自由人の杉本くんと、その婚約者ルリカ嬢、そしてそこになぜか付き合わされる『ぼく』の、在りし日の思い出の物語。
2012年の阪神大賞典を題材とした、現代ものの人間ドラマです。
なるほど、タグの「人生讃歌」に偽りなし。
いや、ことさら人生讃歌というとなんとなく壮大なものを想像してしまいますけど、でも物語自体は決して大仰なところがなく、自然で穏やかなところがとても魅力的でした。
とはいえ、起こる出来事そのものは、これで結構ドラマチックなのですけれど。
登場人物たちの造形というか、性格や人柄のようなものが好きです。
まさに自由人といった風格の杉本さんはもとより、ルリカさんや『ぼく』に関しても。
彼らのちょっと独特で不思議な手触りが、読んでいてとても心地いいのがたまりません。
キャラクターとしての類型や何か属性的なものではない、彼ら自身のもつ〝個〟の存在感。
自然な読み心地とその味わいが楽しい、とても素敵な現代ものドラマでした。
あと少しで幸せになれたのに、たった一つの料理が──冗談のような、嫌がらせのようなそれが、物語の毒となる。
そして結末は、かの一頭の名馬に託された。競馬史に残る大珍事がそこで待ち受けているとも知らずに……。
【オルフェーヴルを知ってる人にも知らない人にも読んで欲しい】オルフェーヴルは史実の馬で、競馬場のシーンで起きた事件も本当です。オルフェーヴルを知っている人は、少しニヤニヤしながら『その場面』を待つかもしれないですね。
でも、そのニヤニヤは止まることでしょう。華麗にねじれた決着は、オルフェーヴルを知ってるあなたの予想すらも、きっと上回る。
是非ともお読みください!