奇談 社畜

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社畜

 「この会社は辞められない。」


俺は平凡なサラリーマン、今日も社会の歯車、会社の犬、馬として働く。いや、自分だってこんな大人にはなりたくなかったのだが、自分の生死がかかると人は尊厳など気にしてはいられなくなるのだ。それも、日本は未だに同調圧力が強く、八方美人の工場と化し、面接や高校、大学などでは個性を問うくせに入社すれば個性など捨てろと暗に言われるのだ。

 人は壊れるとこうもなるのかと、自分は哀れな先輩を見つめ、自分もこうなるのだと絶望する日々だ。そんな愚痴を言っても仕方が無いので仕事をこなしていたある日、部長からこんな話があった 。「実は君に技術研修をしてもらいたい。なに、大したことではないから安心してくれ。新しく我が社では人材育成用の学校を建てることになったんだが、授業内容やスケジュール、システムを体感してフィードバックをくれたらいいだけの事なんだ。しかも受講期間は給料は出ないが、寮に住めて、寮券が内部紙幣として使えるので生活は困らないはずだし、この1ヶ月間の研修が終わったら昇給して、ボーナスも付けさせてもらうよ。良いことずくめだろ?タダで勉強出来て、給料が上がって、ボーナスも付く。」正直いい話だと思った。断る理由も無いので承諾したが、良い話すぎてむしろ少しや怪しいくらいだ。しかし会社を疑っても仕方がないことなので観念して学校へ行こう。


―今から研修用の学校へ向かうのだが、他の人ももちろん居て、少し心強かった。今は7月の初め、これから8月までは学校で色々なスキルを身につけていきたいと思う。

 どんな授業内容なのかワクワクする。


ようやく学校に着いた。外観は至って普通で、寮が奥の方に見える。

 作業もあるとの事だったので制服は作業用の動きやすいもので良かった。

 支給の教科書と筆記具、メモ帳をもって第一講義室まで行くことになっている。

 「…よって、このような研究結果より、作業効率の向上が見込める他、単純作業以外にも応用が可能と考えられる。」

 午前の講義はとても分かりやすく、意義のあるものだった。これが無料で受けれるなんて感謝でしかない。

 午後からは実技という名の作業が待っている。内職から、肉体作業まで色々あるらしい。出来ればしんど過ぎないと良いのだが…


 そうして30日が過ぎ、あと1日という所まで来て、ここを離れるのが惜しいという気持ちとこの技術や知識を実践してみたいという気持ちが混ぜ合わさって複雑な心境だ。

 「██さん、医務室まで来てください。」

アナウンスでわざわざ呼び出すとは何かがあったなと急いで向かうと、部屋に入った途端意識が朦朧として倒れてしまった ──


…………今日は風が冷たく、予報を見ると雪も降るようだ、少し寒いがこの特殊な学校で色々なスキルを身につけていきたいと思う。

 どんな授業内容なのかワクワクする。


「この会社は辞められない。」

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