後編
「まずは、なぜ秋夜君がこの旧校舎にきたのか、来る必要があったのか、それを確かめる必要がある」
「確かに…」
「秋夜はもともと怖がりなんだ。なのにわざわざ噂がある場所に行くなんておかしい」
秋介君が言った。
蒲田君は物音がしたという準備室――、ではなくその向かいの
技術室は
扉を開けると中は
「蒲田君、そんなところを探してどうするの?」
僕は聞いた。
「埃まみれだし、こんなところ誰も来ないと思うんだけど」
秋介君も言った。
「そう、でもそれが
「どういうこと?」
僕が聞いたのと同時に秋介君が声を上げた。
「あっ!あれ、秋夜のやつだ」
技術室の数ある
「やはり」
蒲田君が言った。
「昨日は持ち物
「ノキシタ様に遭遇した」
秋介君が言った。
「そういうことだ」
「あの噂、流れたのはわりと最近だ。そして会ってもそれを言ってはいけない。
誰かが何かを
蒲田君は技術室を出ると準備室に向かった。僕たちも後に続いた。
「そして、誰も近づかないように
そうして蒲田君はガラッと準備室の扉を開けた。
そこにいたのは――。
「
二つ
「……なんで分かったの?」
青ざめた顔の彼女の手から、はらりと何かが落ちた。
それは、
★
木之下
そんな彼女はある日、先生に頼まれて準備室にあるものを運んだ。
それが、この“漫画の原稿”だったのだ。
「この学校、昔、漫画
「木之下さん、漫画好きなの?」
「好きというか、気になるんだけど……私の家、漫画
木之下さんは気まずそうに言った。
木之下さんは私立の有名高校への進学を考えている。そして木之下さんの両親は勉強以外のことはあまり受け入れてくれないみたいなのだ。
「原稿を読んで面白かったから、もっと読みたいって思ったの。でも家に持ち帰れなくて、だから学校にいる間に読んじゃおうって思って」
「電気がついているとバレちゃうから、暗くなる夕方まで、誰にも来ないようにって噂を流したの」
「ノキシタ様って聞いて、君の名前が
蒲田君は言った。
「まさかそんな理由があったなんて知らなかったけど」
「怖がらせてごめんなさい!」
木之下さんは頭を下げて
「いいよ、別に。秋夜には幽霊じゃなかったって言っておく。あと、うっかりでもゲーム機持って来たことは注意するよ」
秋介君が言った。
「漫画読めるように、両親に言ってもいいんじゃないかな?」
僕は言った。気になること、好きなことを
「え、でも」
「勉強には
「いざとなったら、学年一の蒲田君に
「いいね、それは
「君たち…、僕を
そう言いつつも蒲田くんはなんだが少し
「まぁ、だから、安心していいよ」
僕が言うと、木之下さんはほっとしたような表情を浮かべた。
「ありがとう」
「あ、でも噂どうしよう。なんて言って止めればいいんだろう」
そう言う木之下さんに蒲田君は言った。
「1つ提案が――」
★
数日後、旧校舎の幽霊の噂に新たな内容が追加された。
幽霊は昔この学校の漫画研究会に所属していた。そして漫画が完成する前に死んでしまった。それが心残りでずっと漫画の原稿を探していたが、旧校舎の準備室でようやく原稿を見つけて
……とな。
準備室にはまだあの漫画の原稿がある。きっと誰かが入っても、あぁそうか、と
その噂がどこから流れたのかは――、僕たちの秘密だ。
ダブル・シークレット 篠崎 時博 @shinozaki21
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