第3話
「おっはよー!」
「おは……よう」
今日も元気な挨拶が聞こえてきたが、もう突っ込まない。
三日目ともなるとなれてきた。
けれど、疑問は尽きない。
「なんか最近すごく絡んでくるよね……?」
別に嫌ではない。
ただ、不思議に思ったんだ。
ここまで過保護じゃなかったよ、絶対。
連日会いに来るなんて、小学生のとき以来かも。
「だってー、お仕事も始まって正ちゃんいろいろ不安でしょ? お悩み聞いてあげたいもん♪」
にこにこと語りかけてくるきら姉。
心配してくれているのは十分伝わってくる。
昔僕の宿題を手伝ってくれたきら姉の姿が浮かぶ。
「ありがとう」
その気持ちはありがたい。
しかし、昔みたいに素直に喜べないのは僕が大人になったからだろうか。
それとも。
「ってことで、ずばり今一番の悩みは!?」
そう、今一番の悩みこそがきら姉と対面した時のもやもやの正体。
「人間関係? お仕事の内容? はたまたお給料?」
「全然違うよ、僕が今一番悩んでるのは……」
「なんでも言ってね、私が受け止めてあげる!」
きら姉が胸を張り、そこに右手を勢いよく叩きつける。
頼もしい……とも思うだが、男としては手が当たった瞬間に揺れた二つの果実が気になるところ。
って、そうじゃない!
僕の悩みを言うんだった。
「きら姉が怪盗だってこと……」
リビングのお母さんに聞こえないようにこっそり呟く。
仕事の不安もいっぱいある。
でも、圧倒的にこれが気になる。
警察官としてではなく、幼馴染みとして。
そんな僕の気持ちを汲み取ってくれたかは怪しい笑みを浮かべて、きら姉はこう宣言した。
「ふっふっふ〜、それじゃあ質問に答えてあげる!」
なんで質問コーナーがいきなり始まったのかを訊きたかったが、それは置いておく。
なんてったって、今が絶好のチャンスだから。
「きら姉はどうして怪盗をしてるの?」
初めに出たのはこれ。
心優しいきら姉が、盗みなんかするはずないとまだ思っているから。
特別な事情が……あったらいいな。
「どうして……かー。かっこいいから?」
腕組みをして真剣に悩んだのもつかの間、かなりいいかげんな返答が来た。
かっこいいから……。
それ、理由になってるかな?
「もっと具体的な理由はないの? 例えば、お金持ちになるためとか」
「ふふ、たしかにお金は稼げそうね。でも、それは目的じゃないわ」
一つわかった。
お金じゃないらしい。
「じゃあ、なんだろうな」
お金以外で怪盗をやる理由って、案外見つからない。
「盗んだ宝石を貧しい人にあげてるとかあるかもよ?」
なぜかきら姉も推測しだしている、意味が分からない。
うーん、たしかにそれも考えられるな。
石川五右衛門みたいだ。
「でも、それって宝石を売るときとかに疑われたりしそう」
特に美術館にあるほど貴重なもの、絶対ばれる。
「うん、だからやってないよ」
やってないのかよ!
自分で言い出したからそうなのかと思ったじゃんか!
「他にはなにがあるかな……」
と、理由をひねり出していると、きら姉がちょっぴり神妙な顔で呟いた。
「私、思うんだよね」
「なにが?」
「謎は謎のままが、美しいんじゃない?」
「……」
僕は思わず黙った。
納得したからだ。
世の中には知らないほうがいいこともある。
知ってしまったら、知らないときには戻れない。
もし僕が、きら姉の謎を解き明かしてしまったのなら。
この関係も崩れてしまう。
それならば。
「頑張って考えてる正ちゃんには申し訳ないけど、もう時間だよー」
こうして今朝も、謎が深まるばかりの朝食が終わりを迎えたのだった。
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