番外の弐 諾子さんと再びおもとさん
「え、なっちゃん、離婚したの?」
「はい、しましたよ」
久しぶりに会った親友の離婚報告に、弁のおもとは正直、衝撃を隠し切れなかった。
「だって、あんなに仲良し夫婦だったじゃない!?」
「ええ、まあ、幼馴染ですしね」
「そうよね、幼馴染よね?」
「はい」
「幼馴染で、親の勧めで結婚して、何年も仲良し夫婦だったのに何で今更離婚?」
考え直せ、とでも言わんばかりの弁のおもとの詰問に、諾子は曖昧に笑って見せる。
「そもそも、幼馴染だったのが悪かったんですよね」
「はぁ」
「私と則光って、お互いのこと嫌いじゃないですけど、恋人になりたいという情熱もないくせに、家のために結婚した夫婦みたいにちゃんと夫婦としてやっていく義務感もあんまりないというか、半端に情があるけどそれは絶対に恋じゃない、血筋を残すためにしょうがないから夫婦と言うことになりました、くらいの関係だったんです、実は」
「そ、そうだったの?」
「はい。割りと話の合う友達程度ですね、私の中では」
「へぇ……」
「それでもまぁ、特に不満もないんでいいかな、と思ってたんですけど」
「それがどうして離婚に?」
「則光に本命ができたっぽいんですよ。だから、私の家に通う暇があったら歌でも送ってろ! って言って追い出しちゃいました」
正妻としてそれは、普通は有り得ない。有り得ないのだが。
「なっちゃんはそれでいいの?」
「ええ、うちに来る度に恋愛相談されても迷惑ですから」
いつ結果報告に来ますかねえ、と言って笑う諾子は、本気で則光の恋愛を心配しているようで。
まぁ、そういう夫婦もいるか、と弁のおもとはそれ以上追及するのを止めた。
「ところで、最近は何しているの?」
「最近ですか? よく、説法を聴きに出てますよ。良いですよねえ、説法。御坊様の見目麗しいとなお良いですよ」
「あぁ、そう言えば藤原義懐様に言い返した猛者って、貴方だったわね。忘れてたわ」
「猛者だなんて、そんな大したことは……。あのときは、暑くてどうかしてたんですよ……」
「ま、そういうことにしておきましょ。あとは? 毎日説法と、相変わらず書を読んでるの?」
「そうですね……一応、中宮様の御付きの女房の口があるらしいので、父の伝手で申し入れたのですが、難しそうですね」
眉毛をへにょりと下げて、唇に指を宛てる。
確かに、父と言っても既に亡い者の伝手というのは、なかなか難しいだろう。
「……推薦してあげましょうか?」
「へ?」
「私がどこに勤めてるか、思い出してごらんなさいな」
「そう言えば、中宮様の御母上にお仕えしてるんでしたね」
「そういうこと。絶対とは言わないけど、少しは加点になるんじゃない?」
どうよ、と弁のおもとが問うと、諾子は首を横に振った。
「やっぱり、いいです」
「何でよ」
「外の世界とか見てみたいですけど、私みたいな生半可な知識程度の頭の方なんて宮廷にはごろごろいるでしょうし、容姿もよくありませんし、身分もありませんもの。駄目なら駄目で、のんびり書でも読んで暮らしますわ」
次の瞬間、弁のおもとはあああっと叫んで髪を掻き毟った。
「お、おもとちゃん?」
「もう、何だってあんたはいつもそうなの!」
「私が、どうか?」
「言っとくけどね! 私はあんたほど頭の廻る子を知らないし! あんたほど面白い子も知らないし! あんたとなら一日中話してたって全然退屈しないんだからね!」
「それはおもとちゃんが私の友達だからで、中宮様もそう思って下さるなんてそんなこと有り得ませんよ」
「それなら試してみようじゃないの、中宮様がなっちゃんを気に入るかどうか」
「それ以前に、女房として雇われてもいないんですってば」
無理無理、と笑う諾子に、見てろよ、と謎の捨て台詞を吐いて帰って行った弁のおもとは。
次の月、とんでもないごり押しによって、諾子の中宮後宮入りを勝ち取ったのである。
ていしさまとしょうなごんさん 清見ヶ原遊市 @kiyomigahara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ていしさまとしょうなごんさんの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます