人殺し!………これは処刑よ?あなた頭がおかしいんじゃない?

naturalsoft

常識でしょう?

この国、グランツ王国の第一皇女殿下であるシオン・グランツは深いため息を吐いた。


婚約者であり、王配になるはずのアード・アッシュ侯爵子息が時間になっても現れなかったのだ。


今日は王家主催のパーティーの日である。

こんな日に限って父と母は隣国に出掛けているのだ。今回はシオン皇女殿下が1人でパーティーを準備して成功させるのが課題なのだ。


そして原因はわかっている。

遠縁であり従兄妹になるミリア・ガーデン伯爵令嬢と懇意にしていると『影』から報告を受けていた。


これ以上待たせる訳にはいかず、1人でパーティー会場に向かった。

そして、これから起こるであろう事に、

憂鬱になる気持ちを隠して微笑みの仮面を被るのだった。


「グランツ王国第一皇女殿下の御入場です!!!」


兵士の掛け声に、会場に来ていた大勢の貴族が礼の姿勢を取った。そして面を上げると戸惑いの声が上がった。

パートナーが居なく、1人での入場だったからだ。


ヒソヒソッ

「どういう事だ?」

「アッシュ侯爵子息殿はご病気なのか?」


シオンは内心で深いため息を吐いた。

そして理由を話そうとしたとき、会場の入口が騒がしくなった。


「あれは………」


シオンの婚約者アードがミリアを伴って入場してきたのだ。

ただでさえ、皇女より遅れてくる事で注目を浴びる状態なのに、それを利用してアードはシオンに視線を送ると大声で叫んだ!


「シオン・グランツ皇女!私は貴女との婚約を破棄し、ここにいるミリア・ガーデン伯爵令嬢と婚約する事を宣言する!」


はぁ、本当にやりやがりましたわ。

( ´Д`)=3


流石のシオンも無表情の能面の顔になったのは仕方がないだろう。


「アッシュ侯爵子息、そのような無礼がまかり通るとお思いですか!?」


これはシオンではなく、側にいた侍女の声であった。


「無論、思ってはいない!しかし、この国の女王となるシオン・グランツの【残虐性】を知った今、王配となるのは無理だと理解したのだ!」


はて?私の残虐性とはこれいかに???


シオン自身が首を傾げているとアードは続けた。


「シオン皇女殿下は、ここにいるミリアを陰で虐めていたのだ!低いとはいえ、王位継承権を持っている美しいミリアに嫉妬して悪質な体罰を繰り返していたのだ!命すら危ういと私は気付き、ミリアを守る為に婚約を破棄する事を宣言したのだ!」


なるほど。それが『本当』なら観衆の目が厳しくなり、手が出せなくなると言う訳ですか。


「さらに、こんな弱い者虐めをする者が女王としてふさわしくない!真の女王にふさわしいのは、謙虚で折れない心を持っているミリア・ガーデン伯爵令嬢だ!」


ザワザワ

ザワザワ



平然と王族批判するなんて、王配と言ってもまだ婚約者でしかなく、あなたは王族ではないのに。


「はぁ、それでアッシュ侯爵子息殿は私(わたくし)に女王の座を降りてガーデン伯爵令嬢に譲れと仰るのですね?」


「そうだ!」


アホくさ。

そもそも、ガーデン伯爵令嬢なんて祖母の代に問題を起こした王女が降嫁されて嫁いだ家柄じゃない。確かに王族の血が流れているけれど、王位継承権なんて持ってないわよ?


まぁ、今の王族、公爵位の家族が流行り病などで断絶すれば最悪有り得るけれど…………


その可能性は余りにも低いでしょう。

そういえば、昔降嫁された王女も婚約者を寝取ったのが原因だったような………?


「何を黙っている!返答はどうしたんだ!?」


おっと、思案していると話が逸れてしまいましたわ。


私は周囲を見渡しました。

おっ、いるではありませんか?


「アッシュ侯爵殿、これはどういう事か説明を求めます」


バカの相手は疲れますので、父親に通訳してもらいましょう。

真っ青な顔で前に出てきました。


本来であればすぐに飛んで行って、バカ息子を殴りたかったでしょうね。ただ余りにも不敬な物言いに固まって動けなかったと言う所でしょうか?


父親はまともなのに、どうしてこうなったのかしら?少なくとも公務をまともに行える能力はあったのと、政治バランスのために選ばれたのにね。


古今東西、女に溺れた男は愚者になり果てるとはよく言ったものだわ。

アッシュ侯爵は震えながら重たい口を開いた。


「こ、この度は大変申し訳……ご、ございません。愚息には良く言って聞かせますので、な、何とぞお許し下さい!」


アッシュ侯爵?土下座までやれとは言ってませんよ?


「貴様!公衆の面前で父上に何をさせるのだ!みたか!?これがあの女の本性だ!」

「黙れ!!!貴様は何をしているのか分かっているのか!?」


バカ息子が何も理解していない事に父の侯爵がキレました。


「はぁ~、それでガーデン伯爵殿はどう収拾を付けるおつもりか?」


もう片方の親であるガーデン伯爵はアッシュ侯爵と違い、不敵に笑みを浮かべていた。


「はい。我が娘が受けた苦しみを思えば、娘の願いを叶えさせてやりたいと思っております」


はい!バカ決定!!!


こっちは父娘揃ってバカだわ。

本気で叶うと思っている所が愚かね。


「そう………とても残念だわ。それで取り敢えず聞いてみるけれど、私が、『いつ』『どこで』『誰を』虐めたのか教えてくださる?」


ミリアは如何にも勇気を振り絞って告発した風に話した。


「シオン皇女様は一緒に通う魔法学園で、いつも放課後に呼び出して暴力を振るいました。しかも目立たない服の下を狙って」


うううぅと涙を流しながら訴えました。アード子息が寄り添って慰めています。

ちょっと、なんであんたがツッコまないのよ!?


「はぁ、バカ過ぎて怒る気も起きないわね。だいたい、ガーデン伯爵令嬢、私が貴方を『見掛けた』のは年に二度ある王家主催のパーティーぐらいよ?会ってもいないのにどうやって虐めるのか、教えてくださるかしら?」


「そんなの嘘です!毎日の様に私を虐めていたじゃないですか!?罪を認めて償って下さい!」


私は一度目を瞑り、ゆっくり考えてから口を開いた。


「そうね。罪を犯したなら償わないといけないわね。ガーデン伯爵殿も同じ考えでよろしいのですか?」


「無論です。私も含めて誰であったとしても、犯した罪には贖罪が必要でしょう!」


シオン皇女殿下は、ガーデン伯爵の所まで行くと後ろを振り返り頭を下げた。


「この度は、王家主催のパーティーでお騒がせしてしまい申し訳ございません。王家を代表してお詫び申し上げます」


ザワザワ

ザワザワ


まさかシオン皇女殿下が頭を下げるとは周囲の貴族達は思っていなかった。そして頭を上げると皆に宣言した。


「それでは罪を償う為に、責任を取ってこの騒ぎを犯した者に裁きをくだしましょう!」


側にいた騎士から剣を貰うと


へっ?


間の抜けた声を出したガーデン伯爵の心臓に突き刺した。


「ガハッ!!!?」


ガーデン伯爵は血を吐いて絶命した。


「きゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」


ミリアは悲鳴を上げた。

周囲の貴族も小さい悲鳴を上げたが、ミリアのように叫ぶ者はいなかった。


そう、彼らは知っていたのだから。

こうなる事を。


「き、きさっ、貴様!?人殺し!?」


アッシュ侯爵子息も、恐怖で動揺してまともに声を発声できていなかった。


「何を言っていますの?これは【処刑】であって人殺しではありません」


不思議そうに首を傾げるシオン皇女殿下に、何とも言えぬ恐怖を感じた。


「皆さん、見ましたか!?これがシオン皇女殿下の本性なんです!早く皇女の座から降ろさないとみんな殺されますよ!」


必死にミリアは訴え掛けるが、周囲の常識ある貴族達は聞き流していた。


「ど、どうして皆さん動かないのよ!?」

「そうだ!どうして止めないのだ!?」


動揺した二人に周囲は動かなかった。


「当然でしょう?アッシュ侯爵子息が、逆にどうして動揺しているのか、不思議なんですが?アッシュ侯爵、説明して上げなさい」


息子の前に呆然と立っていた父親の侯爵が全てに絶望した顔で答えた。


「バカ息子が………なぜこんなに愚かになった?勉強しただろうに。シオン皇女殿下のガーデン伯爵の【処刑】は当然であろう。正当な理由に則っての行動だ」

「ふざけるな!例え王族であっても貴族を勝手に処刑できるわけないだろう!」


侯爵はここまで言っても気付いていないバカ息子に全てを諦めた。


「お前とそこの令嬢は不当な理由で皇女殿下を糾弾した。さらに王位を譲れとも言ったのだ。それは王族侮辱罪と王族反逆罪が適用される」


!?


「そんなバカな!い、いや不当な理由ではないだろう!皇女殿下はミリアを虐めたという理由が──」


バキッとアッシュ侯爵は息子を殴り付けた。


「ぐっ!?い、いきなりなにを…………」

「どこまで愚か者になったのだ!どうして側にいたお前が気付かない!?シオン皇女殿下は魔法学園に通っていないであろうがっ!!!」


「…………あっ」


ようやく気付きましたか?ってか、ここまで言われて気付くなんて、そこまで私に興味が無かったのは流石にショックですよ?

女王教育のため、1年だけ通って飛び級で卒業したのよね。


「まぁ、あなたの行動は『影』からの報告で筒抜けでしたよ?」


アッシュ子息は、なっ!?と驚いた顔をしたので教えて上げた。私って優しいわね♪


「当たり前でしょう?王配となる者の行動を見張るのは当たり前ですわ。今回の様に女王に危害を加える者を据える訳には行きませんもの?」


私は侯爵に目をやり首を振った。

血に濡れた剣をアッシュ子息の前で掲げると腰を抜かして命乞いをしてきた。


「待ってくれ!?謝るから許してくれ!そこのガーデン伯爵令嬢に騙され──」


シオンは無言で婚約者の首を刎ねた。

ブシューーーーー!!!!!


大量の血が吹き出し、シオンのドレスを染めた。そして、ミリアの方を向いた。


「ひ、人殺し!婚約者まで殺すなんて最低よ!」

「はぁ………さっきも言いましたがこれは処刑です。ここまで話が通じないなんて、あなた頭がおかしいのではなくって?」


ミリアは、なななっと口をパクパクしていたのでシオンは丁寧に答えた。


「王配である婚約者を誑かした罪が貴女にあります。そして、それを利用して私を廃しようとした罪、さらに王族主催のパーティーで騒ぎを起こして女王の座を奪おうとした王族反逆罪の罪などなど…………裁判をするまでもなく死刑!速やかに処刑を実行しますわ!」


剣を構えた所に待ったの声が入った。


「待って下さい!他国の事に口出しするのはタブーなのは分かっています。しかし、今すぐ処刑にしなくとも、国王夫妻が戻るまで牢屋に連れて行くのではダメなのですか?あなたが自らの手を汚さなくてもよろしいのではないのでしょうか?」


「貴方は隣国のアルフォート第二殿下…………?」

「もう十分に王族の権威は見せたと思います。だから──」

「だからこそ!中途半端は出来ないのです!今後の治世に影響してきますから!!!」


シオンはもう聞きたくないと剣を振り被った!


「こ、この人殺し──」


ミリアは叫ぼうとしたが、その前にシオンがミリアの心臓に剣を突き刺した。


「ゴフッ…………どうし……て?」


ミリアは最後まで自分の犯した罪に気付く事なく事切れた。


「はぁ…………私が何も感じていないとでも思っていたのかしら?」


一呼吸置いてから、パーティーの解散を命じた。


「アルフォート殿下、先程はご無礼を致しました。後日改めて謝罪致します」


「シオン皇女殿下、余り自分1人で抱え込まない事です。もっと周りを頼っては如何でしょうか?貴女が全てを無理に背負って、傷付いていくのを見てるのは辛いです」


シオンは目を伏せて首を振った。


「…………後日、また開催するのでこの度はお開きとさせて頂きます」


慌ただしく解散させると、シオンは自室に戻り湯を浴びてからベットに倒れ込んだ。


「今になって震えが止まりませんわ」


その夜、静かに涙を流した。

少なくともアッシュ侯爵子息となら上手くやっていけると思っていたのに…………


あれからアッシュ侯爵家は降格され子爵家に落とされたが、連座で家族の処刑は免れた。

それはシオンが口利きをしたのだが。

そしてガーデン伯爵家は母親が連座で処刑されお家断絶となった。

親族には、薄いが降嫁した王女の王族の血が流れていたため処罰を免れる事となった。


後日、両親が飛んで帰ってきて慰めてくれました。


「ちゃんと『影』から報告を受けている。まさかアッシュ子息があそこまで愚か者になるとはな………シオン、お前は悪くない」

「そうよ。貴方はあなたのできる事をやったのだから、余り気にしないでね」


元気なく頷くシオンに休息を与えると、国王夫妻もため息を吐いた。


「まさかあのパーティーであんな事が起きるとはな」

「ええ、シオンの機転で助かりました。他国の大使も来ていましたから、ここで黙って糾弾されていたら、現王家は貴族をまとめる力が無いと思われ、貿易の不利な契約や最悪、戦争にまで発展したかも知れません」


「ああ、シオンが冷徹に処刑した事で王家の威厳と恐ろしさを示す事ができた。シオンには辛い想いをさせたが………」


そんな時、娘の事を思う二人に婚約の話が舞い込んできた。


「シオン、どうする?まだ辛いなら断るが?」

「いいえ、会うだけなら受けますわ」


隣国の第二王子アルフォートが、シオンの折れない強さと、美しさにひとめぼれしたと言う事だった。そして全てを背負って立つシオンを支えたいと言ってきた。


政治的に隣国との同盟も強固にできるため、政治的にも丁度よい相手だった。



この後、隣国のアルフォート王子が心に傷を負ったシオンを溺愛し、デロデロに甘やかしてくるのは、もう少し後のお話です。


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