人生の塔

滝敬

「僕」の章 其の1

僕は不幸な人間だ。親には愛されず、兄弟にも嫌われている。しまいには2年間好きだった女子にも振られた。僕以上に不幸な人間がこの世にいるだろうか-いるはずがない。今この世でいちばん不幸なのは僕だ。いや、「今」という表現は正しくない。この状況が変わるわけが無い。僕はこの先も、死ぬまでずっと不幸なままだ。死ぬ事が唯一の救いとでも言うべきか。いっそこのまま死んでしまいたい-そんなことを考えながら歩いていた。いつも登下校に使っている道。同級生たちも沢山いる。僕は、彼らが不幸な僕を笑っているような気がしてならなかった。今にも彼らが僕のことを指さし、大声をあげて笑うのではないか、そう思った。だから僕は、いつもは使わない細道に足を踏み入れた。方向的には合っている、こっちからでも行けるはずだ。そう思っていた。しかし甘かった。すぐに行き止まりにぶつかり、引き返そうかと思った。しかし今引き返せば、さっき僕のことを笑っていたであろう同級生たちに鉢会ってしまう。そうなれば、彼らが僕のことを笑うのは避けられない。そこで少し待っていれば良かったのかもしれない。しかし行き止まりになっていた塀が目線くらいの高さだったのと、そこが薄暗く、すぐ立ち去りたかったのも相まって、僕はその塀を登り、急ぐことに決めた。

 近くにゴミ箱があったため、塀には意外と簡単に登ることが出来た。そこから、塀の上を自分の家に方に移動して行った。何度か曲がり、しばらく進むと開けた草むらのような場所に出た。中々広い所だ。広いだけに、周りが塀だというのは変な感じである。周りと言ったが、四方という意味では無い。今飛び降りた塀と、右と左の塀は見えるのだが、向かって正面の塀は見えないのだ。少し怖くなり、引き返そうかと思った。しかし、途中で塀が2ブロック分くらい高くなったのと、ゴミ箱のようなものも近くにないので、塀を登ることは出来なかった。仕方なく正面に進むことにした。

 10分は歩いただろうか。すこし疲れてきたが、正面の塀は見えない。さすがに気味が悪くなり、走り出した。5分ほど歩いた時だった。何か正面にあるような気がしたので、目を凝らして見てみると、それが塔のようなものだということに気がついた。あそこに行けば、誰かいるかもしれない。そう思い、僕は走り出した。

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人生の塔 滝敬 @takitakashi

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