第14話 そして、これからも

「おぉ……バルネット、奮発したわね。これ超人気のお店のやつでしょ」


 ラウィーリア家の中庭の一画で、ウィナはクッキーを摘まみ上げた。ひとつひとつに色鮮やかな模様を描かれたそれは、一目で高級なものだとわかる。かじると軽やかな音がして果物の風味が広がり、思わず頬を綻ばせた。


「値段や行列よりも、俺には店の中の方がよっぽど苦行だった……」


 持ってきた本人がカップを置いてため息をつく。それを見て、青いドレスに身を包んだフィロメニアが笑った。


「婦女子向けの店だからな。人を使わずに自分で買いに行ったのか。良い心がけだ」


「言ってくれれば一緒に行ったのに」


 ここ数日、大事を取って休養を言い渡されていたウィナは口を尖らせる。


 仕事をすれば同僚に止められ、学院は授業が行われておらず、友人たちも仕事か実家に帰省している状態だ。一人で休めと言われても暇を持て余すのみである。


 故に買い物に行くのなら声をかけてくれてもいいと思うのだが。


「お前に甘んじる俺が嫌だ」


 バルネットはきっぱりと前を向いて言った。わからないでもないけどそういうところがズレてる、とウィナは思う。


「ふふ、甘えん坊は卒業か?」


「勘弁してくれ」


「この間、ぴーぴー泣いてた」


 両手を挙げて降伏の意を示すバルネットに意地悪を言うと、逆側でフィロメニアの動きが止まった。ウィナは何事かと首をめぐらせる。


「ウィナ、それは私にも刺さる」


「そう言われればアタシにも刺さってるな……?」


 こちらを見ていたバルネットが思いついたような表情に変わった。


「そうだ。皆同じだ。泣き虫は俺だけじゃない」


「「それはない」」


 フィロメニアと声が重なる。直後、バルネットが崩れ落ち、笑い声が上がった。


 かつて、この庭を三人で走り回ったときを思い出す。


 年齢や立場が変わったとしても、きっと自分たちが互いを想い合うこの気持ちは変わらないのだろう。


 背中を押したり、支えられて、時には向かい合って、胸の内を通じ合わせる。走ってゆく自分たちは決して横並びではないけれど、離れ離れになることはない。


 日が暮れて、この庭に帰ってくるとき、いつも自分たちはその手を握り合っていたのだから。

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蒼き魔装《ティタニス》の侍女騎士 〜メイドですがお嬢様を守るためにロボに乗ります〜 阿澄飛鳥 @AsumiAsuna

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