里子ちゃんがいた。


「どうして、ここに?」


答えてくれない。俯いてい黙っている。しかし何かを言いたそうな顔をしている。

ここに里子ちゃんが居る状況と理由が全く理解ができない。体中の血管がすごい速さで巡っている感覚がある。どうしてここにいるのだろうか?


「黙ってられても、困るよ!君はどうしてここにいるの?」

「ごめん!私は怒ってない。これを渡したかったけど、渡せなかった。だから、ここで言うよ。これは不必要だよね」


その薄ピンクのレターの意味が分かった。これは、自分のために書いたものだ。内容は予想できないがそれだけは分かる。里子ちゃんは破ろうとしている。早く行動に出ないとやぶられてしまう。気持ちで伝えるしか方法はない


「ダメだ!それだけはやめてくれ。里子ちゃんの気持ちがこもったものだから、破るなら僕に渡してくれ!」

「ごめん、じゃあ言いたいこと言うね。私ね、渡くんのことが好きなの!今日で帰るなんてありえないよ!優しくて毎日遊んでくれた渡くんが好き!ずっと一目惚れでした。渡くんに恋してました」


そのの一言ですべて分かった。目から涙がたくさん溢れ出してきた。あの手紙の内容、そして一緒にいる時に感じる不思議なもの。すべてが恋だと理解が今できた。胸が激しく鼓動を打っている。すべてを理解した。自分は里子ちゃんに恋をしていたんだ。どうして、気づかなかったのだろうか


「ありがとう、気づいたよ!僕は里子ちゃんのことが好きだ!大好きで僕も帰りたくない」

「渡くん!」


里子ちゃんと抱きしめ合った。離れたくない。そうこのままずっと抱きしめて離れたくない気持ちが爆発した。けど、それは不可能だ。電車が来る音が聞こえてくる。さようならの時間が近いみたいだ。


「電車が来ちゃったね」

「そうだね。また絶対に会いに行くよ!」

「さよなら、渡くん。今度は上野のパンダさんデートしようね」


僕の唇は少し濡れた。ほのかに甘酸っぱい爽やかな味がした。里子ちゃんは涙を流しながら笑っている。戻りたくない、だけど僕は行く。さよなら里子ちゃん。

電車の扉が閉じて動き出した。彼女はホームを走り涙を流し、笑って手を振っていた


「また、会えるといいな」


僕はこの思い出は絶対に忘れない。あの夏に会える日ために今でも想っている。

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はちみつレモン 白石こゆぎ @kosuke15to

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