第11話怒れる森5
「お兄様!」
なるほど、お兄さんか。まるでクロハを男の人にしたよな容姿だ。後ろにも色の違う三角耳の獣人が何人かいた。
「無事だったのか! あんなメッセージをよこすから、てっきり……」
「いえ、本当は死んでいたはずなんです。でも、あちらのアンバーが助けてくださったんです」
「え……」
「ア、アンバー! もし、良かったらマスクを外してくれませんか? こちらは私の実の兄のクロルです。私のSOSを受けて来てくれたのです」
「は、初めまして、アンバーです」
マスクを着けていたのを忘れていた。どうりでお兄さんが私のことを不審な目で見るわけだ。同世代の人なんて緊張しちゃう。
「……」
そう思ってマスクを外したのに私を見てお兄さんが固まってしまった。へ、変だったかな。
「あ、あの」
「ああっ、その、ええと、クロハを助けてくださったそうで、感謝します。私の名はクロルと申します……」
なんだか変な空気になって居心地が悪い。じっとこっちを見てくるお兄さんには悪いが助けを求めるようにクロハを見てしまった。
「コホン、お兄様、しっかりしてください」
「おお、そ、そうだ。 あの、洞窟の前にいたやつらはいったい!?」
「実は私、あいつらに刺されて瀕死だったのです。で、お兄様にSOSを出してからアンバーが通りかかって回復薬を与えてくれて助かりました。で、幻の毒消し草が生える泉を壊そうとしたらしいあいつらをアンバーがやっつけてくれて、縛ってここまで引きずってきてくれました」
「……。……。……はあ?」
簡潔に説明してくれたのはいいけれど、不味い、クロハのお兄さんまでにもドン引きされている。やっぱりツタで縛って引きずるのはやりすぎだったか。いっそのことあの場に埋めてしまえばよかった……。
「驚きますよね? 実は更に……」
続けてクロハが手のひらに毒消し草をのせてお兄さんに見せる。
「クロハ……お前、手に入れてくれたのか」
「それが、これもアンバーに貰いました」
「へっ……」
更に驚いているお兄さん。一枚でよかったのかな? と思ってもう二枚ほど追加で手のひらに乗せてあげた。
「ア、アンバー!?」
「だって、三枚くらいはあってもいいかなって」
「この貴重な草をさ、さ、三枚も!? いいのですか!?」
「もっといる?」
「いえ買い取るにも、莫大なお金がかかりますので十分です!」
「え、これ、売れるの?」
「アンバー! その話は私が後で!」
なぜかクロハに止められて黙った。お金になるならもっと取ってこようかな。
「これがあれば……アンバーさん、感謝します」
「お兄様、アンバーは私の命の恩人です。ですから、事情をお話してもいいですか?」
「それは……」
「何も告げずに貴重な毒消し草だけいただくなんて、誠意が足りないと思います」
「わかった。では私からお話ししましょう」
そんなものかな、と思いながらまあ、クロルさんの話を聞いた。
「実は獣国の国王が何者かの毒によって倒れたのです。その毒は特別な毒で幻の毒消し草でしか解毒できないことが分かりました。私たちは各地域に分かれて妖精の森にしかないという毒消し草を捜していました。そして、ようやく妖精の森を見つけたのがクロハです。けれどその情報がどこかから毒を盛った悪い奴らにも知られたようで、三人の暗殺者がクロハを狙ったのです」
「ふ、ふーん。あの、そっちの事情はよく分からないけど、森が怒ってたのは多分あの三人が入ってきたからだと思う。悪い心がある人を森は嫌うし、なによりクロハに殺意を持っていたから。とにかく、始末……いや連れてってくれる?」
「……わかりました。是非、後程お礼を。すみませんが、この毒消し草を持ってすぐにでも国に戻らないといけないので」
「うん、早く王様を助けてあげて。お礼はもうクロハにもらったから、いらないよ」
「え、そうなのですか?」
「ささ、私も行くところがあるから、行って、行って。クロハは……時々でも手紙とか欲しいな」
「お兄様」
「なんです?」
「実はアンバーは『お友達になって』がお礼だと言うのです。ですからアンバーの旅に私が同行して恩返しがしたいと思います」
「え?」
いきなりのクロハの提案に驚く。獣国に帰らなくていいのだろうか。
「あの、私一人で王都に行けるよ? ほら、多少は腕っぷしも強いし、お金もあるから」
「多少? 凄腕の暗殺者三人ものしといて?……嘘でしょう……」
「ほら、お兄様、アンバーは何もわかっていません。そんな世間知らずでは、この先が思いやられます。きっと私のサポートが必要になると思います」
「え、でも。確かに村の外に出るのは初めてだから、一緒に行ってくれたら心強いけど、そんなことしていいの?」
「アンバーは宿の交渉や国境を超える時の審査とかできるのですか?」
「そ、そんなのしないといけないの?」
「私がついて行けば手続きもしますし、綺麗な宿や美味しい食堂を教えることができます」
「……」
ゴクリ、と喉がなる。ついでにお腹も鳴りそう。
「しかも、獣国が所有するテレポート場所も使えます」
「すごい!」
「いいでしょう? ね。私もついて行きますね。では、お兄様、国の方はお任せします」
クロハがそう提案してきて、お兄さんの方をじっと見た。なにか含みを持つアイコンタクトだけど、旅の仲間が出来るなら私は助かる。
「じゃあ、クロハも気を付けて。国の方が落ち着いたら連絡するから」
「はい。お兄様もお気をつけて」
そうして抱き合う兄妹をみて、なんとなくクラウスを思い出す。元気にやってるのかな。王女様とよろしくしてるのかな。どちらにしたって連絡くらい寄こせばいいのに……。
お兄さんが悪い奴らを連れて一緒に来た数人と出発したのを見届けて、私も森をぬけることにした。
「でも、ほんとに私についてきてよかったの?」
「……私の命もそうですけど、幻の毒消し草はとても高価なものなのです。一枚あれば一生遊んで暮らせると言われていますから、三枚もあればとても高額になるのです。そんなものを無償でもらい、しかも命もすくっていただいているのに、なんの恩も返さないとなれば我がグローヴァ家の恥です」
「……なんかわかんないけど、恩は返さないとダメなお家なのね」
「そうです」
「うーん、恩人とかは堅苦しいから、お友達でいて欲しいんだけど」
「それはそれ、これはこれです。アンバーは私の大切なお友達です」
「ならいいけど」
胸の切り裂かれた服は可哀そうだろうと貸した服だが、クロハの胸が大きいためにボタンが飛びそうだった。街に着いたら、毒消し草を売って服を買おう。私も可愛い服を自分で選んで買ってみたい。そんなふうに思いながら森を出るために歩いた。私が悪い奴らをやっつけたので妖精たちが山ほど毒消し薬やら、思いつく限りの役に立ちそうなものをこぞって持って来た。受け取らなくては気が済まないようで、その都度ポシェットに放り込み、それは森の出口に来るまで続いた。
「ほら、では、行ってくるね」
そうして外に出ようとしているのに一向にティカが私の肩から離れなかった。
「ティカ、森から出ちゃうよ?」
そう聞いてもティカは首を振って私の首に抱き着いた。
「もしかして、ティカもアンバーに連れて行って欲しいのではないですか?」
クロハの言葉にティカを見ると彼女もウンウンと頷いていた。
「私は賑やかで嬉しいけど……じゃあ、帰りたくなったら森に帰るんだよ?」
そう言って承諾するとティカが抱き着いてきた。
そうしてたくさんの妖精に見送られながら森を出た。
私と、クロハとティカ。
ちょっと一人では不安だった旅が楽しくなりそうな予感がした。
どちらが勇者かわからない 竹善 輪 @macaronijunkie
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