第9話怒れる森3
ドゴン
また地響きが起きる。何かが起きている。慌てて私は丁寧に妖精を焚火の側に布を敷いて寝かせた。
「え、なに、コレ」
洞窟の外を覗くとそこにはここに辿り着こうとしたであろう、妖精たちが沢山倒れていた。皆傷つけられ、酷いものは羽をもがれていた。
「どういうこと……。どうして妖精たちが」
「ア、アンバーさん……きっと、アイツらです。ごめんなさい……私がここまでつけられてしまったから」
「詳しいことは後で聞く。それより、悪いけどここの妖精たちと一緒に外で倒れている子たちを介抱してあげてくれないかな。体はまだ辛いだろうけど、頑張ってくれない? 倒れてた子たちにこれを飲ませて欲しい」
なんてことない私の血を薄めただけの回復薬を何本かポシェットから取り出してクロハに渡した。売るとお金になると聞いたので数本は薄めたものを常備しているのだ。妖精は小さいから量は十分だろう。
「皆、倒れた子たちをお願いね」
私にくっついて震えていた妖精たちも私に力強く頷いてくれた。仲間の酷い様子を見て勇気を出して頑張ってくれるようだ。入り口のところでしか見ていなかったけど、次々と運ばれる傷ついた妖精たちを見て胸が締め付けられた。私が森に来ているのを知って、きっと助けを求めてきたんだ。
「ティカ、連れてって」
ティカを呼ぶと彼女は肩にのってくれた。泉は頻繁に移動しているので妖精の案内が無いと行けない場所だ。普通なら悪い奴らが来たとしてもたどり着けないはずだけど……。
「アンバーさん、危険です! 貴方も酷い目に」
「うん。まずは様子を見に行くだけ。……ところでその暗殺者は何人いるの?」
いつもクラウスにアンバーは見に行くだけって言われてたし。そう言っておこう。
「ええと、三人です。でも獣人国でも名をとどろかせる残忍で恐ろしい人たちなんです! あなた一人ではとても……」
「了解……遠くから見るだけだから。じゃあ、ティカ行こうか。 クロハ、お願いね。」
後のことはクロハに任せて洞窟をでた。ムカムカする。私だって妖精の血が流れている。同胞がこんなことされて怒らないわけはない。ティカの案内で泉に向かうと私は更に気分が悪くなった。
「くっそ、どんなに踏みつぶしてもまた生えてきやがる!」
「魔法で一掃してもまた……泉をつぶせばいいのか?」
「よし、じゃあ、大魔法を構築するから離れてくれ」
泉の周りで周辺の草を踏みつぶし、土を掘り越している不届きものが三人いた。クロハが言っていたのはこいつらか。さすがに雨の中では火の魔法は使えないので、物理的に草を無くそうとしたのだろう。それを止めようとしたのか羽をもがれた妖精があちこちに倒れていた。怒りで目の裏が熱くなる。はらわたが煮えくり返っていたのに、魔法を詠唱し始めた男の手に握られてくたりとしている妖精がいるのを見て、私の何かが切れた……。あの子を脅して泉に案内させたんだ。
「許さない……」
つぶやいて姿を現すと三人が私に気が付いたようだ。
「誰だ? お前……」
「妖精たちに酷いことをしたのはあんたたちだね」
「はあ? だったらどうだってんだ?」
屈強な体つきの男たちが私を見てあざ笑う。絶対に許してなんかやらない。
「私が、こいつらやっつける。森よ、雨を止めて」
私が空に頼むと雨が上がっていった。それを不思議そうに男たちが見ている。
「おい、雨が止んだぞ? これで焼き払えるじゃん」
「泉をつぶすのが先だ」
口々に好き勝手言う輩にため息が出る。つ・ぶ・すのはお前らだ。
ガゴッ
イタチみたいなやつが私の後ろに回り込んできたので肘を喰らわせてやると後ろに吹っ飛んだ。それを見た二人がやっと私に向き合った。ニヤニヤしていた顔が少し変わってくる。
「詠唱を止めろ。でないと力づくで止めるよ」
「おいおい、変なマスク付けたお嬢ちゃんがおかしなことを言ってるぞ? レット、こんなお嬢ちゃんの肘なんか喰らってんじゃねぇぞ」
オオカミっぽいのがワアワア喚いている。うるさい、黙れ、クソヤロウ。鳥の獣人の方は魔法の詠唱を続けていた。止めろと言ったのに、焼き鳥にしてやる。
背中のハンマーに手を取って横に振り切るとブオンと音が鳴って空気が揺れた。
「グハッ」
詠唱していた鳥の足にに風の塊が当たるとその衝撃に膝を折った。痛くて手放したのか片手に掴んでいた妖精を手放している。
「ティカ、あの子をお願い」
私が声をかけるとティカが地面に落ちた妖精を助けに行ってくれた。その様子を見届けてから鳥にとどめをさそうと考えているとオオカミがこちらに向かってきていた。
「お、お前、何をした!」
鳥を守るように私と鳥の間に入ってきたオオカミがパンチを繰り出す。腕のリーチは長いがパンチの速さはクラウスに比べるとはるかに遅い。これなら簡単に一発入れられそう。でも、ハンマーだと殺してしまいそうだからやめておこう。
ハンマーの持ち手でオオカミのパンチを受ける。その衝撃もクラウスに比べたら大したことがない。
「なっ」
力負けするとは思っていなかったのかオオカミがひるんだ。タイミングがね、なんかパンチの繰り出し方がリズムに乗りすぎてるんだよね。一、二、一、二……
「さんっ」
単純すぎるオオカミのパンチのタイミングを読んでしゃがむと、鳩尾にハンマーの持ち手を打ち込んだ。『ぶほっ』っとダメージを受けたのかオオカミが息を吐いたが、体格がよかったから倒れることはなかった。私の方が背が低いから潜り込みやすいんだよね。
「く、はああっ」
「立ててることは褒めてあげるけど、倒れなかったことは後悔させてあげる」
今度は深く一発を決めるのではなく、連打して腹にダメージを与える。これだけの妖精を傷つけたんだ。簡単には許してやらない。
「な、なにを……」
「あれ? 何されたかわかんないの?」
最初の一発目が強烈過ぎたのかオオカミは私が何発入れたのかわからないようだ。でも、まあ、もうオオカミは戦えないだろう。と肩をちょんと押すとドタン、と大きな体が倒れた。
「あ、こら! 」
次は鳥の方を向くとなんと、足をやられてへたり込んでいるくせに、まだ魔法を練りこんでいた。止めろって言ったのに! 空に大きな魔法球が出来ている。あれをぶつけて泉を吹っ飛ばす気なのだ。
「もう、あれを止めることはできないぞ! こっちに来るな! 来たらすぐにあれを落としてやる! レット、ウルフを連れて一旦退散だ!」
倒れているイタチに鳥が声を掛ける。ムムム、アレが地上に落ちてきたらさすがに泉がなくなってしまうかもしれない。
「あんなの作った自分を呪いなさいよ」
「な、こっちへ来るな! 何をする! わーっ!」
素早く鳥に近づいて両足を掴んだ。私に体を持ち上げられると思っていなかったのか、鳥が目を白黒させていた。そのまま体を回転させてぶんぶんと鳥を振り回す。それから私は遠心力を使って鳥を空にある魔法球の方に飛ばした。
「わあああああぁああああぁ……」
鳥の叫ぶ声が遠ざかっていき、そして魔法球に当たった。
チュドーン……
森の空に現れた閃光に目がくらむ。私は危なくないようにティカたちを守った。間もなく爆風が草木をザワザワと揺らした。お、思ったより、激しい……。しばらくして落ち着いて見回すと鳥は焼き鳥よりも無残な恰好で転がっており、イタチも白目をむいて倒れていた。
「ティカ、動ける? 他の妖精たちも助けよう」
森に侵入した不届き者たちは放っておいて、ティカと手分けして私の血を水で薄めた即席回復液を飲ませて回った。羽をもがれてしまった重症の子は痛みを我慢してもらって、血を直接飲ませた。
空に虹がかかる頃には、何とか妖精たちも回復することができた。
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