アンチフェミニスト 桃太郎

第1話

 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがすんでいました。

 おじいさんが山へ柴刈りに行こうとしたところ、

「男女同権の時代に女が柴刈りに行けないなんておかしいわ」

 とフェミニストのおばあさんに一喝されてしまいました。

 しかし今までの仕事をそうかんたんに取られるわけにはいきません。おじいさんはなおも食い下がります。

「でも山は危険じゃ…… 道は険しいし、獣も賊もおるんじゃ」

「男にできる仕事が女にできないっていうの」

 と言われ、なくなくおじいさんは折れました。



 泣く泣く川へ洗濯に行ったおじいさん。おばあさんの黄ばんだ下着を洗いながら、男女の仲について物思いにふけっていると。

 遠くに山賊の姿が見えました。

 風に乗って届くすっぱい体臭、伸び放題のひげと髪の毛。まさに悪人です。

 幸い、川は見晴らしがよく、村にも近かったのでおじいさんは命からがら村にたどり着くことができました。

「ばあさんは大丈夫じゃろうか……」

 芝刈りに行ったおばあさんを、おじいさんは嫌な予感とともに想いました。



 おばあさんは山で柴刈りをしていましたが、なれない作業におじいさんの半分も刈れません。

 老いたりとはいえ男の方が女より力があるせいか、記憶にあるおじいさんよりずっと少ない柴しか持ち運びできず、何度も何度も柴積み場と山を往復したためへとへとになってしまいました。

 でもおばあさんはへこたれません。

「男女同権の第一歩よ」

 その思いを胸に、再び斧と鎌を手にして柴刈りに取り掛かります。

 すると、目の前に山賊が現れました。

 川と違って見通しが効かない山の中で、山賊たちは隠れて近づいたのです。

 逃げようと後ずさりするおばあさん。しかし周囲をすでに山賊に囲まれ、逃げ場がありません。

「こないで、こないで」

 おばあさんは斧と鎌を必死に振り回しますが、山仕事に不慣れな、しかも女の細腕を恐れる山賊などおりません。

 あっという間に武器を奪われ、必死に集めた柴も山賊にとられてしまいました。

 おまけに山賊は熟女もいける口。老婆すらストライクゾーン。


 おばあさんは無残にもたいせつなものをうばわれました。



 山賊に辱められ、殺されたたおばあさんの亡骸を埋葬しながらおじいさんは誓いました。

 仇を取るぞ、おばあさん。それが男の務め。

 おばあさんが聞いたらつっこみまちがいなしのセリフですが、とにもかくにもおじいさんはおばあさんの忘れ形見、双子の兄妹を大切に育てました。

 強く賢く美しく。

 盗賊に復讐できるように。

 おじいさんも自分を鍛え、双子を鍛え、金を稼ぎ、復讐のためにあらゆる準備を整えました。

 しかし無理をしすぎた反動か、おじいさんは体を壊し盗賊退治に向かえなくなりました。

 やむなくやがて大きくなった双子の兄妹、桃太郎と桃姫子に後を託しました。二人はおじいさんがしらべあげた盗賊の拠点、鬼ヶ島へと旅立ちました。

 鬼ヶ島は海を渡った他国にあり、その国では盗賊を鬼と呼ぶのです。

 途中でさる、からす、ぶたと名乗る三人のりりしい若武者が鬼退治に参加させてくれとたのみこんできましたが

「うん。いいよ。いっしょに鬼を倒そう!」

 とこころよく仲間に加えた桃太郎に対し。

「なんで男の手なんて借りるのよ、私は女だけで盗賊を倒すわ!」

 と桃姫子はすべてのさそいをことわりました。


「かわいくねえねえちゃん、きーきー」

「かわいいのは顔だけか、かあかあ」

「わし、あんな性格きつい女いやだ、ぶひぶひ」

 さる、からす、ぶたどころか国すべての若武者に嫌われた桃姫子は鬼ヶ島へと向かうことすらできず、悶々とした日々を送りました。

 女だけで盗賊を倒したい。でもおばあさんと同じ運命をたどりたくない。

 そう思った桃姫子は秘策を考えつきました。




「こ、こんなに…… いいんですかい?」

「いいのよ」

 桃姫子は自分の路銀と、寝ている隙にこっそり奪い取った桃太郎の路銀をすべて鉄砲職人に渡しました。

 おじいさんは山で柴刈りをしつつ小さな盗賊退治で賞金を稼いでいたので、だいぶお金はありました。

「姫子! なんてことをするんだ!」

 路銀をほとんどとられた桃太郎は桃姫子に詰め寄りましたが、彼女はどこ吹く風です。

「なによ。盗賊退治が目的なんだから、私がやったっていいでしょ?」

「人から金を奪って、なんだその言い方は!」

「正当な報酬よ。男はずっと女から搾取してきたんだから、それくらい当然だわ」


「ひでえ女だ、きーきー」

「やっぱ女って顔だけだな、かあかあ」

「でも桃太郎さん、おいらたちもただ働きはごめんだ。あんたに協力する話はなかったことにさせてもらいますぜ、ぶひぶひ」

「こら、お前たち!」

 せっかく集めた仲間に裏切られ、泣く泣く桃太郎は鬼退治をあきらめました。

 一方、桃姫子は自分で雇った女傭兵とともに鬼ヶ島に向かうことにしました。



 やがて桃姫子と女傭兵たちは鬼ヶ島にたどりつきます。

 桃姫子がありがねはたいてかった鉄砲と玉薬を女傭兵にもたせ、上陸しました。

「お、おんなだ」

「めんこいな、しかも若い」

「俺は熟女がいいんだがなあ」

 桃姫子は熟女好きを公言した盗賊を真っ先に撃ち殺しました。おばあさんを犯して殺したのは熟女好きと聞かされていたからです。

 眉間からちをふきだして倒れる盗賊を見て、桃姫子は唇をゆがめました。

「ああ、たのしい。男を殺すのって、こんなに気持ちがいいのね」

 少なくとも肉体において男女はびょうどうではありません。

 槍や弓の威力や射程はつかいての筋力に比例します。

 ただし、鉄砲はひきがねを引きさえすれば男女のくべつなく同じ威力がでます。

 なのでおじいさんは、桃姫子に鉄砲術をてっていてきに仕込んだのでした。

「よし、とつげき!」

 桃姫子の後に続く女性たちも、盗賊どもを撃ちころしまくります。

 かつて男性に乱暴されたり家族を犯された女性は、盗賊に対して容赦がありません。

 殺す盗賊がいなくなるまで、女たちは引き金を引き続けました。



 鬼ヶ島から盗賊たちを追い払った桃姫子たちは、ここに女だけの国を築きました。

 最初はみんな、しあわせでした。

 男が一人もいないのだから。

 産まない自由を満喫し、盗賊の残したいんふらと食料、財宝でやりたい放題です。

 しかしやがて、女の中にもかーすとが生まれ、序列ができます。

 女の中でやがて男がいた時と、同じような地位と立場を持つものがあらわれました。

 彼らはほしいままに命令し、うばい、気に入った女に夜の相手を命じます。

 かーすと低位の女たちは、男がなつかしくなりました。

 特に孤閨を耐える夜。

 しかし舟という舟はすべて奪われ、逃げることができませんでした。

 


 やがて数年が過ぎたある日、鬼ヶ島に何隻かのふねが近づいてきます。先頭に乗っているのは、桃太郎でした。

 数年たった桃太郎はイケメンとなり、いぬ、からす、ぶたたちもフツメン以上イケメン未満という顔立ちになっていました。

 皆鬼退治のために己を鍛え上げ、小さな仕事をコツコツこなすうちに精悍な顔つきと女好きする肉体美を手に入れたのでした。

 かーすと上位の女たちに搾取されるだけのそんざいだった下位の女たちは、男たちの上陸を喜びます。

 一方桃姫子をはじめとしたかーすと上位の女たちは、

「今頃何しに来たの、にいさん。もう私たちは鬼を退治し、ここで幸せに暮らしているわ」

 と取り付く島もありませんでした。

 希望者だけでも返そうと桃太郎は提案しますが、桃姫子は受け入れません。

 やがて男を求める女と、男を拒否する女の間で争いが始まります。

 桃太郎はじめ、鬼ヶ島の女傭兵とねんごろになった男たちは前者の味方に付きます。

 鉄砲の火力と槍の突撃力を併せ持つ男女混成軍は、なんなく女軍をうちやぶりました。

 桃姫子は捉えられ、今まで虐げてきた女たちの手で首をはねられます。

 桃太郎はじめ男たちは妹たちの助命を願いましたが、女たちは許しませんでした。

 


 桃太郎といぬ、きじ、ぶたたちはきれいなおよめさんをげっとし、戦死者への慰霊を欠かすことなくしあわせにくらしました。


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アンチフェミニスト 桃太郎 @kirikiri1941

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