第9話 クーデター
「では、次の議題ですがポーランドへの義勇兵派遣についての議題です」
厳かな議長の声に相反して議会の場は響めいた。
「よもや青年将校どもの口車に乗せられたのではあるまいな!?」
「話の出どころはファシスト勢力という話もあるが!?」
「このまま座していては我々もナチスに呑まれてしまうぞ」
採決を取る前にすでに各派閥の議員たちは騒ぎ始めていた。
議場が慌ただしくなっている頃、ストックホルム旧市街地のガムラスタン地区、中世の趣を残す古い石畳をいくつもの軍靴が踏み締めていた。
「第一班は議場を、第二班は王宮を制圧しろ!!二班は衛兵との戦闘が想定される!!気を引き締めていけ!!」
「「「了解」」」
三集団に分かれたスウェーデン王国軍の青年将校及び兵卒は、「新生ムンクスカ・コーレン」を名乗るクーデター部隊に所属する者達だった。
「何者か!?」
王宮の敷地内に侵入したクーデター部隊に対し衛兵が誰何するが帰って来たのは乾いた銃声だった。
「敵襲!!王宮を死守しろ!!」
外壁を挟んでの戦闘が始まった。
クーデター部隊の放つスオミkp/-31の銃声に混じって衛兵の放つモーゼルボルトアクションの銃声。
片や弾幕による面での攻撃、片や精密射撃による点での攻撃。
王宮の外壁を挟んで銃火を交える両勢力は、しかし確実に死傷者を出し続けてている。
「手榴弾、投擲!!」
クーデター部隊の兵士達は手榴弾による状況打破を図る。
外壁の内側にいる衛兵を巻き込んで外壁が崩れる。
「援護射撃、初め!!他の者は突撃!!」
何人かが外壁上に対して絶え間ない弾幕を貼る。
その合間を縫って二十人あまりの兵士たちが外壁の崩れた部分から中へと飛び込む。
腰だめ撃ちによる接近戦であっという間に衛兵達は物言わぬ屍と化した。
「国王陛下及び御家族の身柄を押さえろ!!」
彼らは勢いそのままに王宮へと突入していくのだった。
◆❖◇◇❖◆
一方のリクスダーゲンに突入したクーデター部隊は苦戦を強いられていた。
「一人たりとも生かすな!!国家転覆を図る売国奴どもだ!!」
議事堂内に立ち入るや彼らを待ち受けていたものはバリケードだった。
「どうにか間に合ったらしいな」
「後は無事に収束するのを待つばかりです」
リンドホルムとハンソンは議事堂を抜け出す車の中、後ろに響く戦闘音に耳を傾けた。
そして橋の上で彼らはソーダーマンランド連隊の第一戦車大隊とすれ違う。
砲をボフォース社製37ミリ対戦車砲へと換装したランツヴェルクL-60が橋を一列で走行していた。
「暴徒鎮圧には少しオーバーすぎるな」
リンドホルムは苦笑いしながら言ったが彼はクーデターに加担した青年将校及び兵士達を生かしておくつもりはなかった。
情報漏洩を防ぐという観点だけでなく国内で政治的、軍事的或いは思想的工作をさせないためにもナチズムのみならず共産主義者も一掃したいというのがリンドホルムの考えだった。
【本格戦争小説】北欧帝国戦記〜バルト帝国の残光〜 ふぃるめる @aterie3
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