転生したらじいちゃんだった(短編版、反響があれば連載)

mono-zo

第1話 転生したじいさんに、生きる意味は?


今日も部長の中身のない時代に逆境したパワハラを受けて深夜まで仕事をしている、もう会社に泊まって何日目だ?


また昼前に来る部長に「身だしなみぐらいきっちりしろ」とか言われるんだろう。


次の仕事の資料を取りに立ち上がり・・・あれ?視界が黒く歪んで・・・・・・・・・・



あ・・・・れ・・・・・・・・?





-----・・----------・・・・・・・・・・・・・・------・・-・・・・・・・・・・-------・・・・・・・・・・・・




死んだ!で、神様にあった気がする!何を話したかはわからないけど。


ズキズキと全身が痛む、特に腰、あと目も開けられないほどに頭が痛む!!!

ち、鎮痛剤くれ!!!??


痛みの中、もしかしてこれ異世界転生?赤ちゃんになった?


赤ん坊は生まれてすぐに出産で体を痛めつけられる。


さらに感覚が鋭いとかって聞くし全身ミキサーにかけられでもしたような状態は痛みでわかる。


全身を疼く激痛の中、わずかだが謎の言葉も聞こえるし下の世話や何かを食べさせてくれてるのもわかる。


それにしても腰が痛い。





何日そんな状態が続いたが、はっと意識がクリアになった気がした。


見慣れない部屋、見慣れないベッド、見慣れない女性。



「すいません、ここはどこですか?」



「~~~~~~~~~~~~~」



なにか言われるがわからない。


何語だ?やべ、赤ちゃんが喋ったら驚くよな普通。


天上天下唯我独尊ぐらい叫んだほうがまだ良かったか?


よくわからないが慌てて出ていった彼女よりも大事なことがある。


子供じゃなくね?


窓から見える光に自分の手をかざす。


しわくちゃで、傷の跡が多く、タコもできている。



どう見ても老人の手だ。



左手も同じしわくちゃ。



驚いていると歳上のおばちゃんやおっさん小さな子供が入ってきた。


服は少し派手な西洋風、泣いて抱きついてくる子供たち


なにこれ?衝撃で腰が痛む。


なんか王冠被った人が来てみんなそっちを見て跪いた。



「~~~~~、~~~~~~~~~~」



王冠の人、THE・王様がなにかいてくるが何語だろうこれ?



「えっと、何でしょうか?」


「~~~?~~~~~~、~~~~~~~~~」


「ちょっとよくわかんないです。」


「~~~~~~~~~~~~~~」



王冠の人が悲しい顔をして周りの人も色々話しかけてくるが何言ってるのかわからない。


騒いでる人たちだが何を言っても通じなかった。


よくわからないが寝て起きる生活が始まった。


立ち上がれもせずに自分の顔を見たのは顔を洗うときだった。


総白髪でおじいちゃん・・・・・・・・・・・・・・・・・・おじいちゃん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おじいちゃん!!!??






現実はかくも無惨だ・・・異世界転生って言ったらさ!逆だろ!?若くなって成長して活躍するもんだろ!!!??






医者みたいな人に診てもらったり、杖を持ったファンタジーな魔法使いも来た。


なんとか耳が少しとがった世話係との会話にボディランゲージを重ねて成功してきた。


ちょっとずつだが言葉を覚えて会話に成功し、女性がコルセットのようなものをつけてドレスを着ているのを指さして自分の腰にもつけたいとボディランゲージする。


なんとかコルセットをつけてもらえた、ここには男性用の医療コルセットもないのか・・・



なんとか行動できるようになったので庭まで歩いてみる。


うん、筋力は結構あるな、この爺ボディ、だが腰は痛い。



わしが歩くと家の人はみんな頭を下げる。


偉い人だったのかもしれないな。


たまにわしに顔の似た多分息子とか孫がくるがどんな関係かはわからない。


わし前世で童貞だったのに………



ふとしたきっかけでここの家の人が暖炉に魔法で火をつけてるのを見た。


わしもやりたい!わしもわしも!!試しに見た通り何度やってもできずに寝込んだ。


1週間ぐらいつづけると、先生が来た。





わしの初恋じゃ。




耳は長く、髪は金色で艷やかに光を反射し、女神かと思った。


良くはわからんが世話係と一緒に言葉を教えてくれて魔法も身振り手振りで教えてくれた。


1年も経てば言葉もあらかたわかるようになった。



儂の身に何が起きたか?


儂は伯爵家の三男で軍隊に入り、功績を上げまくって将軍に、この国ではずっと最強の将軍として名を馳せていたらしい。


エルフのエレーナ先生は頬を赤らめて熱く語ってくれた。


そんなあなたも好きぃ、言葉には出さないが。



そして年齢を理由に自ら将軍職を辞職、近衛兵の長として王と宮廷の警護をしていた。


あるパーティで王子の魔法が暴発、王と王妃の危機にわしが割り込み、王と王妃を助けた代償として4階のテラスの手すりに腰から激突、そのまま落下した。


頭は砕け、瀕死のところを秘薬を湯水のように使って復活。


で、起きたら今の状態。



王様に頭を下げないし、そもそも言葉が通じない。


家族の誰もわかっていない。


言葉の勉強と子供のように魔法を覚えたがるのでエレーナ先生が来た



「そりゃ、お疲れ様ですの」


「いえ、私も先の大戦で貴方に助けられた身、この身をご自由にお使いください」



『じゃあベッドに』と前世の童貞精神が出てきて言いたくなったがこんな美人さんの相手が爺だとエレーナ先生が困るだろう、そもそもできるのかこの体?


もしも別の男がエレーナ先生を娶ると仮定しよう。


ちょっと寂しい気もするがエレーナ先生は幸せになるんだと嬉しく思う。



これが愛か



王様とも話したが警護の仕事はもう無理で魔法を学んだり旅をしたいと正直に伝えた。


腰は痛むし、今更警護になんて役には立たないだろう。


それよりもこの世界を見てみたい。


王子には泣いて謝られるし、王様達には揃って頭を下げられ、兵士たちには泣いて見送られた。



よっぽどすごい人だったんだなわしの身体。


エレーナ先生もだからわしには優しいのかと少し胸が痛む。




旅は楽しかった。


たまに暴漢もいたがエレーナ先生はハリウッドのアクションスターなんぞ目じゃないほどで強いし、わしの従者もなんか人外、残像しか見えん。


エレーナ先生には完全に惚れたがその想いを表に出すことはなかった。



いくつもの山を、川を、国を旅しエルフの里についた。


エレーナ先生には里を案内してもらえた。


何度も聞いてきたエレーナ先生の故郷。



里でいちばん大事な世界樹、その下にある墓所。


黒くて触れてはいけないと念押しされた制御魔道具、そして透明なカプセルに入って眠っている無数のエルフ。


そこは不老長寿と言われるほどに長すぎる生をやめたエルフが静かに眠っている神聖な場所だ。


今も一組の家族の一人がそこで眠ろうとしている。



「人のように死んで墓地にはいるわけじゃないのですね」


「そうね、私達の寿命は長いから、大切なものを看取った後の生は時に苦痛に変わるのよ、ずっと苦しむだけの人生になるぐらいならこの世界を護る木に生命を捧げて、幸せにまどろみつづける……人間にはわからない価値観かしら?」


「いえ、でも中から出てきてる人もいるのですね」


「そうね、身体が朽ちるわけじゃないし、たまに自分の家族を見に出てきたり、森の木を見に行ったりする変わり者もいるわ」



そのまま、里にいさせてもらって色々教わった。


自分の魔法の腕はからっきしだが魔道具の起動ぐらいならできるようになってきたので明かりや火をつける日常では困らなくなっていた。


里のものはわしに好意的だ。


かつて魔王に襲われたのを助けたことがあるらしい。


すごいなわしの元の身体の持ち主。


いつまででもいてくれていいと言うので甘えることにした。


人間の寿命の間ぐらい短いものだから構わないと豪語するのはさすが長寿のエルフだと思う。



「---------」


「ふふっそうね」



エレーナ先生がかっこいいエルフの男と笑って過ごしてるのを見ると胸が少し締め付けられる。



エルフは自然を何より大事にしていた。


火をつけ、森を枯らしてはげ山にするドワーフのことは大嫌いらしい。



「じゃあエルフがいちばん大事なものってなんですか?」


「森と泉と、この木と・・・家族かな?みーんな大事!」


「一番がいっぱいですね」


「うんっ」



儂は前世の記憶を頼りにエルフに少しでもより良い生活を送れるように助言していった。


間伐という技術によって森の木々だけではなく、土や草に若木、全体が保たれるというとすごく驚いて「ちょっと300年ほど他の山で確かめてみる」って・・・いや気が長いな。


いろんな技術を教えていくと中でも喜ばれたのは基礎科学だ。


物質の一つ一つを細かく分析し調べていき、その本質を捉え、何十年も何百年も発見がありつづける技術。


なんの価値もない雑草から新たな薬が作られ、錆びる金属から錆びない金属が生まれ、美味なる食を発展させる。



生に飽きていたエルフ達にはものすごく喜ばれた。



それとトイレに自動洗浄装置を魔道具で再現したり空気清浄機やエアコンに調理器具を熟練の腕を持つエルフさん手伝ってもらって開発し、まさにやりたい放題した。


エレーナ先生が我が事のように喜んでくれるのが嬉しくてどんどん作っていった。


エルフ達も喜んでいた。



ある時からエルフが病気で次々と倒れていくのが見れた。


儂から衛生の概念を学んでいたエレーナ先生はマスクをして、他のエルフよりも動けていて、すぐさま対策を講じた。


儂も開発のために衛生や空気に気を使っていてなんともないことを考えると……マスクをしていてマシなら空気が良くないかもしれない。


ただ儂には全く関係なさそうなところを見るとエルフの風土病なども考えられる。



子供は地下に隠し、精鋭部隊で原因を調べる。


森の外から木々も大地も腐らせ、毒を撒き散らす腐ったヒュドラと高位の死霊が群を成して向かってきているそうだ。


その魔物は巨大な毒沼そのもの、全てを腐らせることに特化していた。


エレーナ先生も倒れた。


すぐに痛む腰を無視して彼女を地下の子どもたちのところに担ぎ込む。


動けていた他のエルフも倒れてしまっている。



「この、ままじゃ・・、お、願い、以前、みた、いに私達を、たすけ」


「わかった、エレーナ先生・・早く良くなってね」



眠るエレーナ先生、エレーナ先生だけでもこの里から連れ去ろうかと考えたがそれじゃいけない。


子供を見捨てたなんて知られたら嫌われてしまう。



「ごふっ!ごほっ!!」



儂の咳にも血が交じってる。


急がないと……。


毒の風は人数がいれば散らせるし、浄化さえすれば動ける。


ヒュドラも人数さえいれば倒せる。


足りないのは人手だ。



腰が痛む、ズキズキと、冷や汗が止まらず、足もしびれてうまく動かない。


もうちょっと、もうちょっとだけでいい、動いてくれ。



門を開けて、魔道具に触れる。


幸いエルフ文字は学んでいたので書いてある通りに操作し、ごっそりと魔力が抜き取られていく。





「貴様……何をしたのかわかっているのか?」


「はい」



問いかけてきたのは身分の高そうな衣類を纏ったエルフだ。


他のエルフよりも耳は長く、豪奢な装いに金のサークレットをつけている。


言葉使いこそ冷静だが眉間にシワがより、肩を怒らせ青筋を立てて怒り狂っているのが見て取れた。



「何故だ?何故人たる貴様がエルフの禁忌に触れる?」


「今、この里が、魔物に襲われています。」


「そんなことでか!!」



魔力が吹き荒れ、重圧がのしかかる、膝をついてしまった。


というよりどんどんと力が抜けていく。


エルフの最後の眠りを妨げるという禁忌を犯した。


その代償は命、だが悔いはない。



「たかだか魔物ごときに我等が神聖たる悠久の眠りを呼び起こすとは!その身、その魂!幾重にも塵芥にし、地獄の苦しみを永遠に続けさせてやろうぞ!!人間!!!」



何故だろう?魔力は底をついているのにどんどんと何かがすい取られている。


恐らくこのまま死ぬんだろう、それもいいかな。



「それでいい、だが、森の賢じ たる、エル の諸兄よ、最後に、聞 てほしい」


「……それでいい?だと?なんだ人よ」


「魔  は 森を腐ら   ルフを殺そうとし  る」



何かが失われていく、自分にとって大事な何かが。


ただ、伝えないといけない。


最後の力を振り絞って、もっと状況をわかりすく、彼女の、エルフのために。



「はっ!たかが魔物如き!」


「エルフ、に、きく、毒を巻き散らせ、この森、土、大樹、泉、すべ、て、無くな、る、あなた ち の大切にし いもの す て 消え それでも良い ら また眠っ 」


「………!わかった、精霊に聴いた!それ以上魔力、いや、魂を注ぐな!お主自身で塵となる気か」



足の先から、腰まで、もはや塵となった。


もう、死んでもおかしくない。


だがこれでいい、これで、彼女は助かるかも知れない。



「とめられ い」


「そうか、最後に聞こう、なぜこんな事をした」


「える  あい た」


「わかった、ゆっくり休むがいい、エルフを愛した人の子よ、我を恨め、気を強くもて」



これでいい、これでエレーナ先生は助かるかもしれない。


想いは最後まで伝えられなかったなぁ……





そして、地獄が始まった。


灼熱のように熱く焼かれ、氷のように寒く凍える。


鬱憤した気持ちが爆発するように胸の奥から感情が溢れ続け、同時に心が空虚となる。



なぜ、どうして、こんな事になった?



ただ、それだけの時間を一分?1000年?永遠に感じられるほどに地獄を見た。


暗く、明るく、深く、浅い、引き千切られる。



ただ、何かわからないがほんの少しマシなときもある。



なんだろう、ただ時折、ほんの少しだけ。


熱いわけでもなく寒いわけでもない。


ほんのり、木漏れ日の中で気持ち良い風を感じるような……




目が覚めると儂はエルフになっていた。


年齢は200歳、あれから200年か、どっちにしろ爺じゃな。



魔王軍は数万のエルフによってあっさり勝てたらしい。


起きていなければここは全滅していたのは見えていた。


友を失い、家族を失い、伴侶を失い、永遠とも言える生より、永遠とも言える眠りを選んだ彼らは起こされて激怒した。


だが彼らは理知的で、その理由を聞いて奮い立った。


禁忌を破ったのはエルフを愛した人の子で、そのエルフはそんなことは知らずに倒れていた。


人の子が行ったことは禁忌だ。


だが、その人の子はエルフの為に、地位も名誉も、肉体に魂、尊厳すらも、全てを対価にただエルフを起こした。







エルフとして、悲しみの生を拒んだのは我等だ。


だが我等の友が、家族が、類系が無残にも殺されようとしているのに。


祖たる世界樹が、母たる泉が、生きた森が汚されようとしているのに知らずに寝ていた自分自身への怒りで身震いした。


彼が行ったことは禁忌だ。


だが、我らの怒りは我ら自身に向くもの。



裁判は進み、彼の処遇は決まった。





彼の魂、削れて、塵のように減ったそれを固め、子の魂を失い、眠ったエルフの腹に入れられた。


そして生まれ、200年後に彼がなんとか意識を取り戻した。








小鳥の鳴き声が聞こえふわりと感じる風が心地いい。


サラサラとしたシーツを指先に感じる。




「おはよう、よく眠れた?」



「うん、おはようエレーナ先生」





くすりと微笑むエレーナ先生に儂は幸せを感じた。


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