第60話 プロローグ(終)
──ここはどこだろう?
──俺はいったい誰なんだろう?
ゆっくりと覚醒していく意識の中。
俺はそんなことを考えていた。
とても長い眠りについていたような気がする。
どうして、そう感じるのかも思い出せない。
不思議な感覚に支配されたまま、静かに目蓋を開ける。
「…………ここは……」
徐々に記憶が蘇ってくる。
古いPCのように起動に時間がかかったが、ようやく脳が活性化し始めた。
視界に飛び込んできたのは、最新のゲーミングPCと液晶ディスプレイ。
4畳半の狭い室内のデスク上に置かれたゲームプレイ用の愛機である。
身体を起こすと、ギギギッと愛用のゲーミングチェアが音を上げた。
ここは、見慣れた俺の部屋だ。
いつもの光景、いつもの日常が俺の目の前に広がっていた。
「寝落ち……していたのか……」
直前まで自分が何をしていたのか思い出せないが、椅子にかけたまま意識を失っていたということは寝落ちしていたのだろう。
これまでにも長時間ゲームをプレイした時、そのまま寝てしまうことはあった。
だが、今のような不思議な感覚を抱いたまま目覚めることは無かった。
そう。
不思議な感覚──
「なんだろう、この達成感……」
今の俺は、まるで大作ゲームを全クリした時のような達成感を抱いていた。
おかしい。
ただ寝ていただけなのに。
俺は暫く椅子に腰をかけ、物思いに耽る。
直前までプレイしていたゲーム……あれは何だったか……。
……ああ、そうだ。
《フェイタル・リング》だ。
大学生になってから、ずぅっとプレイしていたゲーム。
なんで、大好きなゲームのことを忘れていたのだろう。
《フェイタル・リング》……俺は、どこまでプレイしていたっけ?
たしか──
ルルナと出会って、それからチェルシーを仲間にして…………リングは全部集めたよな……それで…………。
……あれ?
ルルナ? チェルシー?
「ルルナ…………チェルシー…………」
誰も居ない独りきりの部屋で、ぽつりと呟く。
──そうだ!
俺はルルナとチェルシーと冒険をしていたんだ!
あの世界で!
「そう! 俺は魔神ヴェリオーグで……ッ!」
興奮して思わず椅子から立ち上がって叫んでしまった。
しかし、俺の言葉に返ってくる声は無かった。
魔神ヴェリオーグ…………いや、違う……。
「俺は…………俺だ」
俺はゲーム好きの普通の大学生だ。
世界を混沌に陥れる恐怖の魔神でも、最強の裏ボスでもない。
ただの男子大学生……それも単位を落としそうになっている落ちこぼれ。
……ルルナたちとの冒険……あれは夢だったのか?
それにしてはリアルだった。
この
世界だけじゃない。
ルルナとチェルシーと結んだ絆の温かさは、これまでに感じたことのない
「俺は普通の大学生だ。…………でも、ルルナは世界を守るために必死で戦ったカッコイイ主人公で、チェルシーは明るいパーティーのムードメーカーで優しい少女だ。夢や幻なんかじゃない……たしかに、そこに存在していたんだ」
俺の頭が変になったわけじゃない。
夢落ちなんかじゃない。
確かに、俺はルルナとチェルシーと一緒に《フェイタル・リング》をクリアしたんだ。
あの冒険の最中、仲間との絆を深めるだけじゃなかった。
心を痛める場面も多くあった。
その時、俺は思ったんだ。
理不尽なシナリオでゲームのキャラクターが傷つくのは、絶対に許せないって。
エルフ族やハーピー、そして主人公や仲間キャラクター……彼らは皆、生きているんだ。モノのように扱って、プログラムによって残酷な運命を押し付けるのは受け入れられない。
今の俺には、新たな感情が芽生えていた。
あの世界で色々なことを経験したことで、俺には新たな目標が出来ていたのだ。
「他人の作った創造物で許せない部分があるのなら、満足のいくものを自分で作るしかない。自分で作るべきなんだ!!」
これまでの俺は、普通のプレイヤーだった。
でも、これからは「作り手」側へ…………向こう側へ行くんだ!
そのためには、部屋に籠ってばかりじゃダメだ。
勉強して勉強して勉強してゲームして勉強して勉強してゲームして……。
新たな
強い決意を胸に抱いていると──
ふと、液晶ディスプレイに映ったゲーム画面が目に入ってきた。
「これは……《フェイタル・リング》のクリア画面……か」
そして、俺は思い出した。
意識を失う前に、俺は《フェイタル・リング》をクリアしていたのだ。
ゲームの《フェイタル・リング》を。
画面には「Finale」という文字が映し出されている。
「こんな文字だったっけ……」
いや……?
たしか、「The End」という表記だったはず。
俺が記憶を辿っていると、やがて「Finale」の文字が消えていき、一枚のCGイラストが画面に浮かび上がってきた。
そのCGイラストを見て、一瞬、目を見張る。
これが本当のゲームクリア。
……いいや、ここからが新たなメインクエストのスタートである。
今、まさに俺の
「………………ありがとう」
俺は画面に向けて、一言だけ告げた。
画面には、ルルナとチェルシー、そして魔神ヴェリオーグが幸せそうに笑い合っているイラストが映し出されていた。
~~Finale~~
ゲーム内最強の『裏ボス』に転生したが、誰も俺を倒しに来ないので正体を隠して主人公たちの手伝いをすることした。~知識チートと能力チートで無双していたら、なぜかハーレムができあがっていた~ 迅空也 @jin98
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