「正しいドミノの倒し方」それは遅かれし道標だった。
ちびゴリ
昼飯も忘れさせるほどの高価な一冊。
それにしても面白い題材を取り上げたものだと思った。
ざっくばらんのその人物像にどう考えてもこのテーマは結びつかない。だからなのか無性に興味をひかれた。立ち読みも許さない完全ラッピングと言う手法や増刷無による抽選も財布を取り出すための理由の一つで、私は通常とは異なる手触りの本を入手した。
著者は今や時の人とも言える街下冬葉。いわゆる典型的な成り上がりで、現在は起業した会社のCEOとして雑誌、TVなどでも引っ張りだこである。短気で直感で動くことが有名な彼が、緻密で根気のいるドミノの話をどう解説するのかと、帰宅早々にラッピングを破り捨てるようにページを開いた。
だが、意表を突かれたとはこのことである。理論めいた話が延々と綴られているのかと思いきや、実はドミノは人間だったのだ。
中卒で就職し、その後、管理職となった彼がヘッドハンティングされ、今やCEOだ。つまりこれは伸し上がるためのバイブルと言って良い。係長、課長は軽いジャブ程度で、部長はもとより女性についても書かれている。
その蹴落とし方のノウハウは時に恐ろしくもあり、思わず本を閉じたほどだ。
面倒見のいい上司に騙されるな。思わず殴りたくなる使える上司とは。上司には奢ってやれ。良い女でも足をすくわれるから注意。使えるブスは傍においておけ。どの章も読みながら唸り声が出た。そしてまるで洗脳されたかのように力が漲ってくるのを感じた。
あの傲慢な係長は簡単に引き摺り下ろせた。つい記憶の隅に焼き付いている顔が浮かんだ。これで一冊5,000円は考え方によっては安い。流通量が限られているからおそらく中古市場でも高値がつくだろう。それが今の私にとっては本の内容よりも救いに感じられた。
昼飯を食うことも忘れてひたすら読み続けた本を閉じると、私は正常値以下に落ちた鼓動を感じながらため息を漏らした。40年、いやせめて30年前に出会っていれば、人々が働く時間に縁台で爪を切ることもなかったのではないか。愛想をつかして出て行った女房がサイフォンでコーヒーでも入れてくれたのではないかと。
面白い本には違いなかったが、遅かったよ街下さんと一言呟いた。
「正しいドミノの倒し方」それは遅かれし道標だった。 ちびゴリ @tibigori
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