7

 俺の連絡で、警察や消防を巻き込んだ大規模な捜索が、開始される寸前で中止となった。芙由香の家に俺が彼女を連れ帰ると、彼女の母親が号泣しながら彼女にしがみついた。芙由香も泣いていた。俺も思わずもらい泣きしそうになってしまった。


 配達バイクの業務外使用と、配達をサボって二子山に向かったことは、人命救助の手柄と相殺され、俺には特におとがめなし、とされた。


 帰宅した俺は自分の部屋で、二子山からの帰り際に芙由香と交わした会話を思い出していた。


 "いい男だったらここにいるだろ、って言わないんだね、明尚……"


 こいつ……俺が言いたくても言えなかったことを……


 "言えるわけねえだろ。俺は自分がハル兄以上にいい男だなんて、全然思えないからな"


 そう言うと、彼女はまた、かすかに笑った。


 "でもさ、そういうのって、明尚自身が決めることじゃないと思うよ"


 ……。


 これって、どういう意味なんだ……?


---


 二日後。


 いつものように俺が芙由香の家に郵便を配達しに来ると、いきなり玄関が開いた。


「明尚」


 芙由香だった。顔色がかなり良くなっている。表情も穏やかになったし、瞳にも輝きが戻った。


「これ……」


 そう言って、彼女は白い封筒を差し出す。


「ちょっと待って。俺、個人宅は配達オンリーなんだ。集荷はしないから、自分でポストに投函してくれよ」


「もう……違うって。ちゃんと宛名を見てよ」


「……え?」


 言われて俺は封筒をしげしげと見る。切手は貼られてない。あて先の住所も書かれてない。書いてあるのは、宛名だけだ。


 田島 明尚 様


「!」


 思わず俺は芙由香の顔を見つめる。


「家に帰ってから、読んでね」


 そう言って彼女は、柔らかく笑った。

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