幼馴染みの二宮藍は中学生になった夏のある日、病気で亡くなった。……現在都内で独り暮らしをしている大学生の香月恵一は、7年越しにこれまで目を逸らしてきた藍の死と向き合うべく故郷へ帰る。そして当時藍と遊んだ携帯ゲーム機、そこに彼女が遺してくれた思いを見つけるのだった。
大切な存在である藍さんを亡くしてしまったことに囚われ、抜け殻のような日々を送っていた恵一さんが、他ならぬ藍さんに救われて顔を上げるまでのお話となります。
目を惹かれたのは物語に一切の外連味がないこと。恵一さんが男子らしい愚かさから藍さんとの関係性を崩してしまうことから始まり、ついに藍さんの思いを見出して、終わる。1万字に満たない文字量の中で7年間の空白とその結末までをまっすぐ描き抜いた筆の凄まじさといったらもう! 王道というものはひとつ間違えば野暮に堕ちますが、それをこうも美しく磨き上げられては唸るよりありません。
夏の夜に噛み締めていただきたい、妙々たる恋物語です。
(「忘れがたし夏の恋」4選/文=髙橋剛)