中学時代まで全然イケてなかった自分が高校入学をキッカケに何故か急にモテ始めた件に関して皆さんに理由を解明して欲しいところなんですが!?

首領・アリマジュタローネ

中学時代まで全然イケてなかった自分が高校入学をキッカケに何故か急にモテ始めた件に関して皆さんに理由を解明して欲しいところなんですが!?


 ーー世界っていうのは常に変化している。


 僕はそんなことにすら気付いていなかった。だから自分の中のたった数十年の経験則だけで、世界の全てを知った気でいたのだろう。


 本当はなにも、なにひとつも、わかっていないというのに。


 ※ ※ ※ ※ ※



小太郎こたろうお兄ちゃん〜! 朝、で、す、よーー!!』



 アラームが鳴っている。朝が来たらしい。

 僕は寝ぼけ眼を擦りながら、やれやれとベッドから起き上がる。



「……りんな、いつも言ってるだろ? 朝からそんな大声を出すもんじゃないって」


『でもお兄ちゃん、声を大にしないと起きられないって私に教えてくれたじゃない!』


「それは先月の話だろ。プログラムをちゃんと更新しているのか? まーたバグったんじゃないだろうな……。お前はポンコツなんだから」


『ポンコツじゃないもん! ぷんぷん!』



 人工仮想目覚ましプログラム《RINMA》が僕が設定した萌え声で拗ねたような音を出した。

 部屋の空間がギャンギャンと喚いている。

 全くうるさいなぁ……。



「りんな、わかったからもう学校への支度を準備してくれ……。早くしないと遅刻する」


『遅刻なんてしないもん! ちゃんと学校には間に合うように時間設定してるもん! もし遅刻したとしても、りんなが連絡するから大丈夫!』


「わかった。わかった。それでいいから、とりあえず朝飯をくれ」


「はーい☆ すぐに準備するね! お兄ちゃん♡」



 声と共にベッドが動きだした。

 部屋中の電気が点灯して、カーテンが自動で開かれる。りんなが室温と天候をアナウンスする。今日も晴れみたいだ。


 ベッドが左右に割れて、テーブルが現れる。

 シリアル食品と牛乳がテーブルの上には置かれていた。



「……おいおい、りんな。なんでまたシリアルなんだよ。流石に飽きちゃうぞ」


『だって、小太郎のママからはシリアルに設定するように言われてるもん! そのときの音声だってちゃんと記録しているよ?』


「また母さんか……。シリアルは原価が安いし、好きだって確かに言ったけど、今度は違うものを発注するように言っておいてくれないか? 2秒カップラーメンのあまりとかないの?』


『朝からカップラーメンなんて不健康だからダメ! シリアルでいいの! りんなが小太郎のママにデータ消去されちゃう!』



 どうやら大人しくシリアルを食べるしかないらしい。やれやれ……。もっと腹持ちがいいものが食べたいよ。



「で、母さんたちは今どこにいるんだ?」


『んーっと、オーストラリアにいるみたい! 写真も送られてたみたいだよー。見るー?』


「いや、いい」



 シリアルと牛乳を摘みながら、天井から落下してきたタブレットに指示を送る。

 タブレットはすぐに天井へと戻っていった。


 そう、僕の両親は海外出張中なんだ。システムエンジニアとして、世界の色んなところを飛び回っている。だから僕はこうやって一人暮らしをしているわけだ。



『小太郎お兄ちゃんー! 佐助さすけくんからメッセージが届いた!』


「なに? 再生して」



 机から飛び出してきたプラスチックのスプーンを片手にそう言う。すぐに音声メッセージが再生された。



『[おい、小太郎。起きてるかー? あと20秒後にお前ん家に着くからすぐに準備して出てきてくれ]だってー!』


「了解。りんな、このシリアルもういいや。顔洗いたいからお願い。あと歯磨きも」


『はーい♡』



 りんなが応答して、すぐにシリアルを冷蔵庫へと引っ込めた。テーブルが鏡に変化する。歯ブラシを取り出してくる。手に取ってゴシゴシ磨く。その間に、髪は水をかけられ、櫛をとかれ、ドライヤーで乾かされ、ワックスで固められていた。


 水の入った紙コップを手渡されたので、口に含んでべっと床に吐く。床は穴を開けて、下の汚水へと流れて行った。これにて歯磨きは完了だ。



『小太郎お兄ちゃん〜! 佐助くんが玄関前に見えたよー!』


「はいはい。じゃあ、行ってきまーす」


『行ってらっしゃいー! お兄ちゃん〜♩』



 りんなに挨拶して、僕は家を出る。

 今日もまた変わらない一日の始まりだ。


 ※ ※ ※ ※ ※



 僕の名前は西門さいもん小太郎こたろう。どこにでもいるふつうの高校生だ。


 顔は決してイケメンってわけでもないし、勉強ができるわけでもない。なにもかもが中の中。ザ・ノーマルだ。


 そんな僕にはある悩みがある。それは“とにかく女子にモテない”こと。もうからっきしモテない。


 中学時代なんかは酷いもんで、せっかくモテたくて入った【VRサッカー部】も、レギュラーに選ばれるどころか補欠行きで、女子は僕を見ることすらしなかった。な、酷いだろ?


 運動神経が良くなくてもゲームは得意だから入ったのに、みんな腕前が凄すぎて活躍することすらできなかった。とほほだよ……。


 あー、モテたい! モテたい! モテたい!


 女の子とVR宇宙デートに行きたい! 星とか眺めた後で手を繋いでさ、キスとかしてみたい! 本物の宇宙に行くのは年齢的に無理だから、せめて意識だけは共有したい! 夢くらいならみてみたいだろ!? 二次元萌えなんかじゃない! 限りなく、リアルに近いバーチャルだ!


 あーあ。もっと腕前があれば、プロゲーマーとして、地位を獲得できたのになぁ。それだったらモテていたんだろうなぁ。



「……ハーレム生活なんて、現実では無理だもんなぁ」


「おい、なにをため息吐いてやがる? 朝からしゃらくせぇツラをすんじゃねぇーよ」



 気がつくと、玄関の前に車が止まっていた。

 助手席をみるとサングラスをかけた男が、足を上げながら、ゲームをしていた。


 僕の親友であり、幼馴染みのあめヶ淵ぶち佐助さすけだった。



「お前とデバイズ共有してるから、りんなちゃんとの会話のやり取りが全部ダダ漏れだったぞ。ちゃんとプライバシー機能オフにしておけよ。あとシリアルは残さずに食え」


「うるさいな」


「つーか、なに妹萌え声(プロ声優課金あり)に設定してんだよ。正直気色悪いぞ? 朝にロリ声の妹に起こしてもらって、下半身から目覚めますってか!? 」


「お前のその下品な発言も、今僕の腕時計デバイズに記録しておいたから、女子にドン引きされないように気をつけるんだな」


「クソッたれ!」



 佐助が怒声を吐きながら、右の席に移動する。

 僕は扉を開けて、左の席に移動した。


 運転席の佐助が前の画面をタッチすると、プログラムレベル5が起動した。学校までの道のりを自動運転してくれる。速度は約30キロだ。



「入学シーズンの影響かネットワークが今混雑してるみたいだから、ちょっと遅くなるかもな。まあ、遅刻しても出欠の確認はタブに来るから問題ねぇーが」


「そもそもみんな登校しているのか? 春休みを満喫していそうだが」


「あんましてないじゃねーの? 大半がネット参加だろ。入学式って考え方自体が旧世代的だし、顔を合わせることもねぇーしな。でも、まあ、できれば参加して欲しいって先生が言ってるからいくしかねぇーだろ。ジジババの時代の名残だし」


「ふーん、昔ながらってやつなのか」



 あまり良くは知らないが、昔は学校の入学式も強制参加だったらしい。しかも校長先生の話もタブレットに送られてくるのではなく、直接聞かなくてはいけなかったらしい。当時は無駄な長話も多く、スキップ機能すらもなかったとか。今だと考えられない時代である。



「学校に毎日通えって、マジで老害的考え方だよな。行かなくても家で授業受けられるってのに、どれだけ技術の進歩が間に合ってなかったんだよ。つーか、今の時代学校なんて行かなくても、いざとなればAIが先生代わりになってくれるってのに……この国はマジで遅れてやがる」


「まあまあ、どうせ家に居ても暇だし、たまには外に出るのもいいことだろ。義務教育の頃はこうだったみたいだし」


「義務教育って。今、自由教育の時代だぜ?」



 車内でそんな話をしながら、街を進む。

 無人コンビニから出て行く人々を見ながら、僕と佐助は二人でゲームをしていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 車が曲がり角に差し掛かったとき、異変が発生した。

 突然、車体がどんと揺れた。

 みると、別の車がぶつかってきているではないか。これは立派な事故である。



「ちょっと、ちょっとどこ見て走ってんのよ〜!?」



 Greentooth越しに声が聞こえる。

 急いで二人で車から降りた。


 女の子が降りてくる。

 ポニーテールの少女だった。


 車に向かって、腕時計をかざすと彼女の情報が浮かび上がってきた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 車両名義主:服部はっとり新愛にーな


 16歳。親と一緒に同居中。

 A型。朝はハムトーストを食してきた。

 クラウドショッピングが好き。

 猫を飼っている。

 デバイズの種類はペン。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「わ、悪い……。緊急ブレーキが作動していなくて」


「しっかりしてよ! 電波ジャックされたかと思ったじゃない!? もし怪我していたら慰謝料を請求するところだったわよ!?」


「慰謝料……。とんでもないな」



 女の子とそんな話をしていると、事故車の後ろから続々と女の子たちが出てきた。

 どうやら一人乗りではなかったらしい。



「ニーナこの事故はどういうこと? また貴方の不注意運転?」



「違うわよ! コイツらがゲームに夢中で前方を見ていなかったの!」



 名前が表示される。

 石川いしかわ真里亞まりあというらしい。長い髪の女の子。



「うぇ〜ん! 事故は怖いですぅ……。ネット警察に通報されるですぅ……」



 背の小さい女の子が現れる。

 鵜飼うかいハルヒというらしい。



「ボクは全然怖くなかったけどね! お兄さんたちは平気かな!?」



 ボーイッシュな短髪の女の子が握手を求めてくる。

 この子は神戸かんべまどかだ。



「……おでこ、痛い。怪我、した」


「ええ!? 来桜ららちゃん大丈夫かい!? ボクは全然平気だったけど、それは痛かっただろうね〜!!」



 最後に声の小さな女の子が現れた。

 彼女の名は霧隠きりがくれ来桜ららだ。




「ゴクリ…………」




 どうしてだろう。僕はそのとき、直感的に察した。

 なぜだがわからないが、僕はこの子達と楽しい学園生活を送れる気がしたのだ。


 なんだろうか? 王道ラブコメディというのか? 古き良き、あのハーレムラブコメってやつ! この子たちと仲良くなれる、そんなお約束的展開が見えたのだ! VR漫画やAIアニメでよくあるやつ!



 もしかして、

 もしかして、


 もしかして、もしかして、もしかして。



 中学時代全くモテなかった僕にも、春が来るのか!?





「ちょっとアンタ慰謝料払いなさいよ!」



「ニーナ、落ち着きなさい。貴方の怒った顔、とても不細工よ」



「うぇ〜〜ん。事故、怖いですぅ〜〜」



「ボクは全然怖くなかったけどね! 足がすくんでるのは気のせいだよ!」



「出欠、確認、きた。入学式、遅刻、確定」






 そして、僕は思い知ることになる。

 世界は常に変化しているということを。


 そして、未来というのは全く予想がつかないということを。





 ──5Gの時代は、すぐそこだ。





       ーfinー

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