まさかの再会、隣の幼馴染は。
砂漠の使徒
第1話
「正ちゃんー! もう遅刻しちゃうぞー!!」
まぶしい朝日が窓から差し込んできている。
僕は隣の家に住んでいる幼馴染のきら姉の元気な声で眠りから覚めた。
「う、う~ん。今何時だ?」
寝ぼけ眼をこすりながら時計を見ると、8時だ。
「……やべっ!」
もうこんな時間かよ!
今から朝ごはん作ってたんじゃ、遅刻確定だよー!
「今日は抜きで行くかー……」
早着替えを済ませ、どたどたと急いで階段を下りながら空腹のまま出勤することに嘆く。
「ふふ、そんなことだろうと思って作って置いたわよ」
「き、きら姉……」
得意げに笑顔を浮かべ、食卓についている。
その前にはきれいに丸く焼かれた目玉焼き、そこに熱々のご飯と味噌汁だ。
「作ってくれたの?」
「だって、正ちゃん起きそうになかったでしょ」
「そうだけど……」
一応これでも今年から警察官として働き始めたんだ。
炊事だって、一人でできる。
だから、お母さんにもあえて僕の分は作らないでいいって言ってたのに。
「おばさーん、やっぱり作ってあげたらどうですかー?」
「ちょっ、やめろって!」
「あらそうねぇ。きららちゃんになら毎日作ってあげてほしいわ」
リビングでテレビを見ていたお母さんが遠くから返事をした。
「ね、どうする?」
「ど、どうもしないよ!」
僕はくすぐったい羞恥心を払うようにご飯を口にかき込み、家を出た。
==========
「おはようございますっ!」
遅刻ぎりぎりでデスクに到着だ。
先輩にあいさつを交わす。
「おーう、危なかったなー。後1分で反省文だったぞー」
先輩は新聞を読みながら適当に返事をした。
間に合ってよかった……。
そう安心した時だ。
「た、大変だー!」
ドアを勢いよく開けて誰かが走って来た。
「あの怪盗シャイニーからの予告状が届いたんだ!!」
「な、なんだってー!!」
怪盗シャイニー。
その名前なら新米の僕だって知っている。
なぜなら、今日本を騒がしている大泥棒だからだ。
数々の美術館や博物館、果ては富豪の豪邸に入り込み、お宝を盗んでいく。
毎回予告状を送るのがセオリーだ。
「今夜〇×美術館の目玉展示品『エターナル・ライティング・スペシャル・プレシャス・ジュエリー』を盗むとのことです!」
「ええーー!!」
あのELSPJ(エターナル・ライティング・スペシャル・プレシャス・ジュエリー)を!
この町の目玉で、観光客の9割があれを目当てにしているのに!
「みすみす盗まれるわけにはいかんな……。諸君、直ちに配置につけ!」
==========
「ふぁ~あ。ねむ」
朝一番にこの美術館に着いたのに、もう夜だ。
犯行時間は書かれていないので、警察官の僕達はただ待つことしかできない。
最初は怪盗との対決を夢見てやる気満々だった。
でも、もう何時間も立ちっぱなしで疲れて来たな……。
「ちょっとだけ……」
座って休もう。
周りには先輩もいないし、ばれないよね。
「来るなら来るで……早く来てくれたら……」
==========
「正ちゃんー、朝だよー」
「むにゃ……」
いけない。
また遅刻しちゃう。
きら姉に起こされた。
「んん?」
やけに寒いな。
布団は?
「あれ」
ここ外か。
そうだ、僕は美術館の警備を……。
「ああ!」
すっかり寝てしまっていた!
僕は慌てて立ち上がる。
危ない、危ない。
「もしこれで怪盗を逃しでもしたら……」
「ここにいるよ」
「……ん?」
おかしいな。
さっきの夢の続きをまだ見ているらしい。
いるはずのないきら姉の声が聞こえた。
「とう!」
へんてこな叫びが頭上から聞こえたと思ったら、音もなく黒ずくめの革のスーツに身を包んだ誰かが僕の前に降り立った。
「その恰好……」
特に顔に着けている豪華なマスク!
「怪盗シャイニー!」
「ぴんぽーん!」
やたら陽気に答える。
こいつ、僕をなめてるな?
「は、早く先輩に……」
「だーめ!」
怪盗は華麗な足蹴りで、腰につけていた無線機を弾き飛ばした。
「あ」
どうしよう。
連絡できない。
それじゃあ僕はなにを……。
「ねぇ、私の正体知りたくない? 正ちゃん?」
優しく語り掛けながら、僕の方へゆっくり歩み寄ってくる。
僕は驚きで、頭が真っ白になってしまった。
「正体……?」
教えてくれるのか?
あれ、ていうか今、正ちゃんって?
「私はねー」
ずいっと顔を近づけるシャイニー。
吐息が感じられるほどだ。
「おい、いたぞー!!」
遠くからみんなの声、足音が迫ってくる。
けれど、それをかき消すほどに僕の心臓は激しく波打っている。
シャイニーはなにが目的なんだ。
「えい!」
突如自らの手で仮面をはずすシャイニー。
その素顔はまさしく。
「き、きら姉……」
闇夜の中でもはっきりとわかった。
見間違えるはずがない。
何年も一緒に遊んできたきら姉だ。
「それじゃあ、バーイ!」
「あ……!」
いろいろ聞きたかったのに……。
闇に溶けて見えなくなってしまった。
「おい正義! 今ここにいたよな!! どっち行った!?」
「あ、あっちです……」
僕はただ、呆然と指さすことしかできなかった。
これが僕と彼女の初めて(?)の出会い。
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