第5話 質問:路地裏で倒れてた超能力者を保護したんですが、これは誘拐になりますか?
「……先輩って本当は女の子だったりして」
「いや。それは無いな。前社員で温泉行った時ちゃんと付いてたし」
「ちゃっかり爆弾投下してんじゃねぇよ」
「事実を言ってるだけだ」
「るっせ」
6月。季節というのは自分たちが思っている以上に早く進んでいるように感じる。……いや明らかにいつもよりペースが早く感じる。例年よりやっぱ明らかに早いよな。まぁ、一日一日が濃いからな最近。昨日だって出かけてたら怪奇に追いかけられるし。
「はぁぁ。普通の生活に戻りてぇ……」
「先輩苦労してますね」
正直今の生活も悪くは無い。妹みたいに可愛い魔法少女の知り合いもいるし若干の運動不足も解消されつつある。でもやはり願うのは平穏な日々。さすがにこのスパンで立て続けにこんな出来事が続くと体に堪える
「俺だって人並みには苦労するよ」
幸いにも昨日の出来事を知っている同僚はいなくて本当に安心した。あれを知られると割と恥ずかしさで死ねる。
「まぁ先輩昨日の一件から大変そうですからね」
「……へ?」
おいまて。
「あわ!! 先輩零してます零してます!!」
「え? なになに? 緋依ちゃんなにかしたの?」
「ただ昨日、先輩あの現場にいてその写真が出回ってて大変そうだなぁ……って思っただけです」
……は? しゃしん???
「……その写真って」
「これです」
緋依が一枚の写真をスマホに表示させる。恐る恐るその写真を確認するとココアグレージュとブルーのツートンカラーウルフカットの人物の写真……基、着替えたあとの俺の写真が載っていた。
「こんなに面白い写真なんで隠してたのよ!?」
「うにゃぁぁぁ!!」
おい誰だ。誰だこの写真を上げたボケナスは!!
「その写真、どこで見つけた?」
「マジックグラムです」
「魔法少女専門のSNSか……アカウント名は?」
「えっと……ホワ「よーし分かった。多分身内だ」」
投稿内容は【命の恩人が可愛すぎて尊い】っと。……褒めるならもっとほかの画像がなかったのか。
「この写真、掲示板やらつぶったーとかにも載ってるが?」
「第三者が拡散してるんでろうね。ほら、【謎の美少女】とか【新しい魔法少女】とか」
「ネットって恐ろしいな……」
「ネットは一気に拡散されますからね」
「結衣ぃ……。何しとんじゃワレェ……」
俺はそもそも女じゃねぇ……。
「結衣?」
「ん? あー知り合いの魔法少女だ」
「先輩、お知り合いに魔法少女いるんですか!?」
「まぁあんたなら有り得そうだから今更驚かないけど、本当に交友関係凄いわね」
「後でちゃんと言ってやる。まぁあいつに悪意は無いのは知ってるしそこまで強くは言わないけど」
「そういや私も高校時「その写真だけはマジでやめろ。恥ずかしすぎて死ねる」」
どうせあれだろ。高校時代の文化祭のコンテストに勝手にエントリーさせられて女装させられたやつだろ。俺は知ってるぞ。
「はーいこちら雫ちゃんの文化祭の時の写真でーす」
「って見せるんじゃねぇ!!」
「別にこの画像みんなに知られてるんだから良いじゃない。それに減るもんもないでしょ」
「減るわ!! 俺の尊厳が減るわ!!」
「優さんそれ後で送ってください」
「あっ。ちょっ……はぁ。好きにしろもう」
構ってたらキリがない。こういうのは割り切るのも大切だ。
「……課長。明日のプレゼン用の資料まとめておきました」
「大変そうだね。おっ。ありがとねー。ところで雫くん」
「はい」
「君、かなりストレス溜まり始めてるでしょ」
「……まぁ。このところ色々ありまくってますし多少は。まぁ大丈夫っすよ。体調管理は自分でちゃんとやってるつもりなんで」
「そうか。それなら心配はいらないが君の体が壊れる前に有給でも取りなよ」
ストレス……というより体に疲れが溜まってるんだよなぁ……。そろそろ有給消化しようかなぁ……。
「今週中には取ろうと思ってます。では俺は先に失礼します」
「んじゃ。おつかれー」
「おつー」
「お疲れ様です」
今日は思った以上に早く上がれて空がまだ若干オレンジ色に染まっていた。
「……ふぅ。久しぶりに吸った」
今週はもうさすがに変なことには巻き込まれたくないな。変なことというか面倒事と言うか……。
ーバタリッ
「……。勘弁してくれよ」
さっき明らかにおかしい音が聞こえたぞ。なんか人が倒れる音が聞こえたぞ
「なんで俺の周りには変な出来事しか起きないんだ」
◆
「それで。ここにいる片目が髪で隠れている白髪ウェーブロング巨乳美少女を運んできたと」
「……なんでナチュラルにお前俺の部屋いんだよ。いるんなら連絡入れろ」
「それは……お姉ちゃんを驚かせたくて」
「まぁ。とりあえず適当に飯作るか。お前、ちゃんと風呂はいったか?」
「…………。3日くらい研究室に篭りっきりだった」
「入ってこい」
天草悠里。10歳離れている俺の自慢の妹。運動神経はお世辞にもいいとは言えないが頭が凄くいい。現在は魔法少女と超能力者研究の前線を走っている。いわゆる天才という分類だ。でもやはり天才は一癖も二癖もあり、研究室に篭もりっぱなしのため家事はろくにできない。掃除程度はできるが飯を作ったり服を洗ったり、そこら辺のことは本当に人並みにすらできない。
「全部洗濯かけてもいいんだよな」
「うんー。大丈夫」
まぁ手はかかるが可愛い妹だ。
「……で。問題はこの子だな」
とりあえず今はスースーと寝息を立てて寝ているものの、起きた時に【誘拐だ】と言われたらどうしよう。
「路地裏で倒れてた少女を保護したが、これは犯罪になるのだろうか」
別にこれは誘拐ではない。保護だ。路地裏に倒れてたから保護しただけだ。
「この子、能力者かもね。能力者同士の争いに巻き込まれたのかも」
「それにしても外傷が少なくないか」
「そういう能力者なのかもよ。能力者って能力を使いすぎたら突然睡魔に襲われたりするんだよ」
「まぁ。起きた時に色々聞けばいいさ……っと。出来たぞ回鍋肉」
「適当に作ってできるもんなのそれ」
「わりと元入れて野菜と肉入れて炒めるだけだから結構適当にできるもんなんだぞ」
てっきり料理は化学だって言うもんだと思ったら本人は料理はからっきしだし。……不安だこいつの食生活
「そういえばその服、買ったの?」
「んや。買わされた」
「普段着にしたら? 似合うと思うけど」
「似合わないぞ。はぁ、最近のJKは凄いな」
「お姉ちゃん苦労人だね」
毎日は退屈しないんだが休憩くらいは欲しい。
「厄介事は懲り懲りだ。早く目覚ましてくれた……ん?」
がさごそと物音が聞こえ後ろを振り向くと布団の中にいたはずの少女が消えていた。……いや、厳密には隠れているつもりらしいのだが
「……隠れててないぞ」
「……ッ!?」
「あ、いや。そんなに警戒しなくても」
こりゃ完全に警戒されてるな。……さてどうしたものか
「……じゃない?」
「ん?」
「……敵、じゃないの? 研究員……じゃない?」
「敵? 研究員?? んーよくわかんねぇが、とりあえず食うか? 回鍋肉」
「ほ、ほ?」
「肉と野菜の炒め物。起きて何も食べてないだろ」
「……食べる」
「ちょっと待ってろ」
この子、多分何かしらの事情がありそうだな。敵とか研究員とか言ってたが……。
「研究員ってお前の知り合いではないよな」
「違う……と否定できないのが辛いところだね。私と同じ【アンチニュートラル】かも。精神年齢は肉体年齢よりかなり幼い。見た目は17とかだけど多分精神年齢自体は10歳近くだよ」
「そうか」
超能力者には生まれつき超能力を持ってる【ニュートラル】と後天的に超能力を持った【アンチニュートラル】の2種類存在している。アンチニュートラルは悠里みたいに元々潜在的な力がありそれを引き出して結果【後天的】に手に入れたという人もいるが。
「【1を10】にするのと【0を1】にするとは訳が違う。あの子の場合は多分後者だね。多分このままだと家族も身寄りもいない。実験のために生まれてきた存在。少なからずそういう子供がいるって聞いたこともある」
倫理観がぶっ飛んでやがる……。
「まるで初めから兵器じゃねぇか」
「超能力者1人で数百人は殺せるって言われてるから。これは超能力者に限った話じゃないけど」
仮にこの世界に【怪奇】がいなければ、あの子たちは今頃……。
「チッ……!!」
「お姉ちゃん。また壁、穴あくよ?」
「……すまん」
「大丈夫?」
「ん。大丈夫だ。美味いか?」
「うん」
「そりゃよかった。両親は?」
「……いない。ずっと1人だったから。……さんもわたしを返すの?」
恐怖の瞳の奥に何かを見た。きっとこの子を返してもこの子は幸せにならない。大の大人の俺が目の前にいる子供一人すら救えなくてどうする。
「……はぁ。心ではわかっててもやっぱ俺ってダメだな」
きっとこの子を施設に戻した方が俺自身は面倒事に巻き込まれずに済む。でも、この子はどうだ。きっとまたこの子は苦しむ。歳いくつもいかない子がこんな状況で生きてて、俺が特に何も無く生きている。
果たしてそれは正しいことなのか。
「……返さないよ。大丈夫」
「え?」
「俺は君の味方だから」
「……お兄ちゃん」
「たっく。面倒ごとはほんとに嫌になる。でもこの子を見捨てたら俺はもっと面倒になる」
この子を見捨てたらあの子たちに俺は顔を合わせれなくなる。それに、こんなに困っている人を俺は見捨てることが出来ない。
「初めから決めてたくせに。素直じゃないんだから」
「るっせ」
「まっ。私は大賛成だよ」
綺麗事だけじゃ生き残れない。たとえこの選択が間違いで【偽善】だったとしても。決して俺はこの選択を間違いなんて思わない。
「名前は?」
「……リエ。そう呼びれてた……かも」
「リエか。俺は雫。天草雫」
「しずく」
「そう。今日から君の【家族】になる人の名前だ」
今俺がこの子にできること。それはこの子を1人にしないことと、見捨てないこと。
「家族……」
「そっ。おかわり、食べるか? 腹減ってんだろ」
「……うん。たべ、る」
この子が心の底から安心できて泣きたい時に泣けるような居場所を作ること。
「大丈夫。君はひとりじゃない」
この子が寂しい時に背中を押してあげる。背中をさすって頭を撫でる。
そんな大人に俺はなりたい。
この子達を少しでも支えられるそんな人に俺はなりたい。
◆
「…………やっぱりかぁ」
「面白い人間でも見つかったの?」
「ちがうよー。やっぱり貸したいなーって。【力】をさ」
カラカラとお面越しに笑う女性の姿を見て【はぁ】っとひとつため息をつく。その瞬間、喉元にひんやりと冷たい【何か】が当たった。
「やっぱり人間は信用出来ない?」
「……あいつらは不要な存在だ。信じる意味なんてない」
「そっか。やっぱ私、あんた嫌いだ」
「お前が勝手に俺のところに来ただけだろ」
「確信が欲しかっただけだよ。……君が人間に対して明確な【敵意】があるかのね」
「変わり者め。やはり【信頼】から生まれた存在か。馬が合わない」
「何かを信じるって素晴らしいって思うけどね。じゃ、楽しかったよ。少しの間だったけどね」
「……ちっ」
黒い物陰がビルの屋上から落ちていく。その影は徐々に姿を変え始める。
「悪いけど好きなようにさせてもらうよ。私のね。もう怪奇に従うのは嫌気がさしてきたところだったし」
その姿はいつしかスーツの女性に代わり、首からかけている名札には【鳴上結】と名前が書いてあった。
アラサー男子と魔法少女と超能力者と らびっとありす @Lucinahaku
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