第10話怒れる森4

「ただいまー……」


 そうして私が洞窟に帰った頃にはクロハがちゃんと妖精の面倒を見ていてくれたようで、皆元気に私を迎えてくれた。クロハも回復が落ち着いたのか顔色もよくなっていた。うん、まともに見るとやっぱり可愛いぞ。


「アンバーさん! 先ほど、爆発があったようですが、大丈夫だったのですか!?」


「ああ、うん。まあ、それはいいんだけど。あ、妖精たち、もしかしたらまだ倒れている子がいるかもしれないから、見回ってくれないかな。いたら回復薬飲ませて」


 元気になった妖精に余っていた即席回復薬を瓶に詰め直してもたせた。外はいい天気になって、森が喜んでいるようだった。やっぱり森をめちゃめちゃにしようとした三人に怒っていたんだ。


「あ、あの……アンバーさん?」


「ん?」


「そ、それって……」


「呼び捨てにしてくれていいよ。んで、クロハが言ってたのってこの人たち? 凄腕って感じではなかったけど」


 足をツタで縛った三人を面倒なのでここまで引きずってきたのだが、なんだかちょっとした拷問みたいになってしまっていた。でもさ、担ぎたくもないし。


「あってます。けど……これ、アンバーが?」


「ええと、ちょっと酷く見えるかもしれないけど、引きずってくるしか思いつかなかったっていうか」


「え? いえ、責めてなんかいません。あなた一人でやっつけたのかと思って……」


「妖精の大切な泉を吹っ飛ばそうとしてたんだよ。だから、仕方ないよね? ほら、クロハだって死にかけてたんだし、こいつら悪い奴だし!」


「ええ。私を殺そうとした悪い奴です……」


 背中を血まみれにしている輩を見てクロハにドン引かれた……。どうしよう驚いてるし。これは、なかったことに……。


「う、埋めちゃう?」


 そうクロハに相談すると微かに意識があったのか後ろの三人がウーウーと唸った。


「あの、アンバー。その人たちのことは私に任せて頂けませんか? 私が倒れる前に使いをやったので、間もなく獣人国から助けが来ると思うんです」


「ああ、そう? まあ、じゃあよろしくね」


「もしかして……」


「ん?」


「アンバーは勇者様……ですか?」


「ええっ。違う! 違うよ! 勇者は私の幼馴染でクラウスっていうの。ま、これから王都に会いに行くんだけどさ」


「そうなのですか。この三人をあっという間にやっつけるほどお強いので勇者様かと。それに、最果ての村に勇者が現れると予言が出ていたので、もしかと思って」


「最果ての村ってなに?」


「この不思議な妖精の森の先にあると言われている村です。なんでも各種族の特別な存在が世間に絶望して住み着く村だとか」


 日向ぼっこして寝ていたり、なんか変なもの作ってたり、うちの村の人たちはのんびりしてる。絶望なんて言葉とは無縁だと思う。


「確かにこの森の先の村から来たけど、そんな絶望したような人は住んでないから違うんじゃないかな。勇者を捜しに王都から騎士団がきたけど連れて行ったのはクラウスだよ。だから勇者はクラウス」


「王都というと連合国から人が来たのですか」


 急に声色が低く担ったクロハに今度は私の方がタジタジだ。


「な、なんかクロハ、怖いよ」


「……ご、ごめんなさい。命の恩人に私ったら。毒消し草までくださったのに」


「いや、それは大したことはないから。命が助かったのはクロハが痛みに耐え抜いたからだし」


「いえ、あの時、死んでいてもおかしくない状態でした。あんな純度の高い回復薬を頂けたのは奇跡です。どうかお礼をさせてください」


「ああ、いや……あ、そうだ! じゃあ、お友達になって!」


「え?」


「その、こんなことをいうのもあれなんだけど、同年代の友達ってクラウスしかいないの。しかも同性のお友達なんて初めてで……ダメかな?」


「いいえ! 光栄です。私で良かったら、是非、お友達になって下さい!」


「う、嬉しい! 私、こないだ十五になったばっかりなの。クロハは?」


「私は十六です」


「大人っぽいからもっと上かと思った! 一個上かあ。わーっ、嬉しい」


 夢にまで見た女子トークができる! しかもこんなに可愛い子と! 心が綺麗な子しか懐かない妖精たちが懐いてるもん、クロハは絶対いい子に違いない。喜んでいるいると外から声が聞こえた。


「クロハ! クロハ!」


 その声を聞いてクロハが洞窟から飛び出て行った。私も驚いてその後を追った。


「お兄様!」


 外に出るとクロハがお揃いの色合いの猫耳の男の人と抱き合っていた。




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