妄想系ワナビ男子、魔法少女に懐かれる

夏川冬道

第1話

 葛西航は中二病を患っていた。彼は夜な夜な秘密のファイルに自分自身をモデルとした主人公が活躍する妄想小説を書き綴っていた。その小説の中で航はマスターマインドの異名を持つ世界最強の一角を担う魔術師で向かうところ敵なし、ヒロインにモテモテのチート主人公として世界に名をとどろかせていた。しかし、現実世界の航は姉の美優に頭が上がらない普通の高校一年生に過ぎなかった。

「航、今からコンビニにってきて私の代わりに電池買ってきて……電池代はちゃんと渡すから」

「電池ぐらい、姉ちゃんが買ってくればいいじゃない」

「私、今映画を見てるのに忙しいの……わかったらとっとと行け」

 美優は不機嫌そうなオーラを放っていた。こうなっては航にどうすることもできない。美優から渡された電池代を手に家の近所のコンビニに向かうのであった。

「まったく、姉ちゃんったら人使いが荒いんだから」

 航は、ブツブツと愚痴を言いながら電池を買うためにコンビニへの道を歩く。しかし愚痴を言ってもしょうがない。航は頭の中で妄想することで気を紛らわせることにした。今日の妄想は何にしようか? 海底より襲い掛かる邪神の信徒。それに立ち向かう我らが最強魔術師マスターマインド。地球の運命を決する戦いが始まろうとしていた!


◆◆◆◆◆


「あっ、航お兄ちゃんだ!こんなところで会うなんて奇遇だね!」

「この声は瑞葉ちゃん?」

 航は妄想を中断して声の方を振り向くと、航のマンションの向かいに住んでいる星崎瑞葉、小学5年生の姿があった。

 星崎家とは去年の春に引っ越ししてきてから葛西家と何かと交流を続けていて、航と瑞葉は以前から顔見知りだった。

「瑞葉ちゃん、実は姉ちゃんが電池を買って来いと言ってきて、それで電池を買うためにコンビニに向かっているんだ」

「ふーん……ねぇ、航お兄ちゃん! 瑞葉も一緒にコンビニについていってもいい?」

 瑞葉の提案に航は少し思案した。

「……ま、まぁ、瑞葉ちゃんがいいのなら一緒にコンビニについていってもいいけど」

「やった! 航お兄ちゃん、瑞葉にジュースをおごってよ」

「仕方ないな」

 こうして葛西航と星崎瑞葉は一緒にコンビニに向かった。


◆◆◆◆◆


 マンション近くの小さなコンビニ。航はさっさと目的の電池を買い物かごに入れ、瑞葉とジュース売り場に来ていた。

「瑞葉ちゃん、ジュースは何がいい?」

「そうだな~、瑞葉、チェリオを飲んでみたいなぁ」

「わかった……それにしようか」

 航はチェリオを棚から取り出し買い物かごに入れた。ついでに航は自分用のレモンコーラを買い物かごに入れた。油断も隙も無い二段構えである。

 航は一連の作業を終えるとレジに向かいしめやかに清算を終えた。そして二人仲良くコンビニを出た。

 コンビニの駐車場の邪魔にならないスペースに立つと航はトートバッグからチェリオを取り出した。

「瑞葉ちゃん、はいチェリオ」

「ありがとう、航お兄ちゃん!」

 瑞葉はチェリオを受け取るとペットボトルを開けて一口飲んでみた。

「うーん、美味しい」

「瑞葉ちゃん、チェリオを選んでよかったね」

 そう言うと瑞葉は笑った。

「さて、瑞葉ちゃん……マンションに戻ろうか」

「そうだね……航お兄ちゃん。一緒に帰ろう」

 そう言って二人は家路を急ごうとしていた。


 その時!遠くの方で爆発音がした!


「いったい何があったんだろう。爆発音とは物騒だ」

 航は混乱しながら爆発音とは何が起きたのかを考えていた。

 ここ最近は奇妙な事件としか説明できない詳細を考えるとなぜか奇妙なもやもやが出てきて深く考えれないそんな感じのふわっとした事件が続いていた。また今回の事件もそれなのだろうと航は思っていた。

 すると瑞葉は焦ったような表情をしていた。

「……瑞葉ちゃん?」

 航は思わず瑞葉に声をかけた。

「……ごめん。航お兄ちゃん。急に用事を思い出しちゃった。だから航お兄ちゃんは先に帰ってて」

 そういって瑞葉は航を置いて走り去っていった。

「瑞葉ちゃん、どうしたんだろう……」

 航は呆然とコンビニ前の駐車場で呆然と立ち尽くしていた。


◆◆◆◆◆


世界には人類に知らない、いや知ってはいけないものが多くあった。その一つは異なる次元からやってくる来訪者であった。来訪者には善良なものもいれば悪者もいた。今、この都市で暴れているものは、残念ながら後者であった。

「グォーッ!」

 咆哮に似た叫び声をあげながら街で暴れまわる怪物、異次元から現れたまさしく悪しき怪物であった。

 「うわぁ……派手に暴れているなぁ、毎度毎度、後始末する身にもなってよ」

 ビルの屋上で怪物が暴れているのを確認した星崎瑞葉は思わず愚痴を漏らす。

「でもこの街を守護するのがわたしの使命だから!」

 そういって瑞葉はペンライト風のものを取り出す!


「マジカル・トランスファー!」


 すると瑞葉の足元から魔法陣が展開!瑞葉は光の柱に覆われる!そして、光の柱が消えると瑞葉の姿は一変、フリフリのドレス風のワンピースに変わっていたのだ。

 暴れ回る怪物はこの次元の生物ではないように、星崎瑞葉もまたこの次元の人間ではなかった。

 彼女が生まれた次元は魔法技術が発達した次元で多次元間移動をも可能なほど技術が発展していたのだ!

 そんな次元で瑞葉は立派な魔法少女になるために魔法少女学校で勉学を重ね、立派な魔法少女になるための試練を受ける資格を得たのであった。そして最終試練とは次元を渡った先の街を守護せよというものであった。だから守護するために地球にあるこの街に次元を渡りやってきたのだ。


変身を完了した瑞葉は魔力により強化された視力で怪物を見据えると、迷いなく屋上から飛び降り空中を駆けた! 街を守る魔法少女と悪しき怪物の死闘が始まろうとしていた!


◆◆◆◆◆


「トゥインクルスタースパーク!」

「グォォーッ!」

 瑞葉の持つ魔法の杖から放たれた光の魔力が凝縮した破壊光線が怪物を貫き怪物は粒子となり消滅した。瑞葉はしめやかに残心した。一般市民は遠巻きに瑞葉と怪物の戦いを見守っていたが、魔法少女の勝利に安堵したようだった。瑞葉は空を飛び人目のつけない場所まで行き誰も見ていないことを確認すると変身を解き普通の女子小学生に戻った。

「……さて、急いで戻らないと」

 瑞葉は急いでマンションまでの帰路を急いだ。空はもう日が沈もうとしている。魔法少女とはいえ星崎瑞葉は女子小学生、遅い時間まで外にいると怪しまれるのだ。しかし、最近の異次元から襲い来る怪物は強くなっているような気がした。これがパワーインフレかと、瑞葉は思いながら歩いていると不意に自転車のベルが鳴った。

 瑞葉が顔を上げるとそこには自転車に乗った葛西航の姿があった。

「……航お兄ちゃん? どうしてここにいるの?」

 瑞葉は思わずなぜここにいるのかを聞いた。

「ネットのニュースで怪物が暴れていると聞いて、瑞葉ちゃんが心配で……ずっとさがしていたんだ」

 その言葉を聞いて瑞葉は思わず笑ってしまった。

「怪物は魔法少女がやっつけたよ……航お兄ちゃんは心配性だね」

「そう……よかった。瑞葉ちゃんがなんともなくて……もしも瑞葉ちゃんに何かが起きたらマスターマインドが出馬することになってたからよかったよ」

 航は胸をなで下ろした。瑞葉は航の優しさを感じた。

「自転車の後ろに乗って一緒に戻ろう?」

 そう言って航は瑞葉を自転車の後部シートに乗ることを促した。

「うん!」

 瑞葉は笑顔で頷いた。


 葛西航は星崎瑞葉の秘密を知らない。しかし、星崎瑞葉は葛西航が優しい人だと言うことを知っていた。だからこそこの街を護りたいという気持ちが強くなったのだ。このまま平和な時間がずっと続けばいいと瑞葉は思った。

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