第13話

「……この辺で終わりにしよう。これできみの恋愛運は間違いないものになった」

そう言って神様はほほ笑んだ。

「あ、そうなんですか!ありがとうございます!」

俺は頭を下げた。

「じゃあね!」

そう言うと神様はあっという間に消えてしまった。それからの世界はすっかり変わってしまった。コロナ禍や戦争がなくなり、世界各国が核兵器や生物化学兵器を放棄した。これも神様の思し召しなのかな?

そんなこんなで、俺、佐藤リュータは国仲涼子との恋愛は順調に進み、今日は焼き鳥屋でデート。もも、ねぎま、皮、つくねとソフトドリンクを注文。国仲が一口食べるや否や

「うん、おいしい!」

国仲が串から外した肉を口に入れている。俺は彼女の唇に目が行った。柔らかそうな口元に、肉の脂がついたのか少しテカっている。そしてピンク色をした舌がちらりと見えた。あーっ! もう我慢できねえ! 俺は国仲の手を握った。彼女は驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。

「いいよ……来て」

そう言って目を閉じた。俺は吸い寄せられるように顔を近づける。あと数センチというところで、彼女が言った。

「ちょっと待って」

国仲はバッグの中から手鏡を取り出した。自分の顔を見て満足げな笑みを浮かべると、再び目を閉じてキス待ち状態になった。くそっ、こんな時に化粧直しかよ……。でもここで引いたら男がすたるぜ! 俺は思い切って彼女にキスをする。柔らかい感触とともにレモン味の爽やかな香りが広がる。その瞬間、全身の血流が激しくなったような気がして頭がクラっときた。

「どうだった?」

国仲が聞いてくる。

「最高だよ……」

「よかったぁ」

国仲は再び笑顔になった。俺はこの笑顔を守りたいと思った。いや、守りたいと思わされたのだ。

「じゃあ次行こっか」

「え? まだ行くところあるのか?」

「うん。だってこれから私の家に行くんでしょ?」

国仲は不思議そうな顔をしている。「え? どうして俺の家に来るんだよ?」

「だってさっき私に『家に来ないか』って誘ったじゃん」

確かにそうだけど……。そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ……。しかし国仲はやる気満々だ。

「わかった。行こうか」

俺は諦めることにした。

焼き鳥屋を出て国仲と一緒に駅に向かう。電車に乗って二つ目の駅で降りる。駅から歩いて10分くらいの場所に大きなマンションがあった。

「ここが私の住んでるところ」

国仲はそう言うと、エントランスに入っていく。オートロック式の扉を抜けてエレベーターに乗る。

「何階に住んでるんだ?」

「302号室だよ」

エレベーターを降りて廊下を歩く。突き当たりの部屋の前で立ち止まると、鍵を使ってドアを開ける。玄関に入ると部屋には誰もいないようだ。

「ただいまー!」

国仲が元気よく挨拶する。

「お邪魔します……」

靴を脱いで部屋に入る。中はきれいに片付いていて、家具などは白を基調としたものが多い。部屋の隅には大きな本棚があり、マンガや小説などがぎっしり詰まっている。

「適当に座っていいよ」

国仲はそう言いながらキッチンに向かっていった。俺はソファーの上に腰掛ける。するとすぐにお茶が出てきた。

「はい、これ飲んでみて」

「ありがとう。いただきます」

一口飲む。甘い味が口に広がった。

「ん? これは……」

「ふふっ、気づいた?」

国仲が得意げに笑う。

「ああ、砂糖を入れたのか」

「正解! どう? おいしいでしょ」

確かにうまいけど……。普通は女の子の家に来たら緊張するものなのに……。なんか拍子抜けしてしまったな……。国仲の方を見ると、彼女はテーブルの上に置いてあった雑誌を読んでいた。

「何読んでいるんだ?」

「これ?」

国仲が見せてくれたページを見る。そこにはウェディングドレスを着た女性が写っていた。

「結婚式の特集記事みたいね。今度友達の式があるからどんなものなのか調べていたの」

「へぇー、結婚式か」

結婚なんてまだまだ先の話だと思っていたが、高校生のうちから考える奴もいるんだな。国仲が続ける。

「ウエディングドレスってかわいいよね。一度着てみたいなぁ」

「いいじゃないか。きっと似合うと思うぞ」

「そうかなぁ」

国仲は照れくさそうな表情になる。俺は彼女の花嫁姿を思い浮かべた。純白のドレスに身を包み、幸せに満ちた表情をしている彼女……。悪くないな……。俺は思わずニヤけてしまった。

「あ、そうだ! 私もウエディングドレスを着てみたいけど、彼氏がいないんじゃしょうがないよね……。ねぇ、佐藤くんは私と結婚してくれる?」

国仲が上目遣いに聞いてくる。俺はドキッとした。

「え? 俺が?」

「うん! 私達付き合っているんだしさ、将来のために練習しておいた方がいいと思って」

そう言われると悪い気はしないな……。俺は少し考えて答えた。

「まあ……いいんじゃないか」

「やった! じゃあさっそく試着してみるね」

国仲は嬉しそうな顔をして、クローゼットの中に入って行った。しばらく待っていると、彼女が白いドレス姿で出てきた。俺はその姿に見惚れてしまう。

「どうかな?」

国仲が感想を求めてくる。

「いいじゃん。すごく綺麗だよ」

「ほんとに!? 嬉しい!」

国仲の表情がパッと明るくなる。

「ねえねえ、もっとちゃんと見てほしいんだけど……」

国仲は恥ずかしそうに言った。俺は彼女をじっくり見ることにする。まず目に付くのは背中が大きく開いたデザインだ。肩甲骨の下あたりまで肌が見えている。そこから視線を下げると、胸元の部分が広がっているため、谷間がよく見える。次にスカート部分だが、裾が長いタイプではなく、膝より下の長さになっている。全体的にスレンダーな体型の国仲によく似合っていた。

「どう? 気に入った?」

国仲が期待を込めた眼差しで見つめてくる。

「ああ……。よく似合ってるよ」

「よかった! じゃあこのままデートに行く?」

「え? まだどこか行くのか?」

「うん! せっかくだから今日一日かけて結婚式の練習をしようよ!」

国仲は笑顔で言う。どうやら今日の予定は変更になりそうだ。

「わかった。でもその前に着替えてきてもいいか? さすがに制服のままだと動きにくいからな」

「もちろんだよ。それなら私の部屋で待ってるね」

国仲はそう言うと、部屋に戻っていった。俺は自分の部屋に入って服を着替える。それから国仲の部屋に向かった。

「お待たせ」

「うわー、すごいカッコイイー!」

国仲は目を輝かせながら言う。今の俺は黒いスーツを身に纏っている。

「そんなに珍しいか?」

「だって普段の格好と違って大人っぽいもん! よく似合ってるよ」

そう言われると照れるな……。俺は頭を掻きながら礼を言う。

「ありがとう。ところでどこに行こうとしているんだ?」

「それは行ってからのお楽しみ!」

国仲は楽しそうに言って歩き出す。その後ろについていくことにした。マンションを出て、電車に乗って移動する。そして辿り着いた先は……。

「ここって……」

目の前にある建物を見て驚く。そこは俺が通っている高校の校舎だった。

「学校見学をしてみようよ」

国仲はそう言いながら校門を通っていく。俺は彼女に引っ張られる形で中に入った。

「どうして急に学校に行こうと思ったんだ?」

「えっと……。特に理由はないよ。ただなんとなく行きたいなって思っただけ」

国仲はそう答える。俺はそれ以上追及しなかった。教室に入ると、彼女は窓際の席に座った。俺もその隣に腰掛ける。しばらく他愛もない会話を続けた後、ふいに話題が変わった。

「ねぇ、結婚式で大切なものってなんだと思う?」

突然質問されたので戸惑ってしまう。結婚する経験など今までになかったので答えづらいが……。とりあえず無難なものを選ぶことにした。

「やっぱり料理じゃないか? あとはケーキとか」

「そっか……。じゃあウエディングケーキは私が作るね」

国仲は真剣な顔つきになる。もしかして今から作り始めるつもりなのか……。その時、廊下から誰かが走る音が聞こえてきた。俺たちが音のした方に目を向けると、ドアが開かれ1人の男子生徒が飛び込んできた。その人物は一直線にこちらへ向かってくる。

「あれは確か……」

以前、屋上に上がった時に会ったことがある。確か……クラスメイトの大苗字亮太だ。

「お前らこんなところで何やってんだ?それになんだその恰好は?」

彼は俺たちの様子に戸惑いの表情を見せた。

すると国仲が説明を始める。

「あのね、私達これから結婚するんだ!」

「けっ……!? いきなり何を言っているんだよ!?」

大苗字は動揺しているようだ。まあ無理もないだろう。

「ごめんね。ちょっとふざけすぎたかも」

国仲が謝ると、彼も冷静になったようで落ち着きを取り戻した。

「別にいいけどよ……。一体どういう状況なんだこれは?」

「えーとね……。簡単に説明すると、私達付き合っているんだ」

「マジか!? いつの間にそんなことに……。全然知らなかったぞ」

「まあ……誰にも言っていないからな」

俺の言葉を聞いた大苗字はショックを受けたような顔をしていた。

「そうか……。2人が付き合っているなんて知らなかったな」

「それでね、結婚式のためにいろいろ準備をしているところなんだけど、なかなか上手くいかなくて困っていたんだよね」

国仲は苦笑いを浮かべている。

「なるほどな。それで学校の様子を見に来たわけか」

「そういうこと!何かアドバイスをくれるかな?」

「そうだなぁ……」

大苗字は腕を組んで考え込む仕草をする。しばらく間を置いた後、彼の口から言葉が発せられた。

「よし! いいアイデアがあるぜ!」

「ほんとに!?」

国仲の顔に笑顔が広がる。

「ああ! 2人でウエディングドレスを着てみないか?」

「へっ?」

国仲はポカンとした表情で固まってしまう。一方、大苗字は自信ありげな様子だった。

「俺に任せてくれ! きっと最高のウェディング写真を撮ってやるからさ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は男だぞ? その格好はできないと思うが……」

俺が慌てて口を挟む。

「大丈夫だって! メイクをすれば女に見えるって! 絶対に似合うからやってみようぜ!」

「ええー……。でもなぁ……」

国仲は乗り気ではないようだ。大苗字は構わず話を続ける。

「実はさっきまで女子と一緒に衣装を作っていたんだ。もうすぐ完成するところだから見に来てくれよ」

「そうなんだ……」

国仲は少し迷っているようだ。

「じゃあさ、せっかくだから見に行ってみようよ!」

俺は彼女の気持ちを変えるために言った。国仲はこちらに視線を向けた後、小さくうなずく。それを見た大苗字は嬉しそうに笑うのであった。

俺たちは3人揃って教室を出る。そのまま隣の空き教室に向かった。中に入ると、そこには白い布を被った大きな物体があった。

「なにこれ?」

国仲が不思議そうに呟く。すると大苗字が得意気に語り始めた。

「これは花嫁のベールだよ! これを被れば完璧に女の子になれるんだ!」

「ほ、本当なのかな?」

国仲は半信半疑といった感じだ。その時、奥の方で人の気配を感じた。見ると、1人の女性がこちらに向かって歩いてきていた。彼女は俺たちの前で立ち止まる。

「お待たせしました。皆さんの衣装ができましたよ」

「えーと……。あなたは誰ですか?」

国仲が恐る恐る尋ねる。すると彼女は自己紹介を始めた。

「初めまして。私はクラスメイトの小鳥遊美緒といいます。今日は皆さんのコスプレ写真を撮影しようと、こちらに参りました」

「コスプレ写真?」

「はい。ウェディング撮影会で、記念に写真を残そうと思いまして」

「なるほど。つまりブライダル撮影会みたいなものだな」

俺がそう言うと小鳥遊さんは微笑む。

「そうですね。ただ今回のイベントでは、特別なコスチュームを用意しています」

「どんな服なんですか?」

「それは見てのお楽しみです。着替えてきてください」

そう言って小鳥遊さんは教室から出て行った。残された俺達は顔を見合わせる。

「どうしよう……。本当に着なきゃダメなのかな……」

国仲が不安そうにしている。そんな彼女に対して、大苗字が元気よく話しかけた。

「心配すんなって! ちゃんとメイクしてあげるからさ!」

「うん……。ありがとう」

国仲は納得したのか、覚悟を決めたように歩き出した。その後ろ姿を見送った後、大苗字は俺の方に向き直った。

「お前も早く来いよ」

「分かった」

俺は自分の席に向かい、荷物の中からタキシードを取り出す。そしてそれを片手に持ちながら、もう片方の手でドアノブを握った。ゆっくりと扉を開くと、目の前には真っ白なウエディングドレスを着た国仲の姿があった。その姿はまるで天使のように美しく、俺の心を強く揺り動かす。

「すごく綺麗だ……」

思わず言葉に出てしまった。国仲は恥ずかしくなったようで、頬を赤く染めている。

「そ、そんなに見ないでよ……。なんだか緊張するじゃん……」

「ごめん……。つい見惚れてしまって……」

「もう……。じゃあ次は亮太君の番ね」

「ああ」

俺は彼女に背を向けると、カーテンの奥にある更衣室に入った。そこでタキシードの上着とズボンを脱ぎ捨て、下着だけになった状態で鏡の前に立つ。俺は深呼吸した後、意を決してウエディングドレスに手をかけた。

「うわっ……。結構重いな……」

俺は驚きの声を上げる。見た目以上に重かったのだ。俺は腕に力を入れ、何とか持ち上げた。そして上半身の部分を持ち上げることに成功する。後は下半身だけだ。

「よし! いけるぞ!」

気合いを入れて足を動かそうとした時だった。突然、後ろから声をかけられた。

「あのさ……、亮太君。私にやらせてくれないかな?」

振り返ると、国仲がすぐ近くまで近づいていた。彼女は真剣な表情をしている。

「え? 何を言っているんだ?」

「私にも手伝わせてほしいんだ」

「でも……、ウエディングドレスなんて重くないか?」

「大丈夫! 任せてよ!」

国仲は笑顔を浮かべている。

「そこまで言うならお願いするか」

俺はウエディングドレスを手渡す。すると彼女はドレスを広げ、背中部分を俺に向けた。

「まずは袖を通すから、ちょっと前に出て」

俺は言われた通りに動く。それを確認した国仲は、俺の体にドレスを当ててきた。

「こんな感じかな?」

「うん。それでいいと思うよ」

「じゃあ次はこれを履こうか!」

国仲はスカート部分の裾を持って、俺に見せてくる。そこには純白のハイヒールがあった。

「これを?」

「そうだよ。あとはこの靴を履いて、最後にベールを被るんだって」

「ふーん……。そうなんだ……」

俺はハイヒールを手に取る。その瞬間、少し違和感を覚えた。

「あれ? これってもしかして女性用のサイズじゃないか?」

「え?」

国仲は不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの?」

「いや、この靴が女物のサイズだなと思ってさ」

「えーと……。確かに言われてみると、そんな気がしないでもないような……」

国仲も俺と同じ考えに至ったようだ。2人の間に微妙な空気が流れる。その時、意外な人が現れた。国仲の母親だ。

「あら、もう着替え終わったの?」

「はい。ちょうど今終わりましたけど……」

2人は母を見る。すると母は目を丸くした。

「え!? 亮太くんどうしちゃったの?」

国仲のお母さんは驚きの声を上げた。それも当然だろう。なぜなら今の俺の姿は、どこから見ても男性ではなく、完全なる女性の格好をしていたからだ。

「これは一体どういうことなんですかね?」

俺は戸惑いながら尋ねる。すると大苗字が説明を始めた。

「実は亮太に着せようと思っていた衣装は、男装用の衣装だったんですよ」

「な、なるほど……」

「だから俺達の中で、一番女装が似合うのは亮太だと思ったわけです」

「そうだったのか……」

俺が呆然としていると、国仲がクスッと笑った。

「でもまさか本当に女の子に見えるとは思わなかったよ」

「そんなこと言うなって。傷つくぞ」

「ごめんね! 別に悪気はなかったの!」

国仲は慌ててフォローしてくる。俺は苦笑いしながら、手に持っていたハイヒールを床に置いた。

「まあいいか。それより早く着替えたいんだけど」

「うん。分かった。じゃあカーテンを開けるよ」

国仲はゆっくりと俺の方に向かってくると、そのまま背後に立つ。そしてカーテンを開けようとした。だが次の瞬間、勢いよく扉が開かれた。

「お待たせしました! 小鳥遊さんが来ましたよ!」

そこに立っていたのはメイド服姿の小鳥遊さんだった。彼女は満面の笑みを浮かべている。その姿を見た大苗字は興奮気味に言った。

「おお……。なかなか良いじゃないですか……」

「ありがとうございます! ちなみに私のコンセプトは『癒し系』だそうですよ!」

「へぇ……。それはまた面白いコンセプトですね……」

「でしょう? では早速、亮太先輩を変身させますね!」

「はい。お願いします」

「任せてください! では行きましょうか! 亮太先輩!」

「はい……。分かりました……」

こうして俺は、ウエディングドレスを着たまま教室の中に入る。その後ろを、ニコニコ顔の小鳥遊さんと、ニヤニヤとした表情の大苗字が続いた。

「亮太君、綺麗だよ!」

国仲が声をかけてくれる。だけど俺は恥ずかしくて何も言えなかった。ただ黙って俯くだけだ。

「さて亮太。次はメイクだな。こっちに来てくれ」

大苗字が手招きをする。俺は素直に従うことにした。「よし。じゃあ座ってくれ」

彼は椅子を引いてくれる。俺は言われるままに腰掛けた。

「まずはアイラインから引くぞ」

「は、はい」

俺は緊張しながら返事をした。これから俺は、生まれて初めて化粧という行為を経験するのだ。そのせいで、妙な緊張感に包まれていた。

「そんなに固くならないでいいから」

「わ、分かっているよ」

「じゃあ目を閉じるんだ」

「う、うん」

俺は言われた通りにする。すると瞼の上に筆のような物が触れた。おそらくアイライナーを引いたのだろう。

「じゃあ次にチークを入れるぞ」

「はい……」

「お前、本当に可愛い声を出すんだな」

「そ、そりゃどうも……」

俺は照れくさくなり、顔を背ける。

「おい、動かないでくれ」

「ご、ごめんなさい……」

「じゃあ続けるぞ。まずは頬骨の辺りから塗っていくんだが……。ここら辺かな?」

大苗字は指先で、俺の顔に触れる。その瞬間、彼の手が震えていることに気付いた。

「だ、大丈夫か?なんかすごく震えているけど……」

「ばっ、馬鹿野郎! こんなことでビビッてるわけないだろ!?」

「いや、でも……」

「いいんだよ! ほら、続きを始めるぞ!」

「は、はい……」

「じゃあ今度こそ始めるぜ。まずはチークだ。この辺に……」

再び大苗字の手が伸びてくる。その時、彼が息を飲む音が聞こえてきた。俺は思わず目を開く。すると目の前には、目を閉じながら必死に作業をしている大苗字の姿があった。

「……」どうしよう……。なんて言えばいいのか分からない…… 俺が戸惑っていると、大苗字は突然動きを止めた。そしてゆっくりとこちらを見る。

「な、なんだ?」

「いや、別に……」

「ふーん……。まあいいけどよ」

彼は再び作業に取り掛かる。だが明らかに先程よりも、動作がぎこちなくなっていた。まるで俺の身体に、触れることを恐れているかのように……。

「よし……。これで完成だ」

大苗字は満足げに言う。俺は鏡の前に移動してみた。するとそこには、今まで見たこともないような美少女の姿が映っていた。

「こ、これが俺なのか!?」

「そうだよ! すっごく似合ってる!」

国仲が褒めてくれる。だけど俺は、未だに自分の姿が信じられなかった。

「すごいな……。俺が女の子に見えるぞ……」

「当たり前だろ。お前を女装させるために頑張ったんだからよ」

「えっ? 俺のために?」

「ああ。だってお前は大切な友達だし、それに男同士だと色々と問題があるだろ」

「よくわからないけど、そこまでしてくれるとは思わなかったよ……」

「まあいいじゃん! とにかく今日は楽しもうよ!」

国仲が元気よく言う。俺は苦笑いした。

「はは……。そうだな……。せっかくここまでしてくれたんだもんな……」

「おうよ! 楽しんでいこうぜ!」

大苗字はニッコリ笑う。俺は少しだけ気持ちが軽くなった気がした。

その後、俺は三人と一緒に体育館に向かった。そこでは男子生徒達が、メイド服姿の女生徒たちを囲んでいた。

「ねえねえ! 一緒に写真を撮ってもいい!?」

「もちろんだよ!はいチーズ!」

「うおぉぉ! めちゃくちゃ可愛い!」

「ありがとう!」

女生徒たちは笑顔を浮かべて応じていた。その光景を見た俺は、何だか複雑な気分になる。だけど大苗字と国仲が、そんな俺を見て笑った。「なんだよ。どうしたんだ?」

「いや……。なんか羨ましいなって思ってさ」

「そうか? あんなの普通だと思うけどなぁ……」

「いやいや……。普通の高校生ができることじゃないって……」

「まあ確かにな。だけど文化祭だから仕方ないだろ」

「それはそうなんだけどさ……」

「亮太君、何を言ってるの!?」

いきなり国仲が大きな声を出す。俺は驚いて彼女の顔を見つめた。すると彼女は真剣な表情で言葉を続ける。

「亮太君はもっと自分に自信を持ってよ! 私はそんなこと絶対にしないからね!」

「そ、そういう意味じゃなくて……。ただみんな凄いなと思っただけで……」

「だったら私達も写真を取ってもらう?」

小鳥遊さんが提案してくる。すると大苗字は、ニヤリと笑って言った。

「いいねぇ。それじゃあ早速お願いするか」

「うん!」

「あっ、ちょっと待ってくれ。俺も行くから……」

俺は慌てて二人の後を追う。そして女子生徒に声をかけた。

「すみません。写真とか撮れますか?」

「はい。大丈夫ですよ。でも皆さん、すごく可愛らしいですね!」

「あ、ありがとうございます」

俺は照れて俯きそうになる。しかし何とか我慢して、微笑みかけた。すると相手の女子生徒が頬を赤くする。だけどすぐに我に返ると、スマホを差し出してきた。

「じゃあ撮りましょう! 並んでください!」

「はい!」

俺達は撮影位置に移動する。その時、大苗字が話しかけてきた。

「おい、亮太。スカートの中が見えないように気を付けろよ」

「わ、分かってるよ……」

俺は顔を赤らめながら返事をする。すると大苗字は不思議そうな顔になった。

「んっ? どうかしたのか?」

「い、いや……。なんでもない……」

「そうか……。じゃあ撮るぞ!」

「はい!」

俺達はポーズを取る。するとシャッター音が鳴り響いた。

「はい。OKです」

「ありがとうございました!」

俺達は頭を下げる。すると相手は、にっこり笑って手を振りながら去っていった。

「ふう……。なんとかなったな」

「そうだね。でもなんか緊張しちゃった」

国仲が苦笑いを浮かべる。すると大苗字が得意げに胸を張った。

「まあいいだろ。それより次はどこに行こうかな」

「あの……、良かったら俺と一緒に回らないか?」

その時、背後から声をかけられた。振り返ってみるとそこには、クラスメートの男子の姿があった。

「えっと……。誰だっけ?」

「同じクラスの山田だよ。忘れたのか?」

彼は悲しげな表情を浮かべる。俺は慌てて謝ろうとした。だけどその前に、国仲が笑顔で言う。

「あはは……。実は亮太君ってば人見知りが激しくて、あんまりクラスメイトの顔を覚えていないんだよね」

「ちょっ! 余計なこと言わないでくれよ!」

俺は慌てる。すると山田という男子は、興味深そうにこちらを見つめてきた。

「へぇー……。意外だなぁ。国仲さんとはいつも仲良さげなのに……」

「ま、まあね。私と亮太君は親友同士だから!」

「えっ? いつの間にそんな関係になったんだ?」

「ふふん! それは秘密!」

国仲は得意げに笑みを浮かべる。俺は恥ずかしくなって俯いた。

……こんなドタバタした日もいい思い出だ。今の俺は彼女と結婚し、家庭を設けた。あれから神様には会っていない。神様はまた別の誰かのところに来ているのだろうか。それはわからないけど。今の俺は幸せだ。

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神様のめちゃくちゃつまらない長話に付き合うことで高校での恋愛運アップする シカンタザ(AI使用) @shikantaza

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