第4話
「おはようございまっす!」
「……おはよう」
自分の机に着き、挨拶を交わす。
相変わらず先輩は不機嫌そうに新聞を読んでいる。
「最近早いじゃねぇか」
「え……!」
そうだ、たしかに早くなっている。
だってきら姉が朝ごはんを作ってくれるから。
前までなら素直に喜んでいたかもしれないが、怪盗だと知ってからは気まずくなった朝の時間。
だから、逃げるように家を出ている。
その結果として早くここに着きます……とは言えない。
「僕も、仕事に慣れてきましたので!」
「……ほーぅ」
すっと顔を上げた先輩の顔からは、相変わらずなにを考えているかが読み取れない。
「して、正義よ」
「は、はい!」
「怪盗シャイニーの正体は何者だと思う?」
「ええ……!?」
一難去ってまた一難。
むしろこっちのほうが難問だ。
またしても素直に答えるわけにはいかない。
さっきまで一緒にご飯を食べていた幼なじみがそうですなんて言ったら、大騒ぎだ。
「正体……ですか?」
そもそも、どうしてそんなことを聞くのだろうか。
僕なんかが知っているはずないのに。
……ホントは知ってるけど。
「今署内はその話題でもちきりなんで、お前の意見も聞いてみようと思ってな」
なるほど、そうなのか。
まだここでの仕事仲間があまりいないので、話題に疎い僕は知らなかった。
「ウワサでは体操選手だと言われている。なにせ軽々塀を乗り越え、屋根に飛び移る運動神経があるからな」
そう言われると、きら姉って身軽だよな……。
体操選手というのもあながち間違っていない。
きら姉は高校生のとき新体操部だったし、今もヨガやストレッチの動画を撮って配信していたりする。
「おい、聞いてるのか正義? 早く答えろ!」
「あ、ああ、はい!」
今は脳内で回想している場合じゃない。
「僕は……」
「……」
先輩がにらんでる……。
早く答えなきゃ。
「怪盗シャイニーは……」
「……」
ええと、どうしよう。
正直には答えられない。
けど、ウソは苦手なんだよ……。
正直者の正義だから!
となると、いっそのこと真実を!
「普通の一般人だと思います!」
僕は緊張のあまり大声で叫んでしまった。
そのせいでみんなの注目が僕に集まり、急にあたりが静まり返る。
あれ、まずい?
「正義……」
先輩は僕の肩に手を置いて、じっと目を合わせる。
これは怒らせてしまったかも……。
「お前の言う『普通の一般人』ってのはなんだ?」
その一言で、今度はみんなが笑いが出した。
「そんないいかげんな条件、誰でも当てはまるじゃねぇか。もっと考えてものを言え」
「……すいません」
よかった、怒られはしなかった。
それに、変に疑われもしなかったので一件落着だ。
これでよかったのかな?
「まぁ、正体がなんにせよ悪人であることに変わりない。いつかは捕まるだろうな」
「悪人……」
きら姉が……。
「本当に、悪人なんでしょうか?」
「あぁ?」
つい本音が口を出てしまった。
まだきら姉が怪盗で、悪人だとは信じられずにいたから。
「どう見たって悪人だろ、あんなことやってたら」
「でも……!」
「落ち着け」
目を細めてさらに鋭いまなざしで僕を見据える先輩。
その恐ろしさに口が閉じる。
「いいか、正義」
先輩はくるりと背中を向け、新聞を開きながら語り始めた。
いつもの気怠げな様子に変わりないけど、今日は声に芯が通っている気がした。
「お前が奴にどんな思いを抱いているかは知らねぇが、やってることは罪だ。罪を犯した奴が誰であろうと捕まえるのが俺達の仕事だ」
「そ、そうですが……。彼女は……」
きら姉は……。
きら姉を……。
「まさかあんな人がってのは日常茶飯事だ。案外お前の隣人が怪盗なのかもしれんぞ?」
僕はニヤリと笑う先輩の冗談に黙ってしまった。
まさかの再会、隣の幼馴染は。 砂漠の使徒 @461kuma
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