第2話

 ピピピピ!


 鋭い電子音がして、僕は目を覚ます。

 今日は目覚ましの音で起きることができた。


「ふんふんふ~ん♪」


 それが嬉しくて、鼻歌を歌いながら階段を下りた。

 すると、親しみ深い声がかかる。


「正ちゃん、おはー」


「あ、おはよう……って、なんで今日もいるんだよ、きら姉!」


 昨日は寝坊したから来てくれたのかと思っていたけど……。


「えー、だって心配だったんだもんー」


 僕をからかうような、昔から変わらないいじわるな笑み。

 なんだか毎日見ているよな、この顔。

 昨日なんて、朝と夜に二回も見た。


 夜?

 夜は遅くまで仕事で、きら姉は見てないよな?


「えーと……」


 大事なことを忘れている。

 まだ寝ぼけている頭を必死に動かし、昨夜の出来事を振り返る。

 たしか美術館で居眠りをして、きら姉の夢を見たような。

 そして、起きたら怪盗シャイニーがいて……。


「あー!!!」


「きゃ!!」


「思い出したぞ!」


「もー、正ちゃん! 味噌汁かかったじゃない!」


 頬を膨らませて抗議するきら姉。


「え、あ、ごめん……じゃなくて!」


 僕は超重大なことを思い出したんだ!


「昨日怪盗シャイニーに会ったんだけどさ」


「えー、すごーい!」


 目を輝かせ、僕の話に食いついてくるきら姉。

 ……この反応、違うのかな?

 いや、だまされるな。


「シャイニーの正体って、きら姉なの?」


「……」


 きら姉は突然きょとんとして、静かになった。

 こんなに黙っちゃうのは珍しい。

 そして、あたりをきょろきょろ確認している。

 母さんは今、ゴミ出しに行っているはずだ。


「そうよ、正ちゃん」


「……」


 今度は僕が黙った。

 だって、あまりにもあっさり言うんだもの。

 衝撃的すぎて、思考停止しかけた。


「で、正ちゃんはどうしたいの?」


「ど、どうって?」


「私を捕まえたいの? ならどうぞー」


 僕の目の前に両手を重ねて突き出すきら姉。

 その顔は、今までにないくらい感情を読み取れない無の表情だ。

 僕はまだ状況についていけない。


「いや、そんな……。僕は……」


 仮にきら姉が怪盗なら、捕まえるべきだ。

 でも、開口一番出たのは否定の言葉だった。

 それはやっぱり、きら姉のことが好きだから。

 いや、この好きってのは。


「しっかーく!!!」


「いってぇ!!」


 肩がずきずきと痛む。

 一瞬なにが起こったかわからなかった。

 きら姉はいつもの笑顔に戻り、僕の肩に手を当てている。

 思いっきり叩かれたんだ。


「怪盗を逃がすなんて、警察官失格だぞー!」


「あ、はは……。そうだよね」


「で、もう一度聞くけどどうするんだい?」


 これだ。

 また僕をからかってる。

 今日こそ、見返してやる。


「僕はまだ、きら姉が怪盗かだなんて決めつけられないし……」


「ふむ」


「でもいつか! 怪盗だという証拠を掴んだら!」


「捕まえに来ちゃう?」


「う、うん」


 よし、言えたぞ!

 僕にしては勇気を出せた!


「じゃあー、それまでにきら姉は海外にでも引っ越そうかなー」


「え。それは……」


 たった一言で、僕は再び困惑し始める。

 きら姉は手ごわいんだ。


「あ、正ちゃん、時計見て! 遅刻しちゃうよ!」


「あ、ホントだ!」


 結局僕はまた、変にごまかされて別れることになってしまった。

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