第33話 私を、揉んで
ジョッキに注がれた最も度数の強い酒を、無言で一気に煽り飲む。
のどに流し込んだ酒が、体を内側からカッと熱くしてくれる。
「……もう一杯」
「またかい? それでもう何杯目だい?」
注文すると、カウンター越しに酒場の女将が苦い顔を見せる。
ここは冒険者ギルドに併設されている酒場。
今ここで、俺は実に久しぶりのやけ酒というヤツを敢行していた。何杯目だっけね。
「あんたがそんなに荒れてるなんて初めてじゃないかい、コージン」
「そりゃねぇ、これが荒れずにいられるかっていうねぇ~」
新たに置かれたジョッキを掴み、俺は女将に管を巻く。
「ま、しょうがないさね」
女将はそう苦笑して、カウンターの向こうをへと目をやった。
「「「カンパァァァ~~~~イ!」」」
もう何度目になるかもわからない、多数のジョッキがカチ合う音。
酒場が大宴会の会場になって、かれこれ二時間ほどが経とうとしている。
「いや~ははは! 今夜は酒がうめぇなぁ!」
「お~い、こっちに肉の串焼き、も一つ追加で~!」
「あ、エールおかわり~!」
と、集まった冒険者共がドンチャカドンチャカ大はしゃぎの大騒ぎよ。
その輪の中心には、プロミナ、ルクリア、リリーチェの三人。
魔王討伐&『勇者』誕生『美拳』復活『守護者』様大歓迎記念無礼講大宴会。
というクソ長ネーミングのこの宴、俺はそれを輪の外から眺め続けている。
「楽しそうだねぇ、連中」
息をつきつつ、俺はジョッキをまた煽った。
「何だい、ちょっと変態扱いされたくらいでいじけてんじゃないよ、男だろ!」
「街の住民全員に知れ渡る規模はちょっととは言わんのよ……」
元々、この街では『草むしり』で通ってたし、評判がどうこうは今さらではあるが。
だけどね、それとはまた別にさ――、
「オイ、コラ『草むしり』ィ、てめぇ~、ルクリアさんを揉んだだとぉ~?」
顔を真っ赤にしたへべれけ状態の中年冒険者が、俺に突っかかってくる。
ほら、こういうのがカラんでくるからめんどくせぇんだよ。
「てめぇみてぇなヤツァな~、この俺が成敗してやんぞ、コラァ~」
「うるさいんだよ!」
と、ファイティングポーズを取るその冒険者に、俺ではなく女将が水をぶっかける。
「ぶひゃあ!?」
「注文もしないで騒ぐんなら、さっさと外に出ていきな、この酔っ払いが!」
「へぶちっ!!?」
さらに空になったバケツを投げつけ、冒険者をKOする。
「やるねぇ、女将さん」
「フン、ここは気持ちよく食事して、会話して、酒を飲んで管を巻く場所なのさ」
「なるほどねぇ。あ、もう一杯」
「やれやれ、別にいいけど。あんたもあの輪に入ったらどうだい?」
「いいんだよ。俺はここから眺めるだけで十分だ」
そう言って、俺は新しいジョッキを受け取った。
他の冒険者と一緒に騒いで笑ってる三人を見ながら飲む酒は、なかなか乙なモンさ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時間はすっかり深夜。むしろ朝が近いくらいの頃。
酔い潰れた冒険者まみれの酒場をあとにして、俺達はルクリアの屋敷に来ていた。
「あ~、お酒美味しかったね~」
「最後まで飲み続けてたのはプロミナちゃん一人だったけどね……」
「プロミナ様、お酒、強すぎですわ……」
風に揺れる草の音を聞きながら、三人が話している。
ここは屋敷の地下。リリーチェのために設けられた隠し部屋だ。
エルフが暮らす環境を再現したそこは地下でありながら自然の情景が広がっている。
魔法の照明によって常に明るく、そして大気も循環していて風も流れている。
広々とした空間の一角には泉もあり、三人はそこで水浴びをしていた。
俺はというと、覗き禁止ということで目隠しをされ、泉を見ないように背を向けている。
「別にこんなことせんでも、覗きゃしないっつーのにねー」
水音と三人の声を聞きながら、俺は肩を竦める。
「やだー、先生だって男の子なんだからわからないでしょ~」
「信用ねーなー……」
「っていうか、逆に覗こうとか思わないの? こんな美女三人を相手にしてさ~」
「ルクリアさんの自信満々さにビックリの俺だけど、別に思わないな~」
こちとら齢千歳を越えるジジイだからね、性欲とかその辺はそんなには、ねぇ?
「ふ~ん、何かムカつくね。こっちから襲っちゃおっか」
何でそういう話になるんだよ!?
「ギルド長、そんなッ、こっちから、襲、お、おそ、お、お、お……ッ!?」
「ありゃ、プロミナちゃんフリーズしちゃった。さすがに免疫なさすぎじゃない?」
「ルクリア様、今少し恥じらいというものをですね。でも、こちらから、ですか……」
「リリーチェ様、今、生唾飲みました? 飲みましたよね? このムッツリ」
そんな、三人のキャッキャした話し声が聞こえてくる。
あの、俺はいつになったら、この目隠しを外していいんでしょうかね……。
そう思ってから数分後、水音が途絶え、代わりに衣擦れの音がする。
それもすぐに終わり、やっとのことでお声がかかった。
「先生ェ~、外していいよ~」
「やっとかよ、もぉ~。めんどくせぇな~」
目隠しを外して、俺は声がする方を振り向く。
そこにあったのは、リリーチェを揉んだときに使った、大型の天蓋付きベッド。
「準備、できてるよ」
と、言ったのは、薄い桃色の下着をつけてベッドにうつ伏せに寝そべるプロミナ。
両肘で上体を支えるその恰好は、豊かな乳房の谷間が激しく強調されている。
「今日はいっぱい疲れたからね、このままじゃ明日に『疲れ』が残っちゃうな~」
空色の下着姿のルクリアが、ベッドの上でそんなことをのたまう。
彼女は体を横向きにしていて、均整の取れたボディラインがハッキリ見て取れる。
「はい、このままでは明日に障りかねません。ですから、コージン様……」
純白の下着を着たリリーチェが、枕を手にして俺を見る。
一人だけベッドの上にチョコンと座っているその姿は、俺から見ても愛らしい。
三人の視線が、俺へと注がれる。
そして、彼女達は頬を朱に染めながら、潤む瞳で俺に向かって声を揃えた。
「「「私を、揉んで」」」
こりゃあ今夜は寝れないなー、と、俺は思った。
趣味で冒険者のトレーナーをしている俺はワケアリ女冒険者から「私を揉んで!」とよく言われる 楽市 @hanpen_thiyo
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