第9話 薄ピンクのレター

ここがどういう場所か分からなかった。親からは道先を教わっただけで、その場所についての情報がまったくなかった。車窓から見えたのは畑だけ。ビル一つもない、ひたすら畑がある。ハッキリ言って宿題をこなしてくだけの退屈な10日を過ごすだろうと考えていた。でも、実際はそうじゃなかった。純さんは、いい人でとても優しい。そして里子ちゃんにも出会った。最初は慣れないせいか戸惑うことがあったが徐々になれてきたおかげか、かなり楽しく遊んでいた。まだ、ここにいたいという気持ちが湧いてくる明日には帰らないといけない。


「お〜い、里子ちゃんが呼んでいるぞ」

「え!?」


昨日程ではないが、少し早い。土間に向かうと里子ちゃんが座っている。どこかいつもと違う雰囲気だ。目が合った瞬間、自分の手を掴んで見つめてきた。


「明日で帰っちゃうの?」

「うん、そうだね。少し寂しいかもしれないけど」

「そっか.....純さん。私、今日は渡くんと一緒に居たいけどダメかな!?」


里子ちゃんは顔を伏せて恥ずかしそうにしている。正直どうすればいいのかハッキリ言って分からない。しかし純さんはなぜかニヤけている。全く状況が分からない。

自分がなにかものを察することがヘタクソなだけかもしれない。


「そんないい男なのかぁ〜?いいけどさ、夕方には帰らせてあげてね」

里子ちゃんはやったー!と喜んで僕の手をいきなり掴んで外へ走った。こけそうになったが、とにかくよくわからない。純さんが、手を振っているのだけは分かった



昨日も見た景色だ。ふとベットの方を見ると、あの時の麦わら帽子があった懐かしく感じた。たかが数日の出来事なのに懐かしいと感じる。もう明日には帰ってしまう。とても考え深い。


「これ、初めて会った時につけてた麦わら帽子だよね」

「そうだね、よく覚えているね!」

「まぁ、キレイだったからかな。白ワンピースに麦わら帽子の姿は覚えているよ」


白ワンピースと麦わら帽子。その格好はドラマとかのフィクションの世界でしか存在しないと思った。だから初めて見た時、夢でも見たのではないかと思っていた。とても健気でキレイだった姿が印象に残っている


「ちょっと飲み物を持ってくるね」

「あ、うん分かった」


そう言って里子ちゃんは席を外した。特に意味などなく好奇心で部屋を見回した。

すると机に薄ピンクの手紙があった。ハートのシールで閉じてある。友達への手紙だろうか?あるいは好きな人がいるのかもしれない。そう思考が回った瞬間、気分の調子がガクンと悪くなった。少し息が上手く出来ない。とてもショッキングな気分になった気がする。


「あ、それ!?」


里子ちゃんがすごい勢いでお盆を机に置いて、慌ててやってきた。や変なマネはしなかった方がよかったみたいだ。頭の中が余計にパニックになった。どうしようと頭の中を駆け巡らせて、とりあえず謝ることが第一だと感じた。


「ごめん!好奇心を抑えれなかったんだ。申し訳無い!」

「大丈夫、とりあえず座ってくれないかな」


大丈夫と言っているが、いつもの明るさがあるような声ではない。少し物静かな暗いような喋り方をしている。自分とも視線を合わせる様子もなく俯いている。自分がいかに失態をしたかと、ひしひしと感じる。


「ねぇ、明日は何時の電車に乗るの?」

「3時の電車だと思うけど、その」

「私は怒ってないよ?ただ秘密がバレたっていうか.....大丈夫。うん」


お互い黙り込み、沈黙が起きた。とても息苦しい沈黙だ。どうすればいいのか分からない。何をすれば良いのかハッキリ分からないただ体がとても重く感じる。これはどうしようもない。


「ごめん、ちょっと一人になりたいな。今日はその」

「うん。分かったよ、ごめんね」


その場を去り、部屋のドアを閉じた。今日で里子ちゃんと遊べるのは最後。今日はとても楽しく遊ぶつもりだった。だけど、すべてをぶち壊したのは間違えなく自分。さっきの一つのことで女の子の心を傷つけた。里子ちゃんの家を出ていった。感情がたくさん入り混じって頭が爆発しそうになっている


「まって!渡くん」


声が聞こえた。振り向いてみると里子ちゃんがこちらに向かって走ってきてる。僕の目を合わせて笑っている。怒っているような表情が一つもない。都合のいい夢でも見ている気分だ。どうして自分に向かって笑っているのだろうか。


「明日、絶対に会うからね。私は渡くんの事が好きだから!寂しいけど、明日だね。バイバイ、怒ってないからね!」


里子ちゃんはニッコリとして手を振っている。明日がある、だからこそ前向きになるべきだ。僕はそう思い、手を振り返してあげた。

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